売春と原発とバイオレンスと


サブカル中毒者の間では知らぬ者のない「売春島」、渡鹿野島(わたかのじま)の訪問ルポを読んだ。内容は性産業はすっかり影を潜め、廃墟だらけで人の姿もまばら、という予想内のものであったが、気になる一節もあったので引用させていただく。
「島の性産業は時代とともに衰退し、伊勢志摩サミット(2016年)やコロナ禍が決定打となり、完全に淘汰された」
むしろコロナ禍まで営業してる所があったの?!
色々調べてみたら興味深いことが分かったのでつらつら書いていく。

小さな島であり、最盛期(最もお盛んな時期)でも島の人口は700人程度だったというが、これにカウントされていない労働者は結構いたと思う。それが今では160人余りとの事で、性産業が壊滅した現在となっては元々がこれぐらいの規模の島なのだろう。
実は伊勢志摩国立公園内に位置するため広告物の設置には規制があり、これは性産業を行う上では都合が良かったと思われるが、逆に雄琴のように温泉を隠れ蓑に出来ないぶん警察や行政からのプレッシャーはきつかったと思われる、が。この国は警察も行政も特に下半身的には腐っているので半ば黙認されていたのが現実である。
Wikipediaの「渡鹿野島」の一説を引用させていただく。
「1971年に三重県警警部補が内偵特捜の捜査官として島に潜入したが、売春婦の女性と内縁の関係となり諭旨免職され、のちに島でスナック経営者兼売春斡旋者となったが、1977年10月の手入れで内妻とともに逮捕され、店の売春婦は保護された」

平成に入ってからは主に待遇の悪さから日本人だけでは労働者を賄えなくなり、また時代と共に社員旅行という名目の買春ツアーも国内から順に廃れていったので、外国人労働者が個人もしくは小規模企業相手の産業を担うようになっていった。

さて、自分は自分でコロナ禍までは劇場派の映画好きだったのだが、この渡鹿野島といえばすぐに思い出す作品がある。
それが『人魚伝説』(1984)である。

あらすじをかいつまんで述べると、夫を殺された海女が復讐を果たすべく渡鹿野島に潜入、性産業労働者として犯人捜査を敢行するが、実はそこには原発建設計画が絡んでおり…。
そう。この映画は原発映画なのである!
『原子力戦争』(1978・黒木和夫監督、原田芳雄主演、田原総一郎原作)

『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』(1981・森崎東監督、原田芳雄ほぼ主演。未ソフト化)
などに引けを取らない佳作である。ちなみにすべてATG関連作品。
…いや、佳作じゃないな。主演の白都真理さんの全方位的に「体当たり」演技が炸裂しており、半ば伝説化していると言っていいだろう。
実際に渡鹿野島からは50㎞以上離れているが伊勢半島南部に中部電力が芦浜原子力発電所の建設計画を立てており、それが撤回されたのは2000年になってからである。で、お約束の地域社会の分断ももちろん発生している。

経済成長の停止と共に大規模売春も原発建設計画も下火になっていたのは自明だし、元より似たような下心に端を発しているものなのかもしれない。

『人魚伝説』に話を戻す。ネタバレというか結論を先取りすれば主人公は復讐を果たす。ただ、その方法が日本映画的ではなくむしろ韓国映画的なのである。
この見る者を置き去りにするラストのスピード感は、集団就職で上京してすぐ河原で輪姦された女性が「男に食われる側」から「男を食う側」に回りトルコ嬢(当時の呼称。現ソープ嬢)として経営者にまで成り上がり、色々あってカーチェイスで幕を閉じる『青春トルコ日記 処女すべり』(1975・未ソフト化)に通じるものがあるが、インパクトはこちらを遥かに凌ぐ。
『人魚伝説』を最後まで見て、その血糊の分量を是非確かめていただきたい。

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