何も出来ないから、人のありがたみを知った時
精神科に入院した時の事、本当に取り留めない事になるのだけど、また一つ書いておこうと思う。
挨拶したかった人
いつも私の事を気にかけてくれた、看護師のMさんは、若くて元気のよい看護師さんだった。
看護師になって2,3年くらいだったのだろうか。
他の看護師さんは、優しくもあり、だけど淡々としたところもあったけど、Mさんは元気な新人という感じで、私が沈んでいる時も元気に声をかけてくれていた。
たまたま、あとで話そう!と言われた日に別な患者さんが騒動を起こしてしまい、話せなかった事があって、ごめんね、と言われた事も…。
Mさんのせいではないのに、済まなそうにしてくれた。
退院する日にお休みだったので、挨拶できなかった事が残念に思っている。
今も看護の現場にいるのだろうか。
新しい生活への準備期間
Yさんは、上品なおばあさんでよく家の話をしていた。
話題は旦那さんや自宅の話が主だった。旦那さんは亡くなっていたのだけど、前はよく二人で出かけたりしていたと話していた。
夫婦二人の生活が長かっただけに、一人で暮らすのに時間がかかる面があったようで、調子を崩して入院する事になったらしい。
二世帯住宅のお子さんは仕事がとても忙しいらしく、なかなか会えないようだったけど、新しい生活に馴染めるように、先生が家族と連絡して、家の中を色々調整してるようだと話していた。
調整が済んだら、お子さんともう少し緩やかな繋がりができるようになるのかな、と思って聞いていた。
こんな風に入院している人は、Yさんのように新しい生活までの準備期間の人もいた。
色々な環境の人
準備といえば、Tさんの事を思い出す。いつもジャージ姿のおばあさんで、前歯が抜けていたけど、よく笑っていた。
生活が不安定なので、アパートを探していて申請書を出すまで入院している、という事だった。程なくアパートが見つかって、退院していった。
入院している人の中には、申請を出してアパートを探している人がもう一人いた。
私より僅かに年上だったと思うけど、いつも穏やかなおじさんで、煙草が趣味だった。院内では吸えないので、よく外出許可をもらって病院玄関で煙草を吸いに行っていた。
この方は退院後の通院で会う事があって、少しだけ挨拶できた。
病院の中には色々な環境の人がいたけど、話すとどこにでもいるような方だった。
不思議な人?普通の人?
入院している人の中で、水をペットボトルに何本も沢山貯める人がいた。
聞くところによると、あまりに貯めて先生にも注意されたらしい。
たぶん、水がないと不安なのだと思う。
私も入院してから判ったのだけど、人は水を飲むと不安が薄れるらしい。
何か手が付かなかったりする時、コーヒーを飲んで一息つくように、飲むという行為は、人を不安から遠ざけけてくれる。
だから、水をいっぱい貯めていたかったのかなと思っている。
いつも気持ちを落ち着けたいからペットボトルを水で貯める。
いつもコーヒーで一息つきたいからコーヒーメーカーを買う。
何だか考えると、普通の定義がよく判らなくなってくる…。
とはいえ、人が飲める水の量は決まっているし、限度を知らないから入院していたのかな。
普通って何だろう…とふと思ってしまう。
そういう感じが、院内だった。
個室での暮らし
最初に緊急入院で入っていた個室は不思議な感じだった。
ドアが閉められているので、外の世界とは違う時間が流れている感じ。
カプセルの中に入っているような、宇宙船で暮らすのってこんな感じ?みたいな感覚があった。
もともと、ドアから出ようという気も起きなかったし、点滴をしている間は眠っているので、病室にいるのが1週間なのか、時間すら判らなくなっていた。
マットと看護師さん
そういえば運ばれた時、看護師さんが病室の壁にガムテでケーブルをバリバリ貼っていた。
何しているんだろう?と思ったけど、あのケーブルの先は私のベッドの横にあるマットにつながってるらしいと、後になって気づいた。
ケーブルは長くて細い物なので、壁に貼られたんだと思う。
マットにはセンサーがついていて、ベッドから出たと判るらしく、私がベッドを降りると、すぐに看護師さんが来た。
ベッドから出た時点で、すぐ来る。
最初はなんでだろうー、とか考えてたりしていた。
看護婦さんには、何度も窓から出ようとして、どうして出られないの…と聞いた事もあった。看護婦さんは「出られないんですよ、出られないようになっているの。」の答えてくれた。
窓は5センチ位しか開かない。
入院した病室は、眺めがよい8階(だったはず)。
そんな状態だったから、ベッドから出るとすぐ看護師さんが飛んで来るのも今では判る。
あとは、食事も取る事が出来ないしで、看護師さんにはとてもお世話になった。
人の世話になって気づく
記憶のある限り、あんなに人の世話になった事はこれまでないと思う。
本当に何から何まで用意してもらった。
点滴して寝ているだけという生活。
入院すると、自分一人では生きていけないものなんだな、という実感がした。
普通に暮らしているだけでは、自分一人で生きている気になるけど、見えないところで、色々な人にお世話になって生きているんだなぁと思う。
自分で何も出来なくて心苦しい事もあるけど、そんな時に人のありがたみがすごく判る。入院した後は、そんな事を思っている。