煽りスマホ
その日私はいつもに増して陰鬱な空気の中にいた。
久しぶりの休暇だったが、昨夜は休み明けにすぐ必要になる書類作成でしこたま文章を書いてて遅くなり、なんとかシャワーだけ浴びて布団に潜りこんだものの、明け方にクソつまらない記憶を呼び覚ます夢を見てそのまま目が冴えた。おまけに外はしとしとと雨が降っている。まあ少なくとも延々文章を綴らなくちゃいけない現実からは解放されてるのが救いなレベル。
そんな日でも煽りをやめない奴がいる。それがヘルスケアアプリ。
初期の頃は健康への意識への啓発も相まって、その意識ははまあ今でも完全に失せてしまったわけでもないのだけれど、許容できてた範囲ですら、なんとなく設定した目標歩数に対しても「今日はいいペースですね」だの「今日はいつもより少ないです」などの世話がすごい。
今日は気が乗らないので家でゴロゴロしていたいという日であっても、やれやれとなんとなく理由絞り出しては外に出たりする。そうなるともう健康のためなのかアプリのためなのかという話だけど、それがヘルスケアアプリの狙いなんだろうことを思うとまんまと操られている。
しかし(たいてい陥りがちなのだけど)目的もないのですぐに気持ち無沙汰になる。おまけに雨も降っている。もう帰ろうかな、ああでも今帰ると目標歩数に達しないな、という輪廻を繰り返す。
雨を避けるようにショッピングモールに逃げこむと沖縄物産展をやっていた。青い空と海を想像する。普段と違う景色ならずいぶん歩けるのにと思う。まあこれだっていつもの(ショッピングモールの)風景とは違うからと、しばらく物色をしてみることにする。オリオンビールのラインナップに少しビビる。
なんとか目標歩数を達せそうなところまでやってきた。因みに物産展では結局何も買わなかった。多分だけど、目標歩数の設定をそれほど大きくしていないのが良いのではないかと思う。なんだかんだ、自分の精神状態と折り合いをつけながら実現できる歩数なのだ。大丈夫、私はうまくやれている。
少しだけ欲を出して夕飯の食材を買うためにスーパーに寄る。これだけで目標に少し色をつけて1日を終わらせることができそうだ、などと考えながら家路を歩んでいるとまさに家に辿り着こうかというタイミングでスマホが震える。
「ショッピングモールのことを書いてみませんか(ジャーナル)」
と出ててヒェッとなった。
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