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メディアビジネスの変革は「ケイパビリティ」と「コヒーレンス」が鍵に。クラシコムが築きたい“広告主”とのパートナーシップ


“1ページビューの価値”を再考する。
メディアビジネスに携わる方は、この言葉に歯がゆい思いをしてきたことでしょう。
いま、この問いを進めるために、2つの鍵が手渡されようとしています。「ケイパビリティ」と「コヒーレンス」です。

・ケイパビリティ
=事業やブランドにおけるそのブランドならではの能力や才能、強み

・コヒーレンス 
=事業が有するケイパビリティと提供する商品やサービスに乖離がなく、一貫性がある状態

これらの観点から紐解くと、コンテンツパブリッシャーの“真の強み”があぶり出される。それを広告主となる企業が活用すると、メディアビジネスは舵を切っていけるのではないか。それが、クラシコムのブランドソリューショングループ マネージャーである高山達哉の見立てです。

この着想は、クラシコムのブランドソリューショングループに3年前からアドバイザーを務めるMoonshotの菅原健一さんの言葉がきっかけでした。菅原さんは、アドテクノロジーやメディア企業の経営経験、そしてマーケティングにも深い造詣をお持ちです。

メディアビジネスは、いかに変わるのか。二人がその可能性を模索します。

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(写真左)株式会社Moonshot 代表 菅原健一
(写真右)株式会社クラシコム 取締役 ブランドソリューショングループ 
     マネージャー 高山達哉


企業はすぐに無駄なことに手を出したがる

高山
すがけんさんが以前に「ケイパビリティとコヒーレンスについて考えることが増えた」とおっしゃっていた、その背景から伺えますか?

菅原
ある上場企業で「時価総額を上げるプロジェクト」に取り組んでいるんです。その企業が実態の割に市場からの評価が低い理由を考えるなかで、僕が「利益を生み出す経営スタイル」を好むのもあって、世界の高収益企業を分析した『なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか』という良書が参考になりました。

その本でもケイパビリティとコヒーレンスの重要性が語られているのですが、会社が有する能力や才能に一貫性を持たせ、社会へ正しく活かすことで、利益が出て市場からも再評価されると思い至りました。クラシコムは、まさにこの法則が当てはまる企業だったんですよ。

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高山
ありがとうございます!すがけんさんが、ぼくらの強みをビジネス文脈で言語化してくれた文章が、今後の戦略でも参考になりました。

(以下、社内Slackでのすがけんさんによる投稿抜粋)

クラシコムのケイパビリティは「顧客に愛されるブランドを作ること」ですね。そのケイパビリティをBRAND NOTEなどの広告商品として、クライアントが享受できる形になっています。
このように、他の同業企業が持っていない優れたケイパビリティを有し、欲するクライアントがそのまま手に入れられる形として商品やサービスが提供できると、活動そのものに一貫性(コヒーレンス)が出ます。
コヒーレンスを持つ企業は戦略と実行にズレがないため、戦略がそのまま活動になります。
クラシコムの戦略は「顧客のフィットする暮らしづくりをあらゆる手段でサポートする」かもしれませんが、それがそのまま「企業の商品を愛してもらう」活動に直結します。 無駄がない企業は当然に利益が出ます。利益が出ると消費者やクライアントへ還元できます(最近なら映画の公開など)。これにより、さらに顧客はクラシコムへ熱狂的になります。
ちなみに、多くのメディア企業が「ケイパビリティ」と呼ぶものは、インプレッション広告、クリック保証広告などの「何をやっているか」であり、能力や才能を意味するケイパビリティではありません。

まず、この2つの要素が掛け合わさると、なぜ利益の向上につながるのですか?

