
くらしのデザイン交流会 2023
テーマ 「自分ごと」としてデザインできるために 障害や高齢のこと
令和5年6月23日に函館市内で初の交流会を開催
・活動の3年目
連携活動の3年目を迎えるに当たって、関係者の皆さまと同活動の‘これから’について考え、テーマを共有することを目的としました。
・交流タイム
集いを進行するに当たり交流タイムを設け、函館市地域交流まちづくりセンター長丸藤さんに司会をお願いしました。丸藤さんの問いかけは、地域社会の課題に向けた実践的な経験によるものでした。
はじめに・・・「研修会ではなく皆でつくる会に」
函館視力障害センター所長
交流会のはじまりは、同センター愛甲所長が、開催の言葉を述べた。令和3年に連携協定が結ばれ、2年間で本活動の取り組みが「生活や暮らし」を見つめるところにたどり着いたこと、様々な「つながり」からお互いを「知る」こと、そして何かが「生まれる」という好循環の大事さを強調、本日の交流会が皆でつくる会になるようにと語った。

1 障害を自分ごととして考える

20年以上前、伊藤先生は同大学の開学と同時に函館市に居住。視覚障害があることで、「一人で暮らせるのか」「親と一緒に来ないのか」といろいろな人から問われた。社会的に弱い立場の者を血のつながりのある者が面倒をみるという社会の構図を切実に感じる。現在は障害者差別解消法を通して、障害者が社会の構成要因という意識は高まってきた実感があるという。つまり障害者が社会のコミュニティを構成する人(person)として受け入れられるようになり、社会の変化を感じていると述べた。
【報告のポイント】
・視覚障害者の約70%がスマホは使いづらいと回答
・アソシエイション(association)VS アイソレイト(isolate)
・社会連携活動は3本の矢
・視覚障害者の約70%がスマホは使いづらいと回答
みんながそれぞれに便利そうなスマホ、視覚障害者にとって果たしてどのような状況か。伊藤先生は、ある調査を参考に、視覚障害者の多くがスマホは使いづらいと感じているということを報告。ITの進展は便利をもたらす一方、利用する側のスキルが追いつかないことは重大な社会の問題と指摘。情報弱者は、時に命の危険に遭遇することがあるという懸念も示した。
・アソシエイション(association) VS アイソレイト(isolate)
アソシエイションとアイソレイト、これは、つながり(前者)か孤立(後者)かという大事な問題。障害者は障害者福祉の対象で囲い込んで支援する(エンクローズ)ということが続いてきた。そこでITとCD(地域デザイン)による情報格差の解消を提示しながら、障害者を含めた「みんな」の意識をつなげたまちづくり、アイソレイト(孤独)からアソシエイション(つながり)にたどり着きたい。
・社会連携活動は3本の矢
社会連携活動のくらしのデザインラボ、3本の矢について図を提示。
1本目:函館圏地域への理解と協力づくり
2本目:プリントディスアビリティの解決支援
3本目:境界なく人々の生活を支援する技術
自分に関係がないことと思いがちな社会の課題を、自分ごととして繋げていくための仕掛けが、くらしのデザインの「3本の矢」である。特に、1本目の矢は、活動の土台づくり、つまり地域づくりとして重要。地域の人が、自分たちでつながりをつくれる機会があることが大事。アソシエイションの方向へと展開し、函館圏からさらに広げたい。
交流タイム:「人口は減っても人交は増やせる」
まちづくりセンター長丸藤さん
函館市の人口は減っているが、人交(人の交流)は増やすことができる。組織と組織の交わりもこれからは、とても大事なこと。スマホも高齢の人達にとってわかりにくいものになっている。社会の課題解決に向け、この土台づくりに期待したいと語った。
2 デザインの力/表現はわかりあうこと

2番目の報告は、函館視力障害センターで情報デザイン講師として活躍する公立はこだて未来大学の岡本先生と同センター教官の渡邉さんによる共創活動である。共創活動として始めた畑づくりは事業連携の活動の土台となっている。そのつながりから新たな活動が展開された。
(1)あはき師*の魅力を伝えるプロモーションビデオ
くらしのデザインラボ1本目の矢(函館圏地域への理解と協力づくり)のコミュニティ活動は複数ある。その一つを代表して‘あはき’の仕事の魅力を伝えるプロモーションビデオ(PV)づくりを紹介。同センターでは、職業訓練として行っている‘あはき師’の養成コースを希望する利用者が減っている。岡本先生は、仕事の魅力が社会に向けて伝わっていないとう現場の教官たちの声に向き合うかたちとなった。十分な予算もなく、エンジニアがいたわけでない。さらにビデオで何を伝えるの?と、ここからつくりあげていく状況にあった。そして、限られた予算から2分間で伝える内容にする必須の条件もあったと、作成当時の苦労を振り返った。その苦労がクライアントとクリエーターを結びつけ、自分ごととして考える契機になったという。
