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食べるマグマ大使

2008/11/29
(この記事は2008年のものです)


今日は都合により、午前中から母の病院を訪れた。病棟に着いた時は、ちょうど11時半からの昼食タイムが始まるところだった。

ラジオ体操の音楽が鳴る中、数名の介護スタッフの方々も混じって、6階の療養病棟のほとんどの患者さんが揃っている。母も音楽に合わせて無表情に、小さく腕を回したりしている。

眼鏡をかけなくても遠くから、母の姿はすぐにわかった。なんていったって、周りのお婆さんたちよりも抜きん出てデカイのだ。車椅子の高さも人によって違うし、車椅子の上にクッションを敷いていたりいなかったりでも違うのだけれど、とにもかくにも、母は顔も身体も大きくて、「やっぱり富士は日本一の山ね」と言いたくなるような風格がある。

ほとんどのお婆さんは小さくって背中を丸くして、もそもそと動きながら食事をとっているけれど、首も回らない、上半身をどうにか垂直に起こしているだけの母は、ブキミに姿勢が良いのだ。そしてやはり自由に動かない腕を真っ直ぐに伸ばして、スプーンでご飯やおかずをすくって口に運ぶ。

スプーンですくった瞬間から口を開けているので、スプーンがオズオズとゆっくり口の中に入るまで、ずいぶんと長いこと口を開けていることになる。可笑しいような哀しいような表情だ。そして一口がやたらに大きい。

おかかに煮豆、沢庵と、母のトレイの脇にだけ、母専用の「ご飯の友」シリーズのタッパーが並ぶ。それはもちろん母の我儘で「あれが欲しいこれが欲しい」と娘たちにオーダーしたものだ。きゅうりの漬物、昆布、梅干、紅生姜、わさび漬け等々、今までにどれだけのものを要求したかわからない。それもあっという間になくなってしまうから驚きだ。

周りの人はみな、白いご飯やお粥を素直に食べているのに、母だけがご飯の上に、たっぷりのおかかと沢庵の切れ端などをのせてパクパクと食べている。贅沢な…。

無表情な母の硬い身体はロボットのようで、まるで金属性だなと思ったら、
母が急にマグマ大使に見えてきた。「ご飯、少し増やしてもらったのよ」と、マグマ大使は言う。今までちょっと少なかったのを、普通量に増やしてもらったのだ。

それでも食べ終わった後、「もっと食べられるわ」と大使は言う。「柿とりんご、持って来たよ」と言うと、震えるようにして喜ぶ。

食後、歯磨きをしてる頃から、母の意識が遠のいていく。ベッドに移動させてもらう頃には、意識消失してしまった。

食後30分ほどで、「柿とりんごを食べよう」と大使は言う。柿二分の一個、りんご四分の一個をぺろり。「サッパリしたものの後はコッテリしたものが食べたいわ」と言って、キットカットチョコレートの小さい袋(2本入り)をひとつ、ぺろり。お茶もゴクゴク。マグマ大使はいくら食べても太らない。

若い頃、同世代の女性の平均身長よりも10センチほど大きかった母は、
今でいったら170センチくらいなんだろうな。やはりマグマ大使は大きいんだわ。

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