3行日記 #206(横断幕、迷い犬、エレベーターの争い)
七月十九日(金)、晴れのちくもり
小暑、鷹乃学習、たかすなわちわざをならう、今年生まれた鷹が飛翔の練習を始める。
小暑、甜瓜黄也、てんかはきなり、マクワウリは黄色。
少し前に、地元の商店街にとある横断幕が掲げられた。近くの小学校の卒業生がオリンピックに出場するから、みんなで応援しよう、という報せだった。聞いたことのない名前の選手だったが、せっかくだから応援しよう、オリンピックを観るたのしみも増えるなと思っていた矢先、どたばたとその選手の出場がとりやめになってしまった。思い返せば、数日前、商店街を歩いているとテレビカメラを持ったひとたちがいて、なにかの番組の取材かなと通り過ぎたことがあったのだが、いまにして思えば、その横断幕を撮影し、出場とりやめのニュースの映像を撮っていたに違いない。なじみの喫茶店では、通りに面したカウンター席をいつも陣取る三人組のお年寄りたちが、その話題で盛り上がっていた。なかのひとりのおばちゃんが声を荒らげていた。
夕方、ひとりの女性が喫茶店にやってきて、前の席をのぞく。席のすみにあったビニール袋を拾い上げ、視線をあげて隣の席のひとに目配せ。互いに口元に笑みをうかべあって、言葉を交わすことなく店を後にした。忘れ物をとりにきたのだろう。
夜、豚丼、朝の残りの味噌汁、果物ゼリー。これまで見たことのないほど、薄い容器に入ったゼリーだった。チャックの散歩、商店街のほうにむかったので、すぐに左の路地におれて南へ。ぐるっと回って北に戻ると、コンビニの駐車場の近くで、とつぜん、男女の夫婦に声をかけられた。あの、すみません、朝七時くらいに、散歩、してましたでしょうか。深刻な面持ちで、紙の束を握りしめている。渡された紙の一枚を見ると、迷い犬、と書かれていた。犬種:イタリアングレーハウンド、年齢・性別:8歳、メス、特徴:とてもビビりで近づくと驚いて逃げてしまうので驚かせず、近づかずご連絡いただきたいです。下に連絡先が書いてあった。家に戻り、エレベーターのボタンで争っていると、同じ階のおじさんが、急にぬっと現れて、驚いた。