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水色のワルツ聴こえてまたこの世 象の国でひっそりと死ぬために今日 ウサギの唇の動くかぎりは…
離婚しかないねと新子サンが言う 人の死ぬ星のとろんとした夜かな 喉ひらくするりと一人また一…
アハハハと死者と生者が入れ替わる すべてが遠いパーマネントウェーブ 蝶喰らうところ見られて…
チューリップぷりぷり地震から十日 サーモンピンク魚も娘も生臭き なまくら包丁の腑分けがつづ…
よろこんでいる人何か落としそう 成績のわるい男の子が好きだ ほんとうに草木も眠るのだろうか…
コイビトに戻る病み呆けた夫 たんねんに顔から焼いていくお前 さっきからトンボの羽根を嚙んで…
伝説の中にただよう肉片よ ひと振りの鞭で消したしお月様 不意に愛不意に荒野に馬生れり 父を押す そんな気持ちはなかったか 『時実新子1955〜1998全句集』より 1992年、新子63歳の句から4句引用しました。
ぬいぐるみわたしの顎のさみしい日 ねえねえママおじぞうさまに歯はあるの 月の夜の大きな傷を…
誰もいない海マンボウが生きている きのう女であった記憶のあいまいさ 遠い遠い薄荷を取りに行…
悠久へサイもキリンも走り去り 乳と蜜の流るる国へ来た乳房 ころすため薔薇敷きつめる敷きつめ…
眼の中に港が映り以後不明 牛の背にまたもやヒコーキが落ちる 秋になる前のうすむらさきに死ぬ…