世界的な経済新聞である英フィナンシャル・タイムズ(FT)は米国の経営者団体が掲げた「脱・株主第一主義」について社説を掲載しました。

米国の経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルが公表した声明文では「顧客や従業員、取引先、地域社会といった利害関係者に広く配慮し、長期に企業価値を高める」とステークホルダー配慮の姿勢が示されています。

このようなステークホルダー配慮の姿勢は英国では2006年会社法172条(1)で示されており、現在の統合報告トレンドのきっかけとなっています。また2018年改定のコーポレートガバナンスコードでも同会社法の精神が受け継がれており、原則Dでステークホルダー配慮を明言しています。

日本でもステークホルダー配慮は経済団体連合会(経団連)の2010年企業行動憲章で取り入れられました。2017年の改定ではSDGsへの貢献を謳い、その姿勢を強めています。

今回の経営者団体の声明はこうした世界的なステークホルダー重視の流れに沿うものと言えそうです。しかし上記の記事も指摘しているとおり、その実効性には疑問が残ります。株主第一主義は一朝一夕でできたわけではなく、経営者の行動に染みついてしまっているためです。

前向きに考えるとするとそれを本当に変えようと考え、その第一歩として言語化したということかもしれません。しかし、懐疑的にみるならば、行動を変えずに米国企業へ投げかけられるステークホルダーからの批判をかわすために声明文は使われる可能性があります。

声明発表のタイミングから私は後者ではないかと考えています。米国も含め世界的な景気後退が懸念されています。2008年のリーマンショック時には失業者が大量に発生したにもかかわらず、特に金融業界の経営者が高額報酬を受け取ったことが社会的な大問題となりました。場合によっては金融業界へ注入された公的資金が経営者の報酬に流れているのではないかとも言われ、社会的な批判の的となりました。

これまでにその態度を改め、役員報酬を含め米国企業がコーポレートガバナンスの改革を進めていれば、同様の批判は避けられるはずですが、もし何も改革をせずに現在に至っているのであれば、11年前同様批判の的になるのは必至です。今回の声明文発表は効果のほどは別にして、この批判をかわすために出されたのではと懸念しています。

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