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感情を音で記録する

小さい頃からテレビやCDで日常的に音楽に触れていました。流れるメロディーを聴きながら、何気なく心を揺さぶられる感覚に浸っていました。その頃は、音楽がどうやって生まれ、どうして心地よく感じるのかなんて考えもしなかった。ただ、音の波が自分の中にスッと入ってきて、なんとなく気持ちよさを感じていたんです。

でも、次第に「自分が作りたい」と思うようになりました。突然その気持ちが湧き上がったわけではなく、長い時間をかけて少しずつ変化していったんだと思います。最初はただ音楽を聴くことに満足していた私が、次第に「次はこうしたらもっと気持ちいいんじゃないか?」という感覚を抱くようになり、自分で作り出したいという欲求が芽生えました。

マッサージの時に「もう少し右、そこ!」と思わず手を導いてしまう感覚に似ていますね。音楽を聴きながら、自分の中で「ここをこうしたらもっと気持ちよくなるんだろうな」と思い描く。そしてその感覚を、音で表現したくなったんです。


なぜ、作りたいと思ったのか
音楽は人生のストーリーを語る

この感情の変化は、ただ音楽を聴いて楽しむだけでは物足りなくなったからかもしれません。既存の音楽を聴いている時、心地よさを感じる音の「流れ」や「間」、次に来る音を予測して楽しむ感覚、あるいは音の並べ方が生み出す「心地よさ」に引き寄せられ、いつしか自分の手でその感覚を形にしたくなる衝動へと変わっていったのです。

作曲は、ただの音を並べることではありません。それは、私たちが日々感じる感情や経験を空気の振動という形に変えて表現する、まるで感情が変化する瞬間を日記に書くようなものです。音楽には、それぞれの音が持つ個性や関係性があり、人生の出来事や感情の断片のようにひとつひとつが繋がりを持っています。

音楽を聴くことで、他の誰かの感情に触れるように、自分の中の感覚を音として記録したいという欲求が芽生えました。例えば、音楽の中で上がるフレーズや落ちるフレーズ、静かな部分と激しい部分。これらは人生の中での浮き沈みや、幸せや悲しみ、希望と絶望のような感情を反映させているようにも感じます。音楽を作ることは、まさにその感情の変化を空気の振動にして、他の人にも届ける日記を書いているようなものですね。

さらに、作曲の過程で自分の感情と向き合ったり、試行錯誤しながら形にしていくことは、自分自身の内面と対話しているようなもの。どのメロディーを使い、どのタイミングで感情を爆発させるか、すべてを自分の手のひらの中で動かし、感情や経験を音という「言葉」で語ること。まさに「人生を音で表現する」という感覚がぴったりですね。


瞬間の感情の質を記録する手段としての音楽

音楽は感情の精緻な表現であり、感情の「質」をそのまま切り取ることができる。言葉が概念を伝える道具なら、音楽はその瞬間に感じる感情をダイレクトに伝える手段です。

「楽しい」という感情にはさまざまな種類があります。例えば、友達と一緒にご飯を食べる時の楽しさ。リラックスした気持ちや、食べ物の味や食感、香りに浸ることで感じる幸せです。このような「楽しい」は、穏やかで落ち着いたテンポ、柔らかなメロディーで表現できるかもしれません。音楽は、食事のシンプルな喜びを、ゆっくりとしたリズムと心地よい和音で表現できる力を持っています。

スポーツをしている時の、勝つことや努力が実を結んだ瞬間の興奮や達成感。ゲームをしている時の、駆け引きやスリルの中で感じる喜び。これらの「楽しい」それぞれには異なるテンポやリズム、メロディーが必要になります。音楽を作る際には、その「楽しい」をどう表現するかを工夫することになります。

音楽は言葉以上に精緻で多層的な感情表現を可能にします。


音楽と感情の関係

メロディー、和音、リズム。それぞれが、私たちが日常で感じる喜怒哀楽、希望や絶望、静けさや激しさを反映させています。例えば、静かなピアノのフレーズは心の落ち着きや寂しさを表し、ギターの激しいリフが興奮や情熱を呼び覚ますように、音楽は私たちの心の動きを「言葉」として伝える手段となるのです。

感情がどのように変化していくかを意識しながら、その流れを作り上げていくことの面白さ。音楽は感情の変化を表現できる、まさに最適なツールであることを実感しています。

音楽はもはや受動的な楽しみだけではなく、感情を表現するための積極的な創造の作業へと変わりました。私は感情を伝える手段として音楽を選び、音楽という形で自分の内面を外に表現しています。音楽を通して、自分の気持ちや体験を形にし、それを共有することができるのです。


音楽における感情の引き出し

音楽が感情を引き出すメカニズムには、音の変化やリズムのパターン、緊張と解放、反復と変化が大きく関わっているように感じます。
同じ音を「流し続ける」ことは、確かに退屈に感じることがあります。これは、音に変化や動きがないため、リスナーの注意を引きつけることが難しく、感情の波を生み出せないからです。逆に、音を「並べる」という行為は、異なる音が互いに反応し合い、変化することで、感情を引き起こす力を持っています。

①音の変化やリズムパターン
音楽における感情の動きは、音の変化(リズム、メロディ、ハーモニーの進行)によって作り出されます。突然のコード進行の変化や、リズムの加速、サウンドのクレッシェンド(音量の増加)が、感情を高めたり、興奮を呼び起こしたりするのです。