菅原
会社から無駄が減るからです。会社は、すぐに自分たちの才能を見誤り、余計なことに手を出すものなんです。個人で例えるなら、営業の才能を持つ人なのに、勤怠管理や納品業務といったことまで担当している。でも、自分たちの能力が定まっていれば、徹頭徹尾、それだけに邁進すべきですよね。

高山
とはいえ、「何が自社の能力で、いかに一貫性を持たせるのか」を把握するのは難しそうです。僕も広告主など他企業と向き合う中で、そこに課題を感じている声は多く聞きます。

菅原
いや、わからないものなんですよ。市場から見る客観性や他者からの評価も重要ですし、自分自身の内面を見る力も必要です。就活での「自己分析」だって難しいじゃないですか。

高山
確かに、あれ、難しかったです……。

メディアは「規格品の大根」を売るようになってしまった

高山
「ケイパビリティとコヒーレンス」の重要性はコンテンツパブリッシャーの立場でも有効でしょうか?

菅原
これからのメディアビジネスを考える上でも大切です。前提として、従来の広告ビジネスの構造は「広告主→代理店→メディア」でしたよね。

広告主が出稿先のメディアをまとめて仕入れたいと考えた時、これまで代理店は農産物でいうJA(農業協同組合)として機能していました。「大根なら1本あたり1500g、まっすぐで白いもの」と規格を設けるように、メディアなら「リーチ数」や「PV数」を指標にした。

確かに指標は統一化と効率性という意味では有用です。ところが本来は、広告主というレストランは、JAや生産者から最も状態の良いものを仕入れ、美味しい料理ができればよかったはず。それが、いつからか広告主も一括仕入れに頼って「質より量」を選んできた。どのメディアであっても「1PVの価値は同じ」と考えるようになってしまったんです。

あるいは「1CV」のお客様も、本当はLTVで見る必要があるのに、「初回で1000円買ってくれる人」と「初回に1万円買って、その後も毎年何万円も買ってくれる人」を同じような尺度で見てしまった。

高山
そうなんですよね、本当に……。

菅原
そうなると、メディアも買う側の態度に開き直って、広告主や代理店が望む「真っすぐで白い大根」を作り続けました。その状況が、ここ10年ほど前から続いてきた「バズメディアのブーム」だったと思います。メディアは記事をいかに拡散させ、ページ遷移などの仕掛けでPVを増やすか、といった方向に走ってしまったんです。

高山
そして、ユーザーにも広告主にも望まない状況になってきたわけですね。一方で、メディアサイドも「自分の畑でつくる大根の味を、本当にわかってくれるお客さんへ直接売ろう」としても、売り方がわからない。やっぱりJAの方針に寄せることしか出来なかった課題があると。

菅原
そうです。でも、現在はD2Cの時代が到来し、今度は企業がお客様と直接つながったり、メディアと企業が直接つながるような取り組みに変わってきたわけです。クラシコムも代理店経由だけでなく、広告主とプランニングからご一緒することも増えましたよね。

高山
確かにクラシコムでは、全体の90%が、プランニングから提案した直接受注です。その分案件数はトレードオフになりますが、単価を高めることで売上を立てることを、BRAND NOTEを始めた6年前の初期から守ってきました。その構想があったからこそ、D2Cの波が来ても直接受注の取り組みを続けやすかったのだと、今振り返っても感じます。

なぜ「ターゲティングの時代」は到来したのか

菅原
ちょうど12年ほど前、僕がアドテクの会社を経営しているときから「今後はターゲティングの時代です」と、ずっと言ってきました。

なぜかと言えば、既存メディアは単一指向性が強かったのです。首都圏でも7つほどしかないテレビチャンネルを全員が見ていると、たとえば「かっこいい男の子」の基準も似通ってきます。昔なら石原裕次郎で、その後はキムタクで、みたいに(笑)。でも、今は「かっこいい男の子」の定義はたくさんで、「EXILE系」といった系統にまとめられることもある。

