「訪日オタク」という存在(あるいは趣味は国境を超えるという話)
「あなたは夢の中に住んでいる」
家に泊めたジョナサン(アメリカ人)が朝起きて発した言葉の意味を、寝ぼけ眼の私は図りかねていた。まだ日本語がたどたどしいジョナサンが言葉の意味を取り違えたのか、それとも私が寝ぼけて聞き間違えたのか?と考えあぐねていると、さらに彼が言葉を続けた。
「中野や秋葉原に30分で通えるなんて、夢なんですよ」
地方都市に住んでいた彼を家に泊めたのは、秋葉原に買い物に行きたいとのことだったので、宿泊費を浮かせてその分買い物に回せると誘ったのだ。彼はいわゆるオタクでそれが高じて日本に移り住んできたのだが、さすがに秋葉原に簡単に通えるわけではないため、この日の買い物はすさまじかった。秋葉原に着くなりまるで宝島にやってきたかのように入念に宝探しを始め、浮かせた宿泊費で大量の買い物をして帰って行った。
ジョナサンを始め、二十数カ国から来日した「訪日オタク」とねとらぼの取材を通じて話を聞いてきたが、はるばるやってくるだけあって皆想像以上のオタクぶりだった。
しかし、これは何もオタク趣味に限ったことではなく、私たちもビートルズが好きであればロンドンのアビーロードの横断歩道に一度は行ってみたいだろうし、シャーロキアンならばベーカー街がそれであり、オペラが好きならウィーンの国立歌劇場、ミュージカルが好きならニューヨークのブロードウェイなのだ。かつて総理大臣だった小泉純一郎が訪米時に、彼の愛するエルビスプレスリーの家を訪れたのは記憶にあるだろう。
かくも趣味というものはその行動に多大な影響を及ぼしており、日本を訪れるモチベーションの一つがオタク趣味というだけのことなのだ。じつはこれものすごいことなんだけど、あまり気が付かれていないようなので、このシリーズを続けます。