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恋の行き先。 〈3〉

カラオケに行ったあの日から数日ぶりの待ち合わせ。

私「髪、カールがゆるいウェーブになってる!」
ツーブロックに刈っていた辺りも随分伸びてマッシュルームっぽくなってる。

敦史「今度は本社だから、大人し目にしといた方が良くて。」

私「栄転でしょ?企画部か何かだったっけ?内勤。」
すっかり遊び人みたいな雰囲気も抜けて、とても似合っている。
これはモテ系男子まっしぐらだ。
と、思うと胸がちょっと痛んだ。
ダメダメ、追ってしまっては。

敦史「くれは。どうしてそうなの?悲観的な結論ばかり頭の中にあるでしょ?」

私「だって、こんなに年上だし、敦史は歳より若く見える。ねぇ、何回私のことを、お母さんですかと人に言われた?」

案外真面目な顔をして彼は言った。
敦史「気に!するな!」

すると何故だかハラハラと水が勝手にこぼれるように両目から涙が流れた。
何かに許されたような気持ちがした。
敦史は慌てて、きつかった?ごめんと言って手を握った。

敦史「年下キラーはハートが強くないの?年下は普通でしょ。」

そう、私は人から『年下キラー』と呼ばれて、からかわれていた。
2歳、3歳、8歳、12歳、16歳年下の恋人が居た。
12歳年下のときに、これが最大値かなと思った。
だが、その次に16歳年下の彼氏ができてしまった。
どこに行ってもよく母親と息子だと思われた。

年下キラーと呼ばれていたなんて、ふざけて喋ってしまったことを後悔した。

敦史は18歳年下だ。
記録更新している場合ではない。

テイクアウトした夕食を持って敦史のマンションに行った。
ちょっと身構えていると、察したのか、どうぞと奥へと歩いて行った。
部屋が何となく寂しい。
荷物が少し整理されている。
ストンとソファに座った。

敦史「ね、車中泊の旅の話を聞かせて。」

面白いエピソードなどもうあまりないけれど、きれいな景色を見た事は話せる。
私「日本海沿いに走るとね。道の駅に新鮮な海産物があって、広場に沢山キャンピングカーが停まっていて、海が端から端まで見えて、すごくきれいだった。泊まりたかったけど、運転に疲れてしまって。」

敦史「軽四で長旅は無謀に近い。」

私「輪島の朝市でね、そこで知り合った家族と貝や魚を半分こして焼いて食べたの。楽しかった。」

まさに一期一会。
旅の醍醐味。
まだまだこんなに知らない人が世の中に居る。

敦史「くれはの家のトイレに輪島の朝市と書いた、布で作ったスルメを壁にかけてるよね。小さなわらじとか。昭和すぎるレイアウトで最初びっくりしたよ。」

私「トイレにわらじを飾ると足がいつまでも丈夫で歩けるんだって。私左足首の関節が悪いでしょ。
それからね陶器の金魚柄の下駄は、金沢で見つけたんだよ。そしてね、」

敦史は笑いながらぎゅっと抱きしめた。
この上もないくらいに優しく微笑んで、言った。
「愛してる。」

それからゆっくりとワンピースのファスナーを下されて、脱がされて行った。

つづく


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