*あはき師(あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師 国家資格が必要な職業である)
【報告のポイント】
・ビデオを2分にまとめるために大切だったこと(岡本先生)
「引き算する作業」 「お互いのギャップを埋める」 「‘あはき’とは何かを知る」
・ことばが通じるために〜プロモーションビデオは社会とつながるメディア〜 (渡邉さん)
・ビデオを2分にまとめるために大切だったこと
(岡本先生)
制作する人とクライアントとの間に、仲介する人(プロデューサー)が本来ならばいるものである。その仲介役が不在なため、参加者が自分の役割を越境して創作に加わることになった。
「引き算する作業」
初期の活動の証となった模造紙には、たくさんの伝えたいことが書かれている。クライアントは、たくさんの伝えたいことがあった。
「お互いのギャップを埋める」
最初に始まった時は皆が人ごとだった。しかしクリエーターもクライアントも一生懸命。だんだんお互いを承認するようになっていった。相手を評価する意識では承認はできない。お互いのギャップを埋めることでビデオが完成した。お互いのギャップを埋める作業が結果として自分ごとになった。それが協働して創作する意味だと思う。
「あはきとは何かを知る」
時間の制約の中、ロケは緊張の連続だった。若い映像ディレクターは、3人の出演者に「あはきとは何か」を問うた。返事に困る出演者もいたが、しばらく考えたのちに自分の言葉であはきの意味を語った。
・言葉が通じるために プロモーションビデオは社会とつながるメディア
(渡邉さん)
渡邉さんは、障害者の国際的な支援活動の経験からも言葉が通じることの難しさを語った。PV作成の過程として、出演者のプロフィールをまとめ、撮影会場の使用許可をとるなど、当日までの細やかなマネイジメントが必要だった。しかし、打ち合わせ当初から、クリエーターと全く言葉が通じていないと思っていたという。ところが、できあがったもの(PV)をみて、(言葉)が通じていたではないか!と、心配していた事柄が一掃された感動の瞬間があったことを伝えた。
実際のビデオを視聴
最後にプロモーションビデオは社会とつながるためのメディアと、岡本教授がまとめた。
(2)市民自らが街をデザインする
函館市の西部地区再整備事業 共創でまちとつながる坂道プロジェクト
【報告のポイント】
・アイディアが描き加えられていく 「くるくるスケッチ」
・まちの暮らしをつくっていこう 「できることを実践」
岡本教授は、人口減少と高齢化が激しい地区で、市民自らがまちのくらしを共創するという活動を行っている。木工職人の皆さんが、地域のために仕事を広げたいという思いから始まったと、活動のきっかけを紹介。当初メンバーは、木工職人さんだけであったが、だんだん増えてきているという。お金(予算)はなく、自分たちが実現したいことを考えて、できることを実践する。そうすると仕事になる、お上に頼らなくてよくなる。
交流タイム:「お互いが開き合うのが大切」
(丸藤さん)
まちづくりの立場から大切にしていることは、自分を開いて自分のことばで話すということ。お互いが開き合うのが大切で、そこから活動が始まる。PVのように自分のことばで話すからかっこいい。
・会場から:「創造がタカラ」
質問(函館工業高等専門学校 濱先生)と応答(岡本先生、伊藤先生)
創造がタカラである。気づきや意識の変化が、自分ごとに変わっていく(濱先生)。その言葉を受け、人ごとになるときは評価者であり、自分ごとになるとつくり手の側になれる。批評するのは容易い。まちづくりもPVも評価は簡単にできるけど、自分ごとにしたときに何ができるか。ここを考えるのが大事(岡本先生)。「開き合う」は、とても良い言葉、ディスクローズは、評価者・相手を批判すること、エンクローズは、自分を守りながら相手を責めることに当てはめられる(伊藤先生)。
3 くらしを意識した大学生の取り組み
DLITE(ディライト)プロジェクト 3年生プロジェクト学習での生活支援技術の開発を通じて
(DLITプロジェクトとは:デジタル技術で社会の人々の生活を支援しよう 障害と健常という境界は持たず、みんなが日常で役に立つものの開発する→ 社会を明るくする)
