3行日記 #221(枝豆の鞄、花梨、白猫と黒猫)
十月六日(日)、晴れ
朝、ひとりで起きる。昨晩、妻は明日の朝が早いからと言って、実家に泊まった。きょうは地元の小学校の運動会があるのだ。残っていた食パンを冷たいまま囓り、牛乳をカップに注いで飲んだ。茹で卵をつくった。茹で時間は九分にした。伯父さんからもらった餅も食べた。
午前、妻とおばあちゃんを追って運動会へ。校庭では子どもたちが運動場を駆け回っていた。奥にたくさんの人が並んでいる。先日から右膝が痛むので走らないつもりだったが、いざ校庭に来てみると、走ってみようかなという気分になり、列の後ろに並んだ。どこからか声が聞こえる。声のするほうを見ると、黒いキャップをかぶった身軽そうな妻の姿があった。手を振り返す。宝釣り競争という、ゴールの手前に景品がある競技に参加しようと並んでいたのだが、私の何列か前で景品がなくなってしまい、あきらめて退散した。ある組のとき、たくさんの走者が景品をとってすでにゴールをしているのに、次のレースがはじまらない。おかしいなと思いながらあたりを見渡すと、トラックの向こう側で手押し車を押しながら、おばあちゃん三人組がとことこ歩きながら、笑顔で声援を受けていた。妻は二着に入り、ゼリーを手に入れた。妻の実家の町内は今年も私たち三人以外には誰も来なかった。
帰り途、道端にムラサキツユクサと秋桜が咲いていた。ものすごい鋭角の三叉路に、ほぼ尖っている石壁があった。歩いていると、先ほどの宝釣り競争の景品を自転車のかごに入れた父と娘の親子を見かけた。父の背中には枝豆の鞄があった。店の軒先に水が張られているところに鴨の置物が飾られていた。昔チャックが水の中に足を浸けてビビったところだ。印刷屋さんの前を通るとシャッターが開いていて、オウムのなっちゃんも軒先に出されていた。ちょうど小学低学年くらいの子どもたちの集団に囲まれ、いろいろ話しかけられていた。なっちゃんは籠の柵を足の爪で掴み、低い声で何かを喋っていた。きょうは久しぶりにGRのカメラを持ち出した。こんなに事細かく日記をつけるのは、カメラを持っていた影響もあると思う。久しぶりに散歩の感度が高い。
昼、妻の実家でにしんそば、蜜柑、餅。食後に日曜恒例となった読売新聞の数独をした。先週よりも速くなった気がする。
午後、排水溝の点検を終えてから、北へ散歩。緑色の大きな実をつけた木があった。後で調べてみると、花梨の実だった。先日立ち寄った、通りに石榴の実がなっている、元理容室のレトロな建物でいまはギャラリーになっているところを訪ねた。この前はそこでポップな靴下を買ったのだが、その靴下をつくっているグループのポップアップを今度やるからまた来てね、と誘われていたのだ。なかには、靴下に加え、小銭入れ、長財布、長袖の洋服があった。どれも靴下と同様ポップな色づかいだった。
さらに北へ歩いていると、急に道端に白猫が香箱座りをしていた。私と妻が近寄ってもまったく動じない。すると、となりの古めのアパートの奥から、べつの猫の鳴き声がする。見ると、瓦屋根の上を黒猫が歩いていた。やがて、黒猫がこちらにやってくる。白猫と黒猫は顔見知りのようだ。ふたりでニャーニャー鳴き交わし、会話をしている。そんなようすに見とれていると、後ろから、すみません、と男性の声がする。アパートの住人が戻ってきた。男性は赤いママチャリを駐めて、アパートの一番手前の部屋の扉を開けた。黒猫と白猫が男性のくるぶしの近くにすり寄り、そのまま部屋のなかへ入った。高架下の脇の儀式の跡に寄ってみると、空き缶のいくつかが倒されていた。妻が大型スーパーのなかの百均による。近くの公園に、現役を引退した市電があった。側面には集会所と書かれた看板が掲げられている。窓の外から覗くと、地蔵盆の名残のような物が見えた。机と椅子も並んでいる。公民館みたいな役割のようだ。水面から首をのばすネッシーみたいな遊具があった。
夜、牛肉と春雨の炒め物、南瓜や小芋、豆の煮物。煮物はおばあちゃんがつくってくれたらしい。久しぶりにおばあちゃんの料理を食べた。優しい味付けでおいしかった。食後の会話。妻がもうすぐ五歳やな、というとおばあちゃんが、五歳か、胴体ばっかりでかなって……でぶ、……この犬種にしては大きなって……と言い直していた。チャックの散歩、今夜もお祭り会場へ。紐をひく力が強い。北側の出口の近くの臨時の駐輪場に、ハンドルにひよこがたくさんついた自転車があった。そのまま北へ歩いていたのだが、再び南下して神社のほうへ向かおうとする。神社の外の道をぐるっと大きくまわって帰宅した。
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