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パルとポケモンと訴訟とハイブランド志向と海賊


🐑はじめに

この記事は「パルワールドは任天堂と並行して歩む日本の武器だからみんな見守ってあげな」という趣旨で書いた以下の記事の続編にあたる。

2024年9月19日の報道にて多くの国民が知っての通り、ポケットペアは任天堂と株式会社ポケモンから特許権侵害の訴えを受けており、インプレ数と広告収入さえ稼げればウハウハな広告屋や自分の正義を何がなんでも通したい評論家候補生が一斉に「ほらやっぱりな!!!!!」と後出しジャンケンで大声を上げる事態となった。(筆者はこの流れを誰の件とは言わないが複数のあれやこれやで何度も経験しているため、「またか凝りねえな」という面持ちである)

「自分をそんな連中と一緒にするな」と思う人も、「それがどうした人の不幸を飯のタネにして何が悪い」と開き直っている人も、もし心の余裕があるのなら私の話を怒らずに聞いて欲しい。
今日本で起きている「ポケットペア vs 任天堂」の構図は、日本のゲーム会社が日本のゲーム文化を守るためにそれぞれの企業の思惑で活動している「作戦」の結果であり、「抗争」だと思っている人々は勘違いをさせられていると。あるいは勘違いすることにより自らを満たしていると。都合のいいゴシップをお互いにばら撒いて無責任にあらゆる箇所の名誉を棄損しお祭り騒ぎをするような恥ずかしい行動を取っている可能性があるぞ、と。
私も含めて部外者の憶測の域を越えないのは承知のうえで、「そんな単純なことではないと思うよ」というのをここで語らせてほしい。

ここまで聞いて単にムカッと来る人や、「有名人でも権威でもないお前の言うことなぞ信用できるものか」と疑う人は私の言葉が届かない方々になるのでUターンを推奨する。それは個人の選択の権利であり、私が尊重するものである。そのうち心に余裕が出来たら、私がゲームや睡眠を楽しむべきだった数時間を費やして遅刻覚悟のうえで書いた本記事を読んでもらえると有り難い。

🐑争点1:任天堂は権力を誇示して他社を委縮させようとしているのか

この争点については以前の記事にも書いた通り、NOである。主に海外の評論家が主張している論であるという認識だが、任天堂憎し権利ビジネス憎しで親の仇のように教育されてきた思想の人々はそれに同調しているだろう。

前回の記事で書いた内容をおさらいすると、任天堂は「他社の著作物であるポケモンではないもの」を理由にして他社の権利や創造性を剥奪するようなことはしない。基本的には「ウチは独自路線でやってるから邪魔せんといてくださいね」という思想のもとで動いている企業だ。(少なくともシゲル氏の統率下においては)

親子に孫まで含めた3世代にわたる人たちがこのミュージアムに来て、任天堂ってゲームの競合メーカーとか、新しい先端の技術とかとは全然関係ないところにある会社なんだなと思ってもらえるのが一番大事なことだと思っています。

電ファミニコゲーマー
宮本茂氏へのインタビュー記事より

そもそも、任天堂は山内博氏が指揮を執っていた頃から「ウチは喧嘩しても勝てない。競合他社とは勝負しない」というポリシーのもと玩具の技術や遊戯の発明をいち早く商品化し未開の地の開拓者となることに全力を注いでおり、自らが独自路線でかつ先頭であるため他の企業のように「後追い」で開発する必要がない。要はガラパゴスである。
「権利を主張して競合他社を排斥する」という趣旨の制圧は、自らの売りが他社と同等あるいは他社の下位互換であるという意識が根底にある場合にライバルを蹴落とす目的でしばしば実行に移されるものだが、それは実のところ自分と他人を比較する思考パターンに基づき、その遠因に「私には〇〇と比べて××がない」というコンプレックスの自覚がある。ゆえに、独自路線を選ぶ人間には一生縁がない思想なのだ。(比較する相手がいないので)

身も蓋もない話をすれば、任天堂は「任天堂の玩具」を作っているのであって「一般に言われるゲーム」を作っている意識など持ち合わせていない可能性すらある。だからこそ「それウチが発明した玩具と一緒とちゃいます?」だけは筋を通すためにわざわざ出向いて発言するのである。
任天堂は、いかにMicrosoftがゲーム事業に金をつぎ込もうと、SONYがライバル視しようと、UBIsoftが思想を語ろうと、Tencentが買収を画策しようと、どことも競合しない。発明を商品化することが目的であり、発明を行わない企業を排斥する意味がない。GPD WINもSteamDeckもLegion GoもNintendo Switchのデザインを露骨に踏襲しているが、任天堂はその他社の類似デザインについて「Nintendo Switchに類似した機構を勝手に使わないでください」とやかましく問うことはしない。タッチ対応折り畳みダブルスクリーンのゲームができる携帯端末にも特に言及しない。発明しない後追い企業は任天堂にとって「要注意人物」ではあるかもしれないが「ライバル」には成り得ない。