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三番目の報告は、同大学の学生たちの取り組みである。三上・伊藤先生の指導のもと、昨年度は10名、今年度は指導教授に宮本先生が加わり、11名の学生が社会の課題に取り組んでいる。自己紹介を兼ね、三上先生はお父さんが盲学校の教員であったこと、子どもの頃、自分ごととして捉える環境に触れていたことを話してくれた。80年代の素朴な盲導犬ロボットを画像で紹介、「いまようやく当事者意識で実用を考えた装置の研究開発を進められる時代が来た!」とIT技術が生活の質の向上に貢献できる時代が来たことを強調した。
【報告のポイント】
・時代が来た! デジタル技術で社会の人々の生活をより良くしよう
・学生の興味の目線が技術から当事者に向けられた〜3つのプロセス〜
・時代が来た! デジタル技術で社会の人々の生活をより良くしよう
ラストマンー全盲の捜査官(TBS系「日曜劇場」テレビドラマ)の主演が耳に掛けるだけのAIカメラを使って対象物の様子を確認している場面を引用し、実はドラマだけではなく、市販品でもすでにこのような装置が安価で手に入るなど、技術が大きく進化した時代が来たことを告知。
プロジェクト学習の研究開発では、障害のある人のみならず、社会の境界なく支援する技術開発から生活を豊かにすることを目指しているという。実際の成果物4つの紹介と課題、そして学生の意識の変化を語った。
【開発した成果物と展望等】
(1)上半身の障害物を検知するデバイス
デザインをかっこよく、シンプルな装置にすることが課題
(2)お化粧サポート〜アシストメイク〜
化粧品メーカー(化粧療法)の協力を得ながらデバイスを開発、スマホとの連携による手軽に利用できるようにする
(3)情報エンコード点字ブロック
数字などの情報を与えることができる 「商品化の可能性」介護支援系の企業から開発継続への期待についてコメントあり
(4)サイン音の方向通知
聴覚障害のある人に緊急事態を知らせるサインを知らせるデバイス
スマホに組み込むのではなく単体での開発が必要、精度の向上が課題
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
・学生の興味の目線が技術から当事者に向けられた
「学生の意識の変化 技術から当事者目線へ」
学生の最初の興味は技術目線によるものだったが、次第に当事者目線に変わっていった。そして、手段ではなく目的で話しができるようになった。
「その背景に何があったか・・・」
プロジェクト学習開始の早い段階で、函館視力障害センターの専門職から講習を受けた。お化粧、アシストメイクでは実際に当事者の方が参加するお化粧支援の講習に参加。地域の交流の場で、市民の関心に触れたこと、新聞等のメディアに取り上げられることで意識が向上した。しかし、これは一次的な段階。つまり、技術はあるが、世の中に知られていない状況が大きな課題。
社会からのアドバイスは有効であり、当事者の意識が不自由を減らす方向へと動き出したが、多くの当事者の人に使ってもらう「場」と「企業との連携」が必要。三上先生は、見えてきた課題を踏まえ、2年目となる今年度のプロジェクト学習の計画を報告の最後に語ってくれた。
報告の後は、会場に展示されているデバイスを大学生が説明、来場者と交流した。

4 みえづらい人の見え方体験
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報告の最後は、みえづらい人の見え方体験と題して、「読みづらさを軽減する電子リーダーの開発」と「みえづらさを共有する視野障害のシミュレーター開発」の紹介である。川嶋先生は、今現在、自分自身が字の読みづらさに直面している。
会場に集まっている皆さん全員が、加齢とともに遭遇する問題であることを強調した。
【報告のポイント】
・読みづらさを軽減する
・見えづらいとは、どういう状態か?
・見えていないということに気づかない
・読みづらさを軽減する
視野障害のある方の読みの環境改善を目指し、読みの速度を落とさず読みづらさを軽減する電子リーダーの研究開発を進めている。電子リーダーについては、読み動作の最適な停留により、読みの速度を落とさないことが文章の内容を理解するために大事なこと。時間が文節間改行レイアウト及び視野に合った行の長さに調整することが、内容を理解しながら読むコツであり、読みづらさが軽減する。
・見えづらいとは、どういう状態か?
