アートボード_1_のコピー_10-100

サレンダー

呪いを受け入れることにした。あの人は心の底から私を殺したいと願っている。些細な裏切りや根付いた傲慢を無かったことにはできないか。嘘でもそう考えることにした。なぜなら、あの人は私をいつでも殺そうとナイフを取ったのだから。

刺激を与えてはならない。少なくとも言い訳はせず、ただただ誠意を魅せることしかできない。そんな限られた選択肢、というかなけなしの最終手段さえ皆無なのだから。私にこれ以上どうしろと、どうしたらそのナイフをしまってくれるのか。

この調子だとあと1分も持たずにあの人のナイフは私の身体の循環を管理する核を壊そうとするだろう。言葉にすることが許されるのなら、押し付けた優しさが不快で怒り狂いそうだ。原因はすべて私にあるのだろうが、口がある以上操り人形のような返答はしたくはないのだ。

外に溢れる他人の喘ぎ声、惑苑の終末を迎える断末魔。5分前は私の拡声器が発したうる憶えの覚醒。あの人の愛で私を殺すような、歪んだ優しさは骨を溶かすシュールレアリズム。ほら、指先が壊れる音。

体温が急上昇する5秒前。一国を落とすような轟音で聴覚を滅ぼす。残った生命のカケラも残さず、髄の形勢が砂の何か、物理法則を無視したソナタの事柄。人はこんな風に壊れてしまうのか、笑ってしまいそうだ。それが私だった。

鈍器の鈍い擦り音を鳴らす間もなく式二波の流星。拘束するものが意味をなさないと分かったから好きな言葉を並べてみた。温度を失い始めて重力に身を任せた。見えた景色は遠近の蓮子、雲れ日から発生したただの現象。私はただそのシミを数えることでその時を待った。

熱が伝わる、不慣れな機械音が身を包む、引き波のような具現の多雨、理不尽な弱肉強食、夜を覆い分散する白鯨の声、私の論理も哲学も文化も宗教も思い出すことを諦めた。同時に理解することもできなくなった。

満足はしない、納得はできた。

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