3行日記 #191(蹲る男、ひじき、改装工事)
六月一日(土)、晴れ
小満、麦秋生、むぎのときいたる、麦が熟して畑は黄金色になる。
小満、躑躅照大、つつじおおいにてらす、ツツジがあたりを明るく照らしている。
午前、出町から高野へ川沿いを歩く。
昼、高野から一乗寺へ。
夕方、男が蹲っている。洋菓子屋の前。顔は見えない。白髪の長い髪、全身黒めの服。店から男性の客がケーキの箱を抱えて出てきた。男の存在を知ってか知らずか、足早に去ってゆく。男はしばらくすると立ち上がり、ふらふらと歩き出した。茶色のサンダルはかなり履き古したもので、切れたベルトが興奮した蛇の頭のように、歩くたびに動いている。電柱の前に立って頭をこすりつけている。しばらく本屋に入ってから外に出ると、少し離れた路地の交差点の隅に、先ほどの男性がいた。マンションの生け垣の前に座りこんだ。葉っぱを観察しているのか。目をつむっているのか。
児童館の裏を歩く。部屋からバスケットボールが弾む音とシューズの裏のゴムがキュッと擦れる音が聞こえる。曲がりくねった〜♪ 大声で歌っているのが聞こえる。茶山から一乗寺のあいだには三叉路がたくさんある。きょうから三叉路の角の土地の写真を集めることにした。
最寄り駅。ひとりの男が降りるのに備えて、電車のドアの前に立ち、ドアが開いた瞬間にすぐ降車する。早足で階段をくだり、交通系カードを殴るように押し付けて改札を抜け、足早に去っていった。カルディへ行くと、先ほどの男がいた。珈琲を配っている女性の横に突っ立っている。珈琲の紙コップをもらい、店内に入ると、近くの棚をそそくさと一周だけして飲み干し、すぐに店を出ていった。狭い店内、ほかの客を煽り、押しのけるように、早足で出ていった。
夜、昨日の残りのポトフ、トマト、バナナ。箸置きの顔にひじきを乗せたら、凛々しい眉毛とダリの髭みたいになった。燕の巣のビルの改装工事がはじまるのか、フェンスに覆われてしまった。巣の前には重機が置かれている。物々しい状況。心配したが巣はまだ残されていて、一匹だけが休んでいた。もう一匹は不動産屋の前にいた。チャックの散歩、晴れているのにガード下へ、公園をかすめてぐるっと回り、神社を抜けた。ねこおじの光に照らされて帰宅した。