【心得帖SS】三色スケジュール
「課長、俺はもうダメです…」
社内懇親会の帰り道、京田辺一登は住道タツヤから相談を受けていた。
「普段から自信満々のタツヤがどうした。そんなに深刻な悩みなのか?」
住道は入社5年目。営業のスキルやノウハウの吸収が早く物事の受け応えも良い。まさに脂がのっている若手社員の一人だ。
「実は俺、スケジュール管理が得意じゃなくて…予定が詰まってくると頭が混乱してしまうんです」
「なるほど、確かに優先順位付けを含めて悩ましい問題だなあ」
夜風に当たって酔いを醒ましながら、京田辺は自分の鞄をゴソゴソ漁った。
「ほれ、俺愛用の手帳だ。あまりジロジロ見るなよ」
「ありがとうございます。うわっ凄い書き込み!」
手帳を受け取ったタツヤが頁をペラペラめくって驚きの声を上げた。
「これ、時間毎にスケジュールを箱にしているんですね?」
「そう、始点と終点が良く分かるように線ではなく四角い箱にしているんだ。その時間を予約済み、という意味も出せるからね」
「なるほどー、それでこの色使いには法則があるんですか?」
黒の他に赤・青・緑が使われた文字や線を指してタツヤが問いかける。
「これも可視化のひとつ。重要なものは赤、その次が青、プライベートは緑という感じかな」
「おー、更に分かりやすい!」
「これは齋藤孝先生の『三色ボールペン情報活用術』に感銘を受けて、自分なりにアレンジさせて貰ったんだ。法則を応用すればスケジュールアプリ等ペーパーレスでも活用できると思うよ」
「ペーパーレスなら課長みたいにグチャグチャに書かれた手帳を見られるリスクが減りますね」
「さらっとディスってるんじゃないよ!これは中身が分からないようにワザとやってるの」
「はいはい、分かりました」
普段の人懐っこい笑顔が戻って来たところで、京田辺はずっと気になっていたことを尋ねた。
「ところでタツヤは何故落ち込んでいたんだ?取引先のアポイントをすっ飛ばしたのなら明日一緒に頭を下げに行くか?」
「あ、違うんスよ」
タツヤは少し気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「実は今日、俺の部屋でカノジョの誕生日をお祝いする予定だったのをすっかり忘れていて…」
「早く帰ってやれーっ!!」