小中学校で教員不足なのに、なぜ教員を増やすことができないのか?
小学校と中学校で、教員が不足していることが問題になっています。
以下に詳しいことが読みやすく書いてあります。
上記で十分なので、蛇足かもしれませんが、ここでは財政面について、もう少し詳しく述べようと思います。
2つの「教員不足」
教員不足には、2つの意味があります。
1つは、「本来いるべき教員数がいない」という点です。これについては、試験を受ける人数が減っていたり、臨時でなれる教員(後述する、臨時採用教員)が減っていたり、臨時で休む人がいたり(産休、精神疾患)するためです。
もう1つは、本来いるべき教員数がいても、仕事が増えすぎて対応ができていないという問題です。
2つ目の問題は、これまでもずっとそうでした。それがSNSで可視化されたことに加え、1つ目の問題がのしかかってきたことで、強く顕在化しているのだと思います。
子供の数が減るので、教員を増やせない
1つ目の問題と2つ目の問題の解決策は簡単なのです。
誰もが気づき、誰もが言っています。「教員の待遇を良くして、負担を減らし、教員になりたい人を増やせばいい」だけの話です。
では、なぜ教員数を増やせないかですが「これから子供が減るので、教員余りの時代がやってくる」からです。そして「国に金がないので、余分な教員の給与を払う余裕はない」からです。
子供の数が減る
公立の小中学校の教員の給与は税金で賄われています。それについては別に詳細に記事を書きました。
仮に、新しく大卒の教員(23才)を一人増やすとします。定年を65歳とすると、これから42年間分の給与を確保しなければなりません。子供の数が今と変わらないなら、その必要性もありますが、これから、子供の数は急速に減ります。
具体的に1年間に生まれた子の数を比較すると
1973年 200万人を超えていました。
2016年 100万人を切りました。
2023年 75万人でした。
2024年 70万人を切るという予測があります。
このように急速に子供の数は減っています。
これをもとに、現在と将来の小学1年生の数について具体的に示します。
現在(2024年)の小学年1年生の人数は約96万人です。そして6年後の2030年には、75万人になると予測されます。なぜなら、2023年の出生数が上記で示したように75万人だからです(6歳までに死亡する数は計算に入れていません)。
つまり、これから、たった6年で、新1年生の数は2割以上減るのです。さらに、その1年生が6年生になるころには、1年生の人数は60万人くらいになっているかもしれません。これから12年後には、おそらく小学生全体(1年生から6年生)では、子供の数は、現在の3割減くらいになるはずです。
子供の数が減れば教員の数もいらなくなります。今、厳しいからと言って、新しく教員を雇うと、将来的に余ってしまうのです。
商売に例えるのは良くないかもしれませんが、「将来的に、お客が減ることが分かっているのに従業員を雇うわけにはいかない」ということです。
教員の数は誰が決めている
そもそも教員の数はどうやって決まっているのでしょうか?
答えは、国が大まかに決めて、都道府県で調整する、です。
1.まずそれぞれの都道府県が、翌年に必要な教員数を国に申請します。うちの県には、学校がいくつあって、それぞれの学校に生徒が何人いて、子育てのために休んでいる先生が何人いて、病気療養中の先生が何人いて、などから計算します。これは文科省が出した計算式があります。たとえばより具体的にはここにあります。現在の年齢構成も考慮されて、何歳の先生が何人働くことになる、ということを申請します。たとえば国語の先生が、〇人必要で、その年齢構成はこうなっていて、ということをすべての教科について申請します。
2.文科省が、それに応じて、規定の教員を雇用するために必要な給与の1/3の都道府県に渡します。
3.都道府県が、それを受け取って、単純に2/3の給与を負担する手もありますが、ある程度の自由裁量があって、給与額を上下させて、教員の数を変更することができます。
必要な教員数はいきあたりばったり
簡単にいえば、翌年、何人必要で、それに給与がいくらかかるか、という計算がされるわけです。この時、将来の子供の数は計算しません。
なので何が起こるかというと、辛口に言えば(後述するように仕方ない面はあるとはいえ)、長期計画はなく、行き当たりばったりで採用数を決めることになります。
その結果、採用数や採用倍率が上下するのです。
上記のグラフにあるように採用数のピークはS55年(1981年)の約4.6万人で、もっとも低いのはH12年(2000年)の1.1万人でした。採用数に4倍以上の差があります。
それによって採用倍率も、かなり上下しています。平成12年は13.3倍と高い倍率でした。これは日本全体の平均なので、都道府県によっては、採用倍率が50倍という極端なところもあったようです。200人が受験して4人しか通らなかったわけです。せっかく大学で勉強して先生になろうとしているのに、絶望的だったろうと思います。一方近年は、3.7倍です。小学校に限れば、1倍のところもあるようです。
子供の数と、数十年前の子供の数に影響される
上の棒グラフの採用数(下にある濃い色の棒)を見て、そんな変動をさせずに、長期的にみて一定数にすれば、採用倍率が変動しなくていいように思えます。しかし、そうもいかないのです。
たとえば、採用数が最も多かった昭和55年は、第二次ベビーブーム(1971(S46)年から1974(S49)年)の子供たちが小学生に上がってきたところです。その子供たちが小中9年間という時間幅を抜ける間は、子供の数が増える続けます。それに対応するために採用する教員数を増やさなければなりません。
そしてしばらくすると、その嵐が抜けていって生徒が減ってきます。そうすると、教員の採用数を減らさないといけません。
しかし、話はそれだけではすみません。退職者の数に影響を受けます。退職者がたくさんいれば、それを補充するように新規に採用するからです。