視覚障害のある当事者(視力障害センター利用者)から自分のみえづらさを伝えるものを開発してほしいという強い要望があった。自分の状況を理解してもらうのに苦労するという。
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・見えていないということに気づかない
また見えづらさは多様であり人により違う。とてもよく見えるところと見えないところがある。見えていないところは気づかない。その気づかないということが、次のスライドで示されている。

今後の開発で大事なことは、みえづらさの共有である。当事者と開発者、一般の人も関わりながら工夫するポイントを一緒に考えることだという。
交流タイム:「みえづらいことに気づかないということ」丸藤さん
地域では困っていることに気づけない高齢者がたくさんいる。また困っていても困っていると言えない。それが当たり前になってしまっている。困ったまま苦しいまま生活している状況がある、見えづらさに気づけないことと同様のことがおきている。
5 アクセシビリティの未来
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交流会のまとめは、同大学と同センターの畑づくりによる交流を共創活動として研究という視点で支えてくれた刑部先生と、同活動を初期のころから見守り助言してきた須永先生である。刑部先生は東京から今回の交流会に参加、須永先生は神奈川の自宅からオンラインで参加した。
まとめ1(須永先生)
・「くらしのデザインラボ」がやろうとしているのは「結果」を生むことではなく「変化」すること
技術のみに着目し、人間を見つめ人間を問う視座がそこにないと、その探究はその活動メンバーにとっても他人ごとになってしまう。三上先生が紹介した、学生が自分ごととして取組むようになったプロジェクト学習の「変化」はとても大事なことを示してくれた。
・何かをやろうとすると違いに出会う
私たちは自分ひとりでは気づけないことがある。誰かと何かをすると、いろいろな違いに出会い、何かに気づく。違いに出会う苦しみが、そこに自分にはない何かを見せてくれる。
・評価者から自分ごとへ
大事なのは、誰かが「つくったもの」や「つくる」その営みを、自分が「評価」していたと気づくこと。つまりその営みが「自分ごとになっていなかった」と気づくことがある。論文書くだけでも本を書くだけでももダメ。「つくる」営みに参加して何かを誰かと一緒にやる。それを自分毎として展開するのが大事なんだ。今、私たちは「つくる」ことを忘れて、「わかること」や「説明すること」に日々注力している。「くらしのデザインラボ」のチャレンジは「皆でつくる場をつくる」ことだと思う。
・くらしのデザインがやろうとしているのは結果ではなく「変化」
技術だけだと他人ごとになってしまう。三上先生のプロジェクト学習のように学生自身が自分ごととして取組むようになった変化はとても大事なことを示してくれた。
・何かをやろうとするとすれ違い問題が起こる
自分では気づかないこと、一人では気づけないことがある。誰かと何かをすると気づける。しかし何かすると、すれ違いが起こる。違いとして気づくと見えてくるものがある。
・評価者から自分ごとへ
大事なことは、自分自身が、「つくる」という行為を「評価」していたことに気づくか、「自分ごとになっていなかった」ことに気づくこと。気づくためには何かを一緒に誰かとやること。つまり「つくる」ということ、これが大事なプロセス。論文書いても本を書いてもダメ。私たちはつくることを忘れてしまったのだろう。わかることや説明する方向ばかりになりがち、くらしのデザインラボのチャレンジは、皆でつくりあげるもの。
まとめ2(刑部先生)
自己紹介を兼ねて。未来大開学から4年半在籍していた。開学当初からいた先生たちが今日はそろっている。認知科学のチームとして伊藤先生と一緒に研究に臨んできたこともある。学習論が専門であるが、近年、幼稚園と保育所の両方の機能を合わせもつ場所「認定こども園」がつくられたことから、子どもたちの生活・くらし、そしてデザインを見直す研究活動を行っている。
・インクルージョンとエクスクルージョン
伊藤先生の報告からエンクローズド(囲われた)の話しから、開いていくという関係性について最も考えさせられた。インクルージョン(包摂)の反対語はエクスクルージョン(排除)。何がエクスクルードされてきたのか、そして何をインクルードしていくのか、とても考えさせられた。インクルージョンとは、それぞれを孤立させないで、多様な関係性を包摂していくことである。
・みんなでつくっていく
岡本先生の報告にあったように、今後は「つくる」ということを中心に考えていくことがヒントになる。『つくることを中心とした学び』という著書を書いているアメリカのハーバード大学大学院プロジェクト・ゼロの主任研究員のClapp氏は、創造性は個人の能力ではなく、様々な人が参加していく過程の中で創造性はつくられていくと述べている。このように、一人でつくることだけではなく、多様な人たちが参加することを通してつくることにも着目してみたい。
・アクセシビリティとは何か
アクセシビリティというとき、今後は、平等性、すなわち同じものを与えれば皆がアクセスできるはずだという考えから、公平性、すなわち個人差を(それぞれの人たちの持ち味を価値あることとして)考慮して皆が同じようにアクセス可能になる未来を考えていくことが、テーマ「みんなが幸せになるアクセシビリティの未来」なのではないかと提案し、本交流会をまとめた。