なお、既存の発明を利用または盗用し掟を敷いた中で取り分を奪い合う思想は、海賊のそれに近いことをちらっと記しておく。賊として教育されずっと生きてきた人は、未知の思想や行動原理を知らないまま自身のセオリーを仮想敵に当てはめて「絶対そうに決まっている」と信じて疑わないだろう。

🐑争点2:ではなぜポケットペアは訴訟されてしまったのか

以前の記事にも少し書いたのであるが、ポケットペアの「自らの権利を守る行動」が任天堂および株式会社ポケモンのポリシーに抵触してしまったというのが私の個人的見解である。それは具体的に何ですかと問われれば、次の3点が候補として挙げられる。

  1. 「ポケットモンスター」を明らかに模倣したコンテンツを「自社の知的財産です」と掲げるポケットペアが、「パルワールド」や「ポケットモンスター」を模倣した他社製品について権利を守る行動を怠った

  2. 任天堂と少なからず確執のあったSONYと関係が深い企業と提携し、権利を守る行動として団体を立ち上げた→株式会社パルワールドエンタテインメント

  3. 「類似のゲームシステム」を採用していることを互いに理解しながら、利益や立場が大きくなったときにどういった約束とするかを事前に話し合っていなかったか、約束を反故にするような行動を取った

🐓(1)ポケットペアは「パルワールド」と一緒に「ポケットモンスター」を守ろうと思えば守れた

1については、今回の訴訟の最も大きな狙いとなる部分である。任天堂はポケットペアに手を焼くよりも先に某国を中心とするパクリゲーおよび海賊版の対処に膨大な手間と準備をかけているのは周知の事実であるが、パルワールドが生まれたことで某国に「ポケモンを直にパクるか、パルワールドをパクって間接的にポケモンをパクるか」という選択肢を与えてしまった。

これについてポケットペアはむしろ「某国の皆さん私たちのパルワールドをパクるのはやめてください」という顔をすべきであったというのが私個人の見解である。このような態度を溝部氏が取るとそれはそれで「ポケモンのパクりが何を言ってるんだ」と声を荒げる日本人が出てきてしまうのだが、それ以上に黙って放任してきたことで大先輩である任天堂から「どうして自分たちの知的財産が侵害されているのに法的手段に出ようとしないの」と突かれる滑稽な事態となってしまったのが現状であると私は見ている。

つまり、私の推察が当たっているなら任天堂は日本のゲーム文化をこれ以上侵害されないために「あなた方がやらないなら私たちがケジメをつけさせてもらいますよ」と動き始めた。付随的にポケットペアが大先輩に叱られるような構図となってしまっているわけだが、それはあくまで競合製品を排斥しようという目的ではなく「自分の身ぐらい自分で守れ」という叱咤激励であるとともに「間接的にパクリゲーが乱造されてしまっている現状の責任を取ってください、お分かりですよね」と事態の清算のために行動を求めているものと思われる。溝部氏にとっては心外だとショックを受ける内容であるかもしれないが、「あのパルワールドが制裁されたらしい」という事例を作ることで某国の海賊ビジネスに歯止めがかかる事は明白であり、首尾よく示談、和解と進むのであれば任天堂とポケットペアが協力体制を組むことも将来的には可能であろう。この記事の公開後にそう好転しなかったとすれば、日本経済にとっては悲しい出来事であり、ポケットペアが「わるあがき」によって自滅してしまったという後味の悪い結末を迎えたということになる。可能ならそれは避けてもらいたいものだ。

🐓(2)ポケットペアは任天堂と仲良くなるルートを選ぶこともできた

2についてはゲハ戦争時代の話をまた蒸し返すような話題であるが、任天堂とSONYグループには少なくとも無視できない確執がある。任天堂がポケットペアに直接その確執をぶつけるようなことはないとしても、ポケットモンスターをモロに元ネタとして置きながらよりにもよって任天堂と仲が良いとは言えない企業の傘下なり親戚なりと提携し身を護る体制を整えた一連の行動に関しての心象は最悪極まるだろう。決して私情や私怨で訴訟が成り立つわけではないが、ポケットペアは任天堂とお友達としてお付き合いするルートのフラグを自ら折ってしまったように思える。

🐓(3)ポケットペアはポケモンに「ありがとう」と言うチャンスがあった

3は2とほぼ同じ話だが、「あなた方のおかげで〇〇円儲かってしまったので何かお礼がしたいです」というご挨拶や根回しの類を行っていたなら任天堂も義理を重んじてくれてただろうな…という推察である。これは日本の文化的な側面もあるが、「ウチのゲームエンジン使うんなら、〇万ドル以上儲けたらマージンちょうだいよ?」と謳う欧米各社の方針と社会のルール的には同じである。

あなたが仮にポケモンを参考にしてクリーチャーコレクターの新作ゲームを発売し、うっかり5000兆円儲けてしまったとしよう。任天堂が特に目くじらを立てていないとしても「いやこれポケモンのおかげなんで…」といくらか還元したい気持ちはほぼすべてのクリエイターが抱くはずである。仮にビタ一文渡す気がないとしても「なんか言うとかんと後で何言われるかわからん」という漠然とした不安には必ず襲われる。(それがつまり「スジを通す」ということでもある)

