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『違国日記』を読む▶︎チャーリー

皆さん、マンガ読みますか?自分は時々取り憑かれたようにマンガを読みます。今日はそんな中から最近読んだ一作をご紹介。

卒業式を控えた中学3年生の女性:田汲朝(たくみ あさ)は交通事故で唐突に両親を失う。
葬儀の場では一人残された朝をどうするのか、当事者の前で親戚たちがあからさまに困ったように話をしている。そんな中で朝の母のことを心底嫌いだったと言っていた母の妹、少女小説家の高代槙生(こうだい まきお)が「15歳の子供はこんな醜悪な場にふさわしくない」、「もっと美しいものを受けるに値する」と啖呵を切って、朝を彼女の元に引き取ることになる。
極度の人見知りで「大体不機嫌だし、あなたを愛せるかどうかはわからない」という槙生と両親を亡くした高校生朝、まるで違う国に住む二人の生活が始まる。

ヤマシタトモコ 作 「違国日記」(祥伝社 フィールコミックス)

1巻を買って読んだらやめられなくなって、2〜11巻を大人買いして一気に読みました。

槙生は孤独を愛し、他人とのコミュニケーションに、朝が自分の家の中にいることにも疲弊するタイプ。
朝はまだ高校生になったばかりで、自分が何者なのかということに加えて、両親を失ったことによって、砂漠の中に一人取り残されたような孤独と、自分はどこに向かっていけばいいのかというような焦燥感を感じて暮らしている。

「自分は母や父から愛されていたのだろうか。」

普段の生活の中では一瞬浮かぶものの、すぐに消え去っていく疑問が、両親を失ってしまってからは、その疑問が記憶の中で何度もリフレインして、頭の中から離れなくなる。そういう悩みをどうすればいいのだろうと悩む朝。

この二人に加えて、朝と幼馴染で今もクラスメイトである 楢えみり や、朝が高校で出会っていく友人、槙生の元カレである笠町信吾、槙生の高校時代からの友人達などが加わって、同性愛、男女差別(例えば医学部の大学入試で女性の合格者を減らすために点数が不正に操作されていた事件)、親によるハラスメント、といったことも絡ませながら、朝の変化、朝と槙生の関係の変化が描かれていく。

作者であるヤマシタトモコ氏はすで画業20年のベテラン。
絵と言葉による表現力、が素晴らしい。高校生や40代近い大人の日常の暮らしが描かれる漫画なのだが、その日常の中の出来事を切り取って、朝の心理描写につながる言葉と絵の表現が素晴らしいのだ。

また、個人的には朝を引き取って一緒に暮らす槙生の考え方にすごく共感するものを感じる。
「あなたの感じ方はあなただけのもので、誰にも責める権利はない。」
これは槙生が朝に語る言葉。自分を大切にしなさいということと同時に、他人が自分と同じように感じるわけではないということも示している。
例えば「わかり合う」を強調する作品も多い中で、自分自身の感情は誰とも分かち合えるものではないと高校生に語りかけるところに惹かれる。

もちろん、朝や彼女の友人達や槙生を含めた大人たち、それぞれの抱える問題に答えが出るわけではない。だが、各話の構成もそうだが、全11巻、全五十四話の構成も素晴らしいと思う。

お盆休みの間に全11巻を一気読みし、その後もう一度全巻読み直した。自分にとっては24年の8月を象徴する作品になりました。

横浜読書会 KURIBOOKS は文字の本だけではありません、漫画や絵本を持ってきて、その素晴らしさを語っていただくことも大歓迎です。

ちなみに「たらい」という字は臼に水を入れて、下に皿を敷く、盥 と書きます。

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【投稿者】チャーリー

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