それはYouTube、Instagram、Twitter、TikTokといったように視聴メディアが分散化することで、人の趣味や嗜好も分散化していったからです。クリエイターも増えていき、ありとあらゆるコンテンツが分散されていくと、ユーザーの好みも分散化します。

高山
コンテンツの「文脈」さえ、分散化していくところもありますよね。

菅原
「知っているものから欲しいものを選ぶ」という基本ルールは変わらないとしても、情報の仕入れ先がテレビしかない時代と、趣味や嗜好が分散した現在とでは、選ばれ方が全く違います。今は人それぞれの「好き」を選ぶのが当たり前で、個々人の「私らしさ」があちこちで見られるようになったのです。

高山
情報が増えているからこそ、広告主サイドも何かを買ってもらいたい場合、価値観や文脈を踏まえた「好き」にうまく掛け合わせながら、商品の良さを提案していく必要に駆られるようになってきている。ただ、分散化が進むことで、その機会作りの難度も上がっていると。


マスメディアが取りこぼした「細分化」に勝機を見出す

菅原
その状況で起きたのが「興味の再編集」です。たとえば、30年前の洗濯洗剤のCMなら、サラリーマンでスーツを着たお父さんと、家にいるお母さんが子育てをしている映像が定番だったでしょうが、今は働く女性や共働き家庭も増えて、生活が分かれてきた。すると、インターネットメディアはテレビではされない「再編集」を入れるようになってきたんです。

テレビは、どこまでいっても「1億人が見る」という観点で、全員を取りこぼさないように作ります。でも、趣味や嗜好を反映したインターネットメディアにそのような発想は不要です。そして、「北欧、暮らしの道具店」なら「フィットする暮らし」という観点から、読者の興味軸に沿って情報を再編集していきました。

他にも「食」や「スポーツ」のようにメディアは独自に進化して、テレビでは拾いきれないようなコンテンツにまで細分化させたり、特徴をより強く打ち出していったりしました。

高山
メディア側も特化していくと、その情報を届ける読者についても深く知っていくようになりますよね。解像度が高くインプットされていくといいますか。

菅原
そうです。マスメディアがどこまでも「みんな」という集団で捉えるのに対して、「北欧、暮らしの道具店」なら、「どうすればお客様が毎日がもっと楽しくなるか」を考え続ける。時にインタビューもしながら、視聴者をインタラクティブに巻き込みながら、どんどんコンテンツを作っていくじゃないですか。

クラシコムならEC、インターネットメディア、Instagram、LINE、ラジオ、Spotifyプレイリスト、映像……と、自分たちの読者を対象に特化して細分化してコンテンツを作り続けたら、実はそれらが欲しい人たちが何百万人もいたわけです。

コヒーレンスを見誤ると機会損失になる

高山
それらのインタラクションによってデータやインサイトも貯まり、その知見が特化型のコンテンツパブリッシャーとしてのケイパビリティになっていく。ここが今、広告主からすると活用したい価値になっている、という理解でよいでしょうか。

菅原
OKです。しかも、クラシコムはアパレル含め自社ブランドも有して、「愛されるサービスや商品」を作ることに長けているのだと思います。好きになって、とことん付き合ってくれるお客様に向けて、一緒に長く楽しんでくれる物作りができているんですよね。そういう物作りをできる能力は、まさにケイパビリティでしょう。

それを支えているのは、ECやメディアで培った「暮らしが好きなお客様」。ちゃんと「好き」だと思えるものを大切に扱い、長く楽しみ、リピートしてくれるという方々を何十万人と抱えているのが、クラシコムの強みですよね。

高山
確かに、かれこれ10年以上お買い物を続けてくれるお客様も多いですし、EC売上を見ると、まるでSaaSのように積み上がっているんです。10年前からのお客様、9年前からのお客様……と、年次ごとの売上構成比で見ても、土台を強く作ってくれています。