そんな80年代のVシネマでしか描かれないようなドキドキ一攫千金綱渡りのサクセスストーリーをポケットペアは引き当ててしまったため、その後の行動を問われることとなった。後ろめたい気持ちがあるがゆえに、全くクッションを置かなかったのだとしたら、任天堂のほうから「そろそろ声かけますか」と出動されてしまうのは道理だと言える。もし事前に適切なやり取りが行えていたならば、それこそ訴訟までいかずに表沙汰にならない「御礼」として、最低限の約束や契約が交わされ良い関係を築けていたかもしれない。

このそれぞれの推察はあくまで個人の予想の範疇であり、正確なところはわからない。それどころか正確なところがわかってしまった場合、隠していた目論見が露わになって計画が台無しになってしまうかもしれない。だから、表向きには一般の人々が思い描く通りの報道が続く可能性はある。
だが、任天堂が株ポケと一緒にポケットペアへ行動を促すことに対し、任天堂側のメリットはそこまで多くない。野次馬の私たちは「誰が何から何を守ろうとしているのか」をしっかりと見据えて恥ずかしくない行動を取り、ツッパニャンとピカチュウが勇ましい顔で手を組んでいるアツいシーンをこぞって描くべきだろう。

🐑あとがき

本記事は本来、日本の中に社会的な病気として蔓延る「私と私たちのブランドは守られるべきだ」と自分の権利でもないのに声を荒げて攻撃するハイブランド志向の声が強まっていることに危機感を覚えたためにそのうち書こうとしていた警鐘記事だったのだが、あまりにも周囲で様々な声が上がるため急ごしらえで「わかる人にはわかる」体で投稿させてもらった。あっちゃこっちゃで広まるプロパガンダやハルシネーションに「異議あり!!」を突き付けるための記事ではあるが、政治的、宗教的、また社会的な活動を煽るものではない。また、所詮は個人の意見であるため別に信じなくてもいい。私に政治的意図はない。

私たちの日本社会は80年代、90年代のバブル期を経験してきたがゆえにだいぶ狭い視野でモノを語り合う酷い社会となっており、世の中を経験してきたと自慢気に語る40代~50代のおじさま方すら「今日本は貧乏なのか裕福なのか」「日本が大事に守ってきた知的財産はどこに通用するのか」を理解できていないような有様だ。本日交流があった別業種の社長さんは、日本では絶対的高評価を誇っているモンスターハンターシリーズやドラゴンクエストシリーズについて「欧米ではまるで評価されていませんよ」という過去の事例をお話すると「そんなバカな!」という驚きを語っていた。私たちを取り巻く環境は私たちが思っている以上に閑散としており、また「社保倒産」というワードが生まれ出すほどに国家が中小企業を潰してでも金を工面しようとする体制にすでに入っている。

そんな中、生成AIだ著作権侵害だ海賊版だとやり玉に挙げて大規模なデモ行進を行い、大企業や有名人の膝元で自分たちの自己を拡大し「我々の価値を認めろ!地位を汚すな!」と主張することに何の意味があろうか。私たちの社会に根付くハイブランド志向は今や怠けるための理由として機能しており、新たなオリジナルを生み出す活動、新たな発明を商品化する活動を拒否している。その何十年か越しのツケが私たちの眼前にやってきた。今、日本人は偉くない。かといって海外の有名人も別に偉くない。ポケモンが正義だ、パルワールドは悪だ、いや逆だお前はわかってない、なんて語ってみせたところで、余所の海賊たちにはどちらも奪うべき資源であって関係がない。そんな環境下で国家はどうしているかと言えば、「税金を納められないならば死ねい!!」とすら言ってくる。今、日本はオリジナルを発明する能力をほぼ失くしている。

なので、なんだかダラダラと取り留めもない話を書いてしまったが「世界に通用するMADE IN JAPANブランドが奪われる」という妄想からは早く抜け出して「自分たちが何もないところから発明する」という意識を持ったほうがよい。その意識がない人たちは、あまり大きな声をあげずに発明家たちが何を作ろうとしているのかをじっくりと眺めてほしい。

プラスキーというのがジョイパッドのスタンダードの原型になって、それがファミコンにもつきました。スーパーファミコンではLRボタンがついて、ニンテンドウ64でアナログスティックがつく。Wiiでモーションコントローラーとかポインティングとか色んな技術を足していった。

これらはほとんどが世界初です。少なくともゲーム機では初めてです、というのを僕らのプライドにしているので、よかったら見ていってください。

<中略>

好きな人の働いている京都で、周りに踊らされずに自分たちの信じるものを作り、結果としてそれが世界中でけっこう売れている。そうすると、自分たちの一番内部にあるものがグローバル。グローバルって言われてるものは別にグローバルじゃないじゃないか、と。今はもうそれを若手に吹き込んでます(笑)。

電ファミニコゲーマー
宮本茂氏へのインタビュー記事より

2024年10月9日 Alarmo発表


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