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ともだちを売って一枚カヌーの絵 体内にオリオン誕まれたるを秘す 八月のみどりは固し食べられ…
あれからを語りつづけて蛇になる 猫洗うそれも途中でいやになる 鋏で切られ鋏で切られ旅支度 …
ああ肉よモネの睡蓮天に咲く わたくしの顔を失う洗面所 三人で出掛けて二人戻りけり 子を憎む…
あひるふりかえる一大事のように 欅の木わたしを食べて繁茂せり 水底のあなたを掴むやわらかさ…
こんにちは赤ちゃんおそろしい暦 開くバラ閉じるバラ夕暮は忙しい むらさきの子供を連れて橋の…
万引をした日のすばらしい夕日 光太郎智恵子の嘘も花ざかり 雪中の一軒焼いて遊ぼうよ 智恵子…
発光の身の置きどころしののめに 抱き合えば背丈がちがうともだちよ 人間の愛にあふれる格子窓 わたしから滴る水色のワルツ 乳のあたり人の名を持つ花重し 一冊の本テンノウを問い詰める 『時実新子1955〜1998全句集』より 1981年、新子52歳の句から6句引用しました。
賢母からやっと逃れた沈丁花 天国や星はやさしきものならず いちじくの闇をくぐれば岐れ道 愛…
アレキサンダー大王と出る旅の雨 悪人の手にあふれるよさくらんぼ 小さいほうがわたし二匹の鮪…
きらきらと鯖の二尾抱き戻るかな 一斉に乳房を落とす大凪よ 青いコップを割って東京まで眠る …
人のこころを見ていたぼうふらの踊り 手拍子で一人葬る宴かな 美しや馬鹿の大きな目に涙 象か…
押しくらまんじゅうでつぶされた仏さま 獣姦求む急いで森の奥へ来よ 逃げられぬ畳の上のハイヒ…
私ですか ユーフォーを待っている 咳きこめば遠くで沈む船がある みつめると光を増しぬ兜虫 …
まして真夜中のモナリザこそ憎し 胸の中 蟹が一匹また一匹 コーヒーショップぐるみ沈んで花咲く街 ますかっと夫人に憂い尽きざるか 小羊の顔にポツンと雨になる 『時実新子1955〜1998全句集』より 1974年、新子45歳の句から5句引用しました。