菅原
とすると、ECやメディアのクラシコムとしては、そのケイパビリティを広告主へそのまま商品として届けるのがコヒーレンスなんです。

高山
そこを履き違えて、「北欧、暮らしの道具店」を使って何百万人にリーチしていきましょう!みたいな話にしてしまうと、せっかくのケイパビリティをコヒーレンスでつなぐことが難しくなる。それが利益機会の損失を生むことにもつながってしまうのですね。

「消費者の不在」がラベルレス商品を招いてしまった

菅原
しかも、「北欧、暮らしの道具店」は、「豊かな暮らしをしたい」という志向を持つ人が相手なので、基本的に「卒業」もしません。その志向を持つ人であれば、何歳でも構わない。

高山
お客様は20代から幅広くいらっしゃいます。

菅原
広告主の商品が選んでもらえるならば、その関係も何十年レベルで続くかもしれない。実はこれってD2C的な発想で、特に日本のメーカーが考えてこなかった部分なのだと思います。

コンビニやスーパーに新商品を置くことを優先し、他社と争いながら、自社の新商品でもっても棚を上書きしていく。利益率を下げるような戦いに自ら参入してしまって、「長く買ってもらおう」という思考の戦い方をしてこなかったのでしょう。棚を取るためのCMも、お客様のためには関係のないコストといえます。

最近は「ラベルレス」商品が出てきているじゃないですか。僕はあれ、消費者側からのアクションだと思っていて。たとえ棚を取るために必要な目立つパッケージだったとしても、家に置いたときにはうざったいと。

高山
なるほど……(笑)。

菅原
「もうラベルで競争なんてやめて!」と、ついに消費者が動いちゃったんです。本来は消費者のことだけを考えるか、消費者と直接つながっていれば起きなかったはずの事件です。

まさに消費者不在の事例で、ラベルの価値がゼロになってしまった。もっと、それぞれのブランドが持つセンスを、取りやすい形状や邪魔にならない存在感といった部分で発揮すれば、アイデンティティだったはずのラベルを失わずに済んだかもしれないわけです。

高山
生活者を含めて「生活になじむちょうどよさ」を求めている感じは受けます。消費者と直接つながり、そのインサイトなどをしっかり貯めていないと、それを掴むのもすごく難しい

ある種の「ちょうどよさ」を叶えるUXの積み重ねが、消費者から選ばれる理由になる。それがブランドでも重要になってきているからこそ、その塩梅を知っているメディアとの取り組みにも可能性が広がるわけですね。

日本メーカーは海外勢に勝てなかった轍を踏み続けている


菅原
D2Cでは従来と真逆の戦い方をしています。繰り返し買ってもらえる物作りをして、インターネットで販売する。余計な宣伝もしない分、企業の利益を増やすか、商品代金を下げるか、原価を上げるかということを各企業が判断できます。従来のやり方からD2C的な取り組みへ変えるか、次第に変えていきたいというのがメーカーの本音じゃないでしょうか。

高山
メーカーの方とお話をしても、リソースかけた新商品を市場に出しても、プロダクトのライフサイクルが非常に速く、あっという間に販売終了という「もったいなさ」は課題に感じていますね。あとは、本来はお客様に届ける商品のはずが、棚を取ることへの意識が強く、小売店バイヤーから「いかに好かれるか」という別のコミュニケーションが発生したり。

菅原
メーカー品と一見は同じように見えても、片やD2C商品は自分の使いたいタイミングや悩みも理解され、その解決法も示してくれて、しかも値段が安い商品として、お客様には映る。大企業のブランドやメーカーが、D2Cに本腰を入れ始めている理由も納得です。これからは、お客様たちと一緒に商品を作ればいいんだ、と意識を切り替えているように見えます。

高山
さらにそれを、いかに体験してもらうか、その体験を次のリピートにつなげていくか、というのは、大手メーカーがタッチしてなかった領域だからこそ、クラシコムのような立場からの関わり方として、コラボレーションできることがきっとありますよね。