例えば、予測できるメロディーが繰り返されると、自然と安心感が広がります。反対に、突然メロディーが変わったり、リズムが急に変化すると、驚きや興奮を覚えることがあります。このような変化が私たちの心を動かし、感情的な反応を引き起こすんじゃないでしょうか。

②緊張と解放
緊張と解放の繰り返しによって感情を引き出します。退屈に感じる音は、解放されるべき緊張が不足している場合です。一定の音を流し続けているだけでは、感情の起伏を感じにくくなります。しかし、コード進行やリズムが予測できないタイミングで変化することで、緊張が生まれ、その後の解放が感情的な反応を引き起こします。

例えば、ちょっと不安定な感じが続いたあと、急に安心できる瞬間が訪れると、心がふっと軽くなる感覚や満足感を感じることがあります。こうした感情の動きが繰り返されることで、音楽がより深く心に残るんですよね。

③反復と変化
反復と変化は、非常に大切な役割を果たします。繰り返されるリズムやメロディーは聴く人に安心感を与え、気持ちを落ち着けます。しかし、その繰り返しの中で少しずつ違う変化を加えることで、感情がより豊かに感じられ、音楽がもっと深く心に響きます。反復は「安心感」や「慣れ」を提供し、それに続く変化が意外性をもたらし、感情を刺激します。ポップスでよく見られるサビの繰り返しとその後の音の変化は、リスナーに強い感情的反応を与え、心を動かす力を持っています。

④音楽と身体的反応
速いテンポの音楽は心拍数を上げ、遅いテンポの音楽はリラックスさせることがあります。音楽がもたらす生理的反応が、感情的な変化に直接影響を与えているとも言えます。
ダンスミュージックやアップテンポなロックは、身体を動かしたくなるような感覚を引き起こし、エネルギーや興奮を感じさせます。


結論
音楽が感情を引き出すメカニズムは、音の変化、予測と期待、緊張と解放、反復のバランスに関係しています。これらの要素が組み合わさることで、音楽は単なる音の連続ではなく、感情的な体験へと昇華します。退屈な音から感動や興奮を引き出すためには、これらの要素を巧みに組み合わせ、感覚的な刺激を与えることが必要です。


不協和音と調和の重要性

一方で、不協和音が続くと、「音楽として成立しない」と感じるのは、音楽が「調和」を基盤にしているからだと思います。人間の耳は無意識に「心地よい音」や「自然な響き」を求め、それに沿った流れを予測します。この予測が裏切られると、不安や違和感を感じやすくなります。

ただし、不協和音を避けることが作曲のすべてではないという点が面白いところです。むしろ、不協和音を意図的に使うことで緊張感やドラマを生み出し、それを解消することで心地よい「解放感」を作り出すことができます。

例えば、和声進行やメロディラインにおける不協和音を使うことで、音楽に「盛り上がり」や「感情の波」を生み出すことができるのです。不協和音は、少し不安定に感じる音の組み合わせですが、これを意図的に使うことで、聴いている人に強い印象や感情を与えることができます。

たとえば、映画の緊迫したシーンで使われるような音楽がそれにあたります。その後、不協和音が解消される瞬間に、聴く人は安心感や解放感を感じることができるのです。音楽の中でこのような変化を作ることで、より深い感情的な反応を引き出すことができるんです。

反復と変化、不協和音の使い方など、音楽にはいくつもの要素が絡み合い、感情を引き出す力を持っています。それぞれの音やリズムが持つ意味や役割が、全体の調和とバランスを作り出し、感動的で深い体験を感じさせてくれるのです。


作曲は感情のパズル
自分を掘り下げて表現する作業

作曲は、自己表現の一形態として私たちの内面を深く掘り下げる作業です。音楽を作ることで、自分の感情や経験をより鮮明に見つめることができます。

作曲を通じて、私たちは自分の内面と向き合い、その感情がどれだけ豊かで複雑であるかを楽しむことができます。音楽という媒体を通じて、自分をより深く理解し、思いを表現できるのです。

作曲の過程は、感情のパズルのようです。音同士がどんな関係を持つか、そしてそれをどうつなげるかのパターンが無限に広がっているからです。ひとつの音が与える影響は無限で、その音がどこにどう配置されるかで、物語の流れが大きく変わります。ひとつひとつの音やリズムが自分自身を表現する大切なピースとなり、それらを組み合わせることによって、全体として美しいハーモニーや感情的な流れを作り出し、音楽という物語が形になっていきます。

最初に思いついたアイデアが必ずしも最良とは限りません。最初はバラバラな要素から始まって、何度も試行錯誤を重ねながら、自分が本当に伝えたい感情を表現する最適な形を見つける。これは、感情の断片を組み合わせるパズルを解く作業そのものです。

どの音がどのタイミングで来るか、どの音が前に出て、どの音が引っ込むか。それを組み合わせることで、物語が展開していくような感覚があります。時には予想外の組み合わせがうまくいったり、逆に全く違う音をあえて選んで新しい方向性を見つけたり。
パズルのピースがぴったりと合わさったときの達成感や、試行錯誤しながら少しずつ形になっていく過程そのものが面白さの一つだと思います。


音楽で心の声を届け続ける

聴いて楽しむだけだった音楽が感情の「表現」という新たな役割を持ち始めました。
音楽は感情の精緻な表現であり、その変化を通じて人々と繋がる力があります。
音楽は時に言葉では表現しきれない深い場所へと導いてくれます。音を通して感じる心の波紋や、それに触れる瞬間が、私にとっては生きる力をくれるのです。この記録が、誰かの心に届くことを願って、私は今日も音を紡ぎ続けます。

読んでくれたあなたが幸せでありますように。

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