『力づくで色を付ける青春』弱キャラ友崎くん 感想

友崎1

エラいものを読んでしまった。

昨晩0時頃、5巻を読み終えた率直な感想。

捻た青春モノには定評のある、というか枠を割いているガガガ文庫期待のエース!ということで一筋縄ではいかない面倒臭さを予想し、何冊かでそれが裏切られ、しかし気を抜いたところで牙を剥いてくる面倒と悪意、そしてその決着。

もう手垢の付きすぎたように思っていた青春ライトノベルというジャンル、そこにはまだまだ未知の地層や宝物が眠っている……そんな風に感じさせてくれたアンチ・アンチ青春物語。


今回この作品を読む昨日まで色々と内側にどうしてくれようというフラストレーションを抱えた不完全燃焼状態、これをこのまま放っておくのは如何にもマズい……と思いつつも触れるゲームや物語もルーチンワークになっていて、何処か新しい領域に無理にでも一歩踏み出さねば!ということでロマサガ3リマスター買う予定だったポイントを急遽電子書籍に切り替え選んだのが屋久ユウキ先生の弱キャラ友崎くんでありました。すまぬスクエニ。

ちなみに短編集含め1~7まで読みました。最新刊はまだ未読。

さて本作、ざっくり書いてしまえば学園のパーフェクトヒロインとゲームで繋がった非リアがそのヒロインに先導されてリア充への道を往くという、まぁ特に目新しさも感じないようなあらすじになるのだけど、その実リア充と呼ばれる人間の持つ能力や属性を分析し傾向と対策を練って弱みを克服、また強みを活かしていくというロジカルに構築された脱非リア物語なのでした。

原因と結果――因果に殊更執着するのはオタクの宿痾みたいなもので、だからこそあくまで論理的に非リアの問題点、リア充のリア充たる必然性を説きながら進んで行くお話は非リアの立場からしても小気味良く、そして必ずしも「女の子との仲」に集約されない方向性は、男性向けライトノベルという枠組みにあって中々新鮮。まぁ女性キャラは多かったりそこにフィーチャーされがちなのはジャンルの宿命なので仕方ないけれど。

合理化、論理化とは力のベクトルを明確にする作業とも言えて、本来経験を踏まえた「なんとなく」でスマートに処理していくコミュニケーションの世界を理という暴力で解明・こなしていく姿はあまりに楽しくあまりに不器用。故に誰よりも器用なようで不器用だったヒロイン・日南に対し、先導されるばかりでなく自分の意志とスタンスが重要なのだと主人公・友崎が自覚し二人が並立する展開を経て、徐々にクラス内での立ち位置を上げていく成長物語となっていく……が、冒頭で書いた5巻、そこに繋がる4巻から毛色を変えた。

一定以上のディテールを意識して学校・青春を描こうと思えば避けて通れない集団の闇、イジメが顔を出す。あからさまな傷害こそ描かれない細やかなものではあるけど、そこには確かに敵意と害意が折り重なった陰鬱な流れがあった。

そしてその問題をそれ以上の闇と、それを晴らす正義でキッチリと解決して見せてくれた。

自分はコメディを読んでいた筈ではなかったか。そりゃ常に笑わせろとかほっこりさせろなどとは言わんけど、悪意に満ちた展開は往々にして作者の自己満足で終わることが多い。その悪意の結露に対しこの納得するしかない積み上げと結果と先への期待感はなんなんだ。

空気が牙を剥いて無辜の民を貫くのはSNS全盛の今珍しいことではないけれど、それを細かに描き、十全の解決に持っていくのは本当に難しい。イジメの発端も複雑に並んだドミノ倒しが偶然イジメという形で倒れてしまったと評され、また俯瞰の立場からはクラスの弱さが被害者の強さに依存しているとも語られた。誰かは悪いが、それを責めて終わるような単純な問題ではない。

そしてそんな物語の帰結ですら、日南の闇の一端でしかないのだ。

当初3巻まで読んだ自分が感じたのは、努力友情勝利の少年漫画三原則。この作品は友崎が紡ぎ感じる友情もまた見所で、交流の為に頑張り、友情を繋ぎ、問題を解決して勝利する……そしてその過程にある師や友の技術に対する飽くなきリスペクト。後ろ向きなようで前向きに進んでいく爽やかな青春は、一時は主流だったアンチ青春物語への一つのアンサーであったように思う。

しかしそれだけで終わらないことを4、5巻で描き、6巻で爆弾を設置し、7巻で一つの大団円を迎える。ここまで綺麗に纏めつつ、それでも解き明かされない陰の部分に期待してしまうのは、それだけのめり込んでいる自分と、そうさせた物語への期待感から。

上でも書いた通り、この物語は論理という力で不器用に押し通る青春である。それはあらゆる力を以て攻略するゲーマーの視点ならではであり、また力には陰が付き纏うという極自然な事からも逃げていない。

力を尽くせばあらゆる物事は解決できる。しかしそれで望んだ結果を引き寄せられるかは別の話で、誰よりも色鮮やかな日南はその実結果と過程の逆転した空っぽのまま灰色の世界を生きていて、逆に友崎はモノクロの世界をたどたどしくも鮮明に色付けいく。でも両者は共に、ゲーマーという立場から力を用いて青春を謳歌しているのは変わらないのだ。

力は手段でしかなく、手段は結果の為にある。

本当の望みという結果を空虚だと否定する日南と、本当の望みという果実の為に進んでいく友崎の平行線の終端が最高の結末で彩られることを今から楽しみにしている。






とまぁ真面目に語るのはこれくらいにしてだね。

み。

みみみ。

みみみみみみみみ。

みみみんみみみんみーなみん。

クソァ!

いや物語開始前から積みあがっていた菊池さんと比較すれば仕方ないのは分かってるし寧ろ早い段階で回収しケリを付けたのは物語が誠実であるからこそなんだけど、それでも短編集であそこまで内面に踏み込んだ描写をされて自分の弱みを自覚しながらも前へ前へと進んでいく彼女には友崎以上に感情移入してしまったからのぅ。

強くなくていい、泣いても我儘言ったっていい。なのに気持ちを殺して背中を押してしまう健気なヒロイン達に愛の手を。

具体的にはifスピンオフで付き合い始めたはいいけど距離感が分からず皆の前でたまと同じ感じにスキンシップしてしまい「あれ今マズいことになってる?」と真っ赤になって抱き着いたまま友崎と一緒に停止してしまうみみみはよ。

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