熊野古道を歩いて感じたこと
*見出しの写真は那智湾と弁天島
先日、熊野古道を歩いてきました。熊野は自然信仰の地(熊野信仰は自然崇拝が起源)であり、熊野古道を歩くことで何かしら自然について感じられるかもしれないと思ったからです。
紀伊半島南部は温暖で降雨量が多く、豊かな自然に恵まれた地域です。南から湿った風が吹くと紀伊山地にぶつかり風が上昇し雲を発生させます。春から秋にかけては大雨の降る日が多い地域です。昔は林業が盛んな地域の一つでした。
ということで、1年の中でも降雨量が少なく歩くのに適した気温(10℃前後)となる12月の第1週に熊野古道を歩いてきました。熊野古道と言っても色々ありますが、私が今回歩いたルートは熊野本宮大社から熊野那智大社を経由して熊野速玉大社までの約50kmです。
熊野本宮大社から熊野那智大社への道は、ほとんどが山間の暗くて細い道です。しかもいくつもの峠を越えて行くので登ったり下ったりの繰り返しです。杉の植林地の中に道があり多少の木漏れ日はあるものの、晴天の日でも薄暗く白黒の世界という感じでした。
木漏れ日の多い道にはシダや笹等が生えていましたが、木漏れ日が少なく暗い道は苔の世界です。倒木や切り株、石、岩だけでなく生きた樹の幹も苔に覆われています。そして、薄暗い山道を歩いているとこの苔の緑色が映えてとてもきれいに感じました。
基本的には林間の薄暗い道を歩くのですが、見晴らしの良い場所が少しだけありました。下の写真は小雲取越コースの百間ぐらと言う見晴らしポイントから観た風景です。険しい紀州山地の山々が連なっていることが分かります。熊野古道は山々の向こう側、奈良県の吉野や高野山にもつながっています。
百間ぐらを過ぎ更に歩いていると徐々に疲れが出てきました。峠を越えるための長い坂を登っている時でした。汗をかき息を切らして登っている途中、小休止しようと足を止め膝に手をあてました。視界の右隅の方に何か青い光が見えました。視線を右に振りそれを観てみると、木漏れ日に青い花のつぼみが照らされてきれいに光っていました。白黒の世界にきれいに光る青い花のつぼみ、その美しさに感動しました(その後も歩きながらこの青い花を探しましたが見つかりませんでした)。たまたま立ち止まった所で見つけることができて非常にラッキーでした。
1日めは何とかゴールの宿までたどり着きましたが、2日めが今回のウォーキングで最難関の大雲取越というコースです。1日めに比べて距離が長いだけでなく高低差が2倍ほどあります。コースマップには距離14.5kmと書いてありますが、それは地図上の平面距離であり、実際の登り下りの距離はもっとあります。明るいうちにゴールしないと危ないので朝の7時に出発しました。登り坂は登っても登っても登り坂が続き、息が切れるので休み休み息を整えながらゆっくり進みます。下り坂は足を着く石を探しながら転ばないように慎重に進みます(若い人はひょいひょいと下りて行きました)。後半になってくると膝の踏ん張りが効かなくなってきて悪戦苦闘。まさに修行、苦行の世界でした。長距離を歩くことには自信があったのですが、考えが甘かったと思いました。それでも何とか8時間掛けてゴールの那智大社に到着できました(コースマップには、歩行時間=7〜9時間と書いてあるのでまあまあのペースでした)。昔の修験者はこの道を短時間で駆け抜けていたのだろうと思います。余談ですが、疲れた足取りで山の尾根道を歩いていると風が音をたてて吹き抜けました。その時、なぜか自分が木枯らし紋次郎になったような気がして(頭の中では上條恒彦の歌声が流れていました)気合いを入れ直して歩く速度を早めることができました。
3日めの朝、熊野那智大社に参拝し見晴らしの良い所で深呼吸をしました。晴天の澄んだ空気を思い切り吸ってゆっくり吐く。過去2日間の熊野古道ウォーキングを振り返ると日常とは異なる別世界に居たような気がしました。この日の予定(熊野那智大社〜那智駅)は山道を少し下ります(那智大社のすぐ下の大門坂には樹齢800年の大きなクスノキがありました)が、大部分は舗装道を緩やかに下るだけの道でした。山を下りて駅に近づくにつれ、道路を走る車の数が多くなり建物や店が増えてきます。すると何か「俗世に戻ってしまった」という気持ちになりました。神聖な領域から通常の世界に戻ったような気がしたのだと思います。その日のゴール那智駅にはお昼に着きました。天気も良いので午後に電車で紀伊勝浦駅に移動して散策し、見出しの海の写真(那智湾と弁天島)を撮りました。きれいな海でした。
4日め、ウォーキングの最終日。那智駅から新宮市の速玉大社を目指します。大部分は国道を歩きますが、途中何カ所か小さな峠の山道を歩きます。それらの山道は人の手があまり入っていないため昔に近い自然が残されていました。また、海岸線に近い道を歩くのできれいな海を見られるポイントがいくつもありました。
山に降った雨が山裾から谷を下り、山のミネラルや栄養素を含んだ雨水や湧水が川に流れ落ち海に至る。豊かな水の循環があり、山、川、海の生態系を育む南紀にはやはり自然の偉大さが感じられ、人はその自然に感謝と敬意の気持ちを持つべきであろうと改めて感じました。
【参考】ウォーキング記録(全て晴天でした)
・前日 熊野本宮大社参拝、渡瀬温泉泊
・1日め 小雲取越コース(請川バス停〜小口、距離=13km、所要時間=5時30分)
小口自然の家泊
・2日め 大雲取越コース(小口〜那智大社、距離=14.5km、所要時間=8時間)
那智大社近くの民宿泊
・3日め 那智大社〜熊野駅(距離=7.4km、所要時間=2時間40分)
*午後は紀伊勝浦駅へ電車で移動し散策、紀伊勝浦駅近くのホテル泊
・4日め 熊野駅〜速玉大社(距離=14.8km、5時間半)
新宮駅近くのホテル泊
*平日だったこともあり、小雲取越、大雲取越を歩く人、小口自然の家の宿泊者
のほとんど(約9割)は外国人でした。日本人にももっと熊野古道を歩いて欲しい
と思いました。
以上