菅原
あります。日本のパソコンや音楽プレーヤーを作っていたメーカーが、AppleやGoogleになぜ勝てなかったかというと、原因はハードウェアではなく、ソフトウェアにあったんです。

たとえば、タッチパネルをつけるのはよくても、その中のソフトウェアが全然イケてないから、ここ10年はソフトウェアが得意な企業が勝っていった。ハードウェアは生産工場さえ押さえれば、ある程度は作れるようになってきたからというのもあります。

大手メーカーとD2Cの違いもまさに同様で、「お客様といかにつながるのか」といったソフトウェア的な価値が重要になってきているんです。


メディアは「ソフトウェア的な価値」を活かせるか

高山
面白いです! そう考えると、コンテンツパブリッシャーとしても、D2Cにはノータッチだったとしても、常日頃からのコンテンツで培ってきた「ソフトウェア的な価値」を提供するコラボレーションの可能性は、今後も伸びしろがありますよね。

菅原
インターネットメディアも、今はもっと個性的でよいはず。規格化された大根作りに収まるとPVの価値しか出せないままです。その環境の中でクラシコムは、毎月何百万人も見ている人に情報を届けたり、買ってもらえたりする手立てがわかっているわけじゃないですか。

高山
はい、かなり掴めているとは自負しています。アパレル事業もたいへんに好調なんですが、ぼくらの商品の差別化要因って、他と比べても際立った機能的特徴らしいものは無くて。それでも売れているのは、「一貫した世界観に浸れる」という便益に関して、他のアパレルブランドとは異なる価値を発揮できているのでしょう。

菅原
「洋服を買う」というより、買って「使い続ける」に力点が置かれていたり、「北欧、暮らしの道具店」の世界観のものを買いたいといった情緒的価値が強いと思うんですよ。

高山
広告主サイドの企業やメーカーともコラボレーションをするときにも、プロダクト単位で目立つために差別化しようと考えると、おそらく変な方向性にハマりそうですね。世界観をもった総合的なサービスを提案・提供していくことを考え、一貫性を持たせて実行することそのものが差別化であり独自性につながっていくはずです。

菅原
そうだと思います。何しろ今は、商品を「どこから買うか」に移っていますし。それに、そういう約束をするのが本来のメディアだったはずです。たとえば、雑誌は「トレンド作り」に注力することでお客様とつながって、新しい消費のスタイルを作ったり、新商品を生んだりしてきたわけです。それがクラシコムなら、売るところまで一緒に取り組める。

現在は、企業のブランドが自らお客様の輪に入っていき、自分たちが作った輪にも入ってもらいたいというD2C的な取り組みへの転換期。それを5年以上前から、ECやメディアでお客様にたくさんリピートしてもらえる自社商品を作ってきた「北欧、暮らしの道具店」と取り組むことは、ブランドに何かしらのヒントをもらえる機会がすごく多いと思うんですよ。

高山
ありがとうございます! そういうふうに見てもらえると、嬉しいです。

菅原
実は「北欧、暮らしの道具店」がやってることって、海外の最先端なD2Cとほぼ同じ。コミュニティがあり、自社商品も作り、自社商品以外もECで売れていて、なおかつ大手メディアと同じぐらいのメディアパワーを有している。それを、何だか自分たちではわからないままやっている感じで(笑)。

高山
言われてみると、確かに、という感じです(笑)。しかも、全国公開できる映画まで作ったメディアがあるかというと……むしろ、希有なのかもしれないですね。

菅原
そうそう。海外のD2Cの人も、聞いたらびっくりするはずですよ。

薄利多売から抜け出す、ブランド商品の作り方

菅原
クラシコムのケイパビリティは「顧客に愛されるブランドを作ること」なのだといえます。では、メーカーの基本的なケイパビリティは何かというと、それは「ものを作れること」です。ただ、今は消費者が不在なので、何を作っていいのかわからない状態のはずです。

