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【三原市】2025年度三原神明市 2025/2/8

明日は神明市最終日。
3日かぎりのアニキと弟子の、別れの日。

〜1日目〜

「オレ、唐揚げ屋のナカノのニイちゃんと仲良うなってなぁ!
弟子にしてもろうたんよ!
明日みんなで行こうや!」

昔も今も、テキ屋が売るのは“ハレの日”。
商品はおまけみたいなもので、
真に作って売っているものはお祭りらしい雰囲気。

「タイチよー、弟子っつっても本当にええよいうて言われたんか?」
「ふふん。
ナカノのニイちゃんは、オレらと同じ歳から屋台やりよったらしいんよ。
オヤッサンの弟子ってことでの。
じゃけえ、今度は俺がオヤッサンやるか、弟子取ってもいいかもなって感じで。
ま、来りゃわかる。
明日行くど」

〜2日目〜

「ナカノのニイちゃーん!
来たどー!
こいつヨッくん、これがタコ、これツカっち」
「おう。友達連れて来てくれたんか。
ま、買うてってやー」

「じゃあオレひとつ。
おい、お前らも買え、うまいけえ。
ニイちゃん、オレらと同じ歳からやりよるんよな?」
「そうね。いろいろ行ったなー。
日本全国回ってるなァ。
ついこの前までは福岡で、その前は大阪。
次はまた大阪、んで三重やね」

「な。
ナカノのニイちゃんスゲーんよ。
全国回りよるんよ。
な、あれ見せてや。腕」
「あ!俺とお前の秘密っつったじゃんかー!
お前ー!
仕方ねぇなぁ、もうこれ以上言うなよ?」

「おお…すげー」「かっけー」「初めて本物見た」
「な、背中にもあるんよな」
「おう。さすがに服は脱げんぞ」

「ナカノのニイちゃん、オレって弟子よな?
弟子にしてもらって、ついて行ってええんよな?」
「おう。約束な。お前は俺の弟子だ。
明日も友達連れてきてくれよ、弟子の仕事は宣伝だかんな。
俺も最初はそうだった」

「任せといて!」

〜3日目・昼〜

「ナカノのニイちゃーん!
今日も来たでー!
今日は別のやつら連れてきた」
「おう、弟子の仕事してくれたか、立派立派。
ありがとな」

「あいつら先行くって。
オレに手伝えることない?」
「ンなら、呼び込みやってみっか?
見てってやー、唐揚げうまいでー!
はいやってみ」

「見てってやー、唐揚げうまいでー!」
「お!いいねいいねぇ!」

「ね、あれってタイチくんよね?
唐揚げ屋のとこ」
「うわ、タイチ何しよんよ。
おーい!タイチー!」

「お!お姉さん、見てってやー」
「はあ?何しよんタイチ」

「あー?バイトバイト。
いいねーお前ら店回れて。
オレ、弟子になったんよ。
っつーわけで明日から学校行けんなるわ、明日から大阪よ。
ありがとのお前ら」

「じゃってさ。
なんかおかしなこと言うとるわ。男ん子じゃねほんと」
「ほんとほんと。
うちらは行こ、じゃーねタイチー!」

「おーう!祭り楽しんでのー!
後でええけえ買うてってやー!
ね、ニイちゃん、約束。オレ連れて行ってくれるんよね?」
「俺らぁ今日、夜の8時に切り上げて、大阪に向けて出発する。
お前その時刻には外出れねえよなぁ」

「いや!行く!行ける!
オレはニイちゃん、いや、オヤッサン!
ナカノのオヤッサンについて行く!」
「母ちゃん、許しやしねえだろ。
もうちょい大きくなってからでもいいぞ、お前はずっと俺の弟子だかんな」

「いや!行く!大丈夫!
夜の8時よね?ね?」
「仕方ねえなあ。
お前、ここから家までどのくらいだ?」

「チャリぶっ飛ばせば20分!」
「よし。
9時だ。9時に俺らはここ出発して次んとこに向かう。
俺らにはボスいてな、そのボスの命令でたまーに時刻ずれたりすんだけど、9時ってことになってる。
それよか早く来るとみんなに迷惑かかっから、絶対にやめろよ。
3分前とかでもダメだ。
弟子なら時間くれぇ守れるはずだろ、いいな」

「わかった、オヤッサン!」
「ははは。
わかった、じゃねーよお前よー。
わかりました、って言いな」

「ふふ。
わかりましたッッッ!」
「よしよし!」

〜3日目・夜〜

「?
タイチどこ行くんね?
あんたそれ何入れとん?」
「ツカっちんとこに忘れ物!
それじゃ!」

「お父さーん!
なんかタイチが大荷物持って外出たんじゃけど。
ツカサくんとこ行くいうて」
「こりゃなんかあるわ、ちょっとツカサくんとこ電話かけてみい」

「…なるほど。
すみません夜分に。
ええ、はい。ご迷惑おかけしました」
「どう?」

「あんた、神明さんとこ。
お茶屋さんの前行って。バイクで」
「そこおるんか、よし」

「…あれ?
あれ?あれ?」
「どうしたんよボク。
わし、そこの家のもんなんじゃけど。
なんか落としたんか?」

「い、いや、あの、ここにあった唐揚げの屋台は?」
「8時には屋台どかさにゃいけんいう決まりでの。
ほれ。
みな片付けて、おらんなったで。
来年が楽しみじゃの」

「9時じゃ言ようたのに…
9時じゃいうて言ようたのに…なんで…」

「おい、タイチ。
どしたんよ、こんなとこ来てから。
なんか落としたんか?
友達のもん失くしたとかか?
お父さん探したるで」

「…。
いや、落とした思うたけど、気のせいじゃった。

次は大阪、かぁ。
元気でね、ナカノのニイちゃん。
来れたらまた、来年に」

ゴミも書き置きもない、たった3日間弟子として居た場所。
ただひとつ落ちていた爪楊枝は、ニイちゃんの行き先を示すメッセージのように思えた。

今年も神明市のどこかで、キャストを変えて紡がれる同じストーリー。

僕もタイチ少年と同じく、遠い昔は弟子でした。
神明市ではなく、正月に神社に来ていた型抜き屋台の弟子。
「夜中の3時に、積荷を取りに車を入れる。
その時ぴったりに来れるなら、一緒に行こう。
ただな、早くなったり遅くなったりはあるからな」
無理だったよアニキ。

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