- 運営しているクリエイター
2024年8月の記事一覧
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第21話
集中治療室の中の直人は、眠っているだけのように見えた。
しかし、彼の周りを取り囲んでいるおびただしい機器類が、避ける事が出来ない現実を物語っている。
「話しかけても、いいですか?」
医師が頷くのを見て、彼女は直人に向き直った。
「ナオ兄さん、久しぶり。アオイだよ」
努めて明るく話し掛ける。
「この前はゴメンね、急に帰ったりして。部屋にもいかなくなっちゃって……」
「私、ずっと謝りたか
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第20話
直人の入院している病院は、彼の住んでいたマンションから二駅離れたところにあった。
「アオイちゃん!?」
ロビーに降りて来た直人の母は、アオイの姿を見て狼狽した。
「どうしてここが?」
「聞いたんです」
「……そう」
彼女は、軽く肩を落とした。
おそらくアオイの母親から聞いたと思ったのだろう。
「隠しているつもりは無かったの。でも、直人がアオイちゃんには言わないでって」
「そんなに、悪い
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第19話
(……う……ん)
暗がりの中、アオイは薄目を開けた。
暫く経って、周囲の状況がはっきりしてくる。
「私の、部屋?」
ベッドに横になっていたアオイは、起き上がってみる。
カーテンの隙間から覗く光は、早朝の雰囲気だ。
窓際に駆け寄って、彼女は自分が制服のまま寝ていた事に気付いた。
「今日、何日なのだろう?」
部屋を出たアオイは、予想外の寒さにぶるっと身を縮ませた。
勢いで玄関に出た彼
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第18話
「……ポイント還元、って訳?」
半信半疑で聞いていたアオイだったが、その視線は有夢の首に巻かれたマフラーに移っていた。
先程まで普通の毛糸編みだったそれが、いつの間にか真珠色の鈍い光を放っている。
現実と非現実の区別が無くなり、平然とリストカットを続けてきた自分でさえ、目を疑う様な現象だ。
「ただの詐欺師じゃなかったんだ」
「あ、酷い。むー」
むくれる有夢を見て、アオイは思わず笑った。
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第17話
「……以上が、わたしの『ためい気』の原因」
一気に喋ったアオイは、色々なものを振り払う様に頭を左右に動かした。
(えい、えい)
こうすると、記憶が片隅に追いやられていく気がするのだ。
「分かった」
表情を一つも変えずに聞いていた有夢。
リアクションの薄さに、拍子抜けしているアオイを無視して言った。
「それで、どうする?」
「どうする、って?」
訳が分からない彼女に、有夢は説明した
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第16話
1か月半の闘病生活が嘘の様に、直人はきれいな顔をしていた。
「末期の●●癌でした」
医師の言葉を、アオイは機械的に受け止めていた。
「自分では、手遅れって分かっていたのね。だから、アオイちゃんにも話さないで」
面識のある直人の母親が、ハンカチを握り締めながらポロポロ涙を流していた。
「あの子、本当に喜んでいたのよ。最愛の人は無くしたけれど、これからは愛する事が出来る可愛い妹が出来たってね
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第15話
幾度となく通った駅
幾度となく通った道
行き着いた先に、直人の姿は無かった。
「年末に、出て行かれましたよ」
顔見知りの大家さんが、彼女に教えてくれた。
「妹さんにも言わなかったの? よっぽど急だったんだね」
「兄さん、どうかしたんですか?」
理由知り顔の大家に、アオイは詰め寄った。
暫く彼女を眺めていた彼は、やがてゆっくりと言った。
「……入院、するんだって」
(え?)
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第14話
カレンダーは、いつの間にか二月になっていた。
あの日以来、アオイは直人の部屋に行っていない。
何となく行き辛くなっているうちに、タイミングを逃してしまったのだ。
(……ふう)
最近めっきり多くなった溜め息を付いて、彼女は思った。
(溜め息も、付きすぎると幸せじゃなくなるのかな)
そう思った瞬間、彼女はあの時間を思い出した。
『……笑おうよ、アオイちゃん』
そうだ、こんなの私ら
【週末ストーリィランド】「ためいき泥棒」第13話
(言っちゃった!)
全身に火が付いたような感触を覚えながら、彼女はまっすぐ前を向いて歩いていた。
満足感と後悔が、交互に浮かんでは消える。
ナオ兄さん、何て答えるだろう。
「またまた」とか誤魔化すかなぁ。
そのときは、強引に約束しちゃおうっと。
色々な想いを廻らせながら、彼女は直人の返事が遅い事に気が付いた。
「……兄さん?」
不思議に思ったアオイは、くるりと振り返った。
遥