【随筆/まくらのそうし】 ハゼノキ

 焚き火をする一斗缶の、その脇にある細い薪を、触られんと止められれば、なぜと老人に聞き返す。

 曰く、それはハゼノキで、漆の木と同じよう、触れればかぶれる、道端にぽつんとあったのを、子でも触れれば危ないと、切ってきたのだ、と。

 知恵に感謝、ありがたいこと、その日はそれで帰途につき、翌日、そこを通りかかると、真っ赤に顔の腫れ上がった、よくよく見ればあの老人。

 どうしたのだと尋ねれば、昨日のハゼノキ、切るには切ったがもったいないと、焚き火にぽいと放り込めば、もくもく上がるその煙、すぐに顔が、首が、体中が痒くなり、一晩経ってこの通り、人相が変わったものだと言う。

 ハゼノキは燃されんぞ──触られんぞと同じよう、きりっと厳しく老人は言うが、その赤く腫れ上がったご尊顔、どうも形無しなのだった。

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黒澤伊織@小説
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