まずは消費者を決めること。そのためにも、メディアとタイアップするのは一手だし、それこそ本当のタイアップだとも思います。今は「北欧、暮らしの道具店」っていうお客さんを直接持っているようなメディアも存在しているわけですから。

あとは経営ベースで見ると、売上はマスに向けると小売に主導されるため、定価で買ってもらえずに薄利多売になりがち。棚を取るための予算などの間接コストも加わり、利益も減ります。そこを無くせば、同じ価格で利益をもっと取れます。利益が4倍なら販売個数は4分の1でもよくなる。薄利多売から抜け出せるチャンスだと思います。

高山
おっしゃる通りです。僕らが誤解されがちで、ぜひメーカーのみなさんに知ってもらいたいのは、ある種のニッチにターゲティングされたお客様を抱えるメディアと組むことは、市場規模としてもニッチに収まるわけではない、ということなんです。

しっかり共感されて買ってもらえれば、その周囲にいる人たちへも広がっていくのは、僕ら自身も強く実感しています。映画の『青葉家のテーブル』を公開したら、自分たちが想像していたお客様はもちろん、想像外のお客様も結構いらっしゃったり。

菅原
広がっていきますよね。「北欧、暮らしの道具店」って、自分たちの世界観をただ売るものを並べてお客様に判断してもらおうというのではなくて、ちゃんとメディアやコンテンツを通してお客様へ伝え、共感をいっぱいもらっているのも強みじゃないですか。

高山
その世界観って、売るものに関して言えば「美意識」と「合理性」が両立しているものだと捉えています。シンプルで研ぎ澄まされているだけでもなくて、そこに使うに値する利便性がある。この両立が重要ですね。

菅原
その定義を敷いた上で、世界観に沿う商品を欲していると。だから、その世界観における「洗剤とは何か」や「飲料とは何か」といったものを、これからメーカーと一緒に作っていけると面白いはず。そこで、メーカーの新しいD2Cも立ち上がるでしょうし。

高山
確かに「消費財としての洗濯洗剤」ではなく、「暮らしの道具としての洗濯洗剤」を一緒に作っていきましょう!……みたいな。今、コンセプトが見えた気がします。

菅原
そこの可能性、すごくあると思いますよ。こういうふうに言えるところが、「北欧、暮らしの道具店」を有するクラシコムが持っている、ケイパビリティだと思うんですよね。

                             (おわり)

【イベント告知】

9月29日(水)に3名のブランドマーケターによる座談会イベントを開催いたします。どうぞご参加ください。


<プロフィール>

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(写真左)
株式会社Moonshot 代表 菅原健一
エンジニアからキャリアをスタートし、20代で大手ブランドと協業で携帯コンテンツの開発・プロデュースを行う。30代ではアドテクノロジー会社のscaleout社の取締役CMOを務め、KDDI子会社のmedibaとのM&Aを成功させる。その後はスマートニュース社でBtoBマーケティング責任者を務め、広告業界で大手広告主の広告を担当。マーケターとしての活動としては経営学者であるフィリップ・コトラー氏の「コトラーアワード」審査員を務めるなど精力的にマーケティングの普及を行う。2018年7月には株式会社Moonshotを創業、日本のみならず海外企業もクライアントに持ち、「問題解決」で企業を成長へと導く。2021年5月よりAppify Technologiesの社外CVO(Chief Value Officer:最高価値責任者)に就任。著書に『THE AD TECHNOLOGY』(翔泳社)など。

(写真右)
株式会社クラシコム 取締役 ブランドソリューショングループ マネージャー 高山達哉
2015年9月にクラシコム入社。「北欧、暮らしの道具店」のブランド広告事業の立ち上げを行い、様々な企業とのタイアップ施策を統括。現在もメディアがもつ世界観やブランド価値を広告主にソリューションとして活用いただく取り組みに従事。

書き手:長谷川賢人

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