そして、ある年の退職者の数は、37年前の子供の数に影響をうけます。
どういうことかいうと、60歳で退職するとすると(過去は60歳だったので60歳とします)、その人たちは37年前に採用した人たちです(23才の新卒を採用するとして)。その当時の採用数は、当時の子供の数に影響を受けます。当時子供がたくさんいたらたくさん採用するからです。
上のグラフにはそれがよくあらわされています。子どもが増えた1975(S50)年ごろから教員の採用数を増やし始めているので、それらが抜けるのは2012(h24)年ごろです。補充をしないといけません。実際そのころから増やし始めています。
このように、教員の数は、2つの波に襲われます。1つは、その年の生徒の数です。もう1つは、過去(30~40年前)の生徒の数(に応じて採用した教員数の退職数)です。
その結果、教員の年齢分布は以下のように、波ができます。
民間企業のように調整ができない
このようにして、どうしてもいきあたりばったりなりがちなのです。人数の変動があるのは民間会社でもそうかもしれません。
ただ民間会社の場合は、人数が増えたら、それだけ儲けが生まれるわけで、その人員を賄うこともできるかもしれません。また、ある会社が採用人数を減らしたとしても、別の会社は採用数を増やすかもしれないので、変動が多少緩やかになる傾向があります(といっても、日本全体の有効求人倍率は、景気などに左右されて、0.5~1.5くらいの変動はします)。また、企業の場合は、一時的に足りなくなったら、非正規雇用で調整をする、中途採用をする、増えすぎたら、リストラをするもできます。
一方、教員の数は、規定で決まっているので、将来を見越して、教員を多めに雇用しようとしても、国はお金をくれません。多すぎても、国はお金をくれません。ただただ、世の中の波に翻弄されるだけになります。
臨時採用教員による人数の調整
一応、それを調整する臨時採用教員というものがあります。
学校の先生になるには、大学で必要な授業数を学びます。そうすると教員採用試験を受ける資格を得ます。そして、都道府県が実施する教員採用試験(筆記と面接などがある)を受けて合格すると、翌年の春に先生になります。なお、教員採用試験の合格数は、前述の必要な教員数から「今年は〇人採用する」と各都道府県が決めています。だから、年によって倍率が変わります。
この試験に落ちたものが生まれます。大学でしっかり学んで教員採用試験を受ける資格は持っているけれど、試験には落ちた人たちです。この人たちは、先生となる基本的な能力は足りているけれど、今一歩の人たちです。
この人たちを、雇う臨時採用というものがあります。採用して、授業をしてもらったり、担任になってもらったりします。
生徒からはわかりませんが、学校単位で見ると、学校の中には、正式な教員と、臨時採用の教員がいることになります。最近は、この2つの待遇はあまり変わらなくなりましたが、かつては、臨時採用は、給与が低かったり、ボーナスがでなかったりしたようです。その分、臨採の先生は、担任は免除される傾向があって、世の中には、給与が低くても臨採のほうが良いという人たちもいました。
臨時採用教員は正負の側面があります。
良い面は、先生を志す人が、試験に落ちても路頭に迷わず、学校で働きながら試験勉強をして、教員採用試験に再チャレンジできるという点です。
悪い面は、人数の調整機構に使われるということです。たとえば、これから子供が減るけれど、今人数が足りないから臨時採用で対応する、というようなことが起こりえます。いつか先生になろうとしていたけれど、結局、臨時採用なので首を切られるということが起こります。
今は教員採用試験の倍率が下がり、多くが合格するので、臨時採用教員もいないので、人数調整が効かなくなっています。
どうすればいいのか?
都道府県の中には、将来を見越して教員数を独自に変更しているところもあります。大阪府です。
各都道府県がこのようにすればいいのですが、それには財政的余裕が必要です。大阪府はかんばっていると思いますが、他の都道府県がこれを出来るとは思えません。
問題の本質は、文科省が決めている教員数の規定だと思います。
今は厳しすぎるのです。ぎりぎりすぎます。
まずは、教員の人数の規定数をもっと緩和すること、それから、子供が多少へっても、10年くらいは時限的な処置を使って、すぐに教員を減らさなくてもいいようにすることができれば、子供の数の変動にさほど右往左往しなくてよいはずです。
そうすれば、教員が不足することも防げますし、教員採用試験の極端な上下も減ります。そうすると、教員の質が保てます。なぜなら、今の仕組みだと、倍率が高い時は、優秀な人を落とし、倍率が低い時は、誰でも採用していて質が落ちるからです。
ですが、教員数を増やすことができるだけの国力(経済力)が、今の日本にあるかどうかです。高齢化によって社会保障費は増大し、国力は下がっていくわけですから。
後進国(先進国から零れ落ちた国を含む)が、国際的に力を入れるためには、教育に力をいれるべきことは歴史が証明しています。今はまだ、日本は先進国気取りでそこに手が伸びていませんが、圧倒的に負けはじめれば、いずれ教育こそがもっとも必要だと気付いて、お金が投入されるはずです。
まあ、早めに投入したほうが良いことは間違いないのですけれど・・・。
これから教員はあまるかも
今は教員不足ですが、子供の数は急速に減るので、教員数の数はいずれ適正になると推測されます。小学校では、数年後には解決が始まり、5、6年後には適正になり、その後、「教員あまり」が起きるような気がします。中学校では、その数年後に同じことが起こるでしょう。
「教員あまり」が起きるとどうするかというと、すでに採用した人間の首を切ることはできませんから、新しく採用する教員の数を減らすことで対応するはずです。
受験者数が変わらないという前提だと、教員採用試験の倍率は上がります。教員の質もあがるかもしれません。