【イベントレポート】生活者のリアルに寄り添えば、価値は自然に伝わる。「取っ手のとれるティファール」がお取り組み継続を決めた理由
ブランドの差別化が難しく、生活様式の変化も起きている今の時代において、選ばれ続けるブランドになるために企業は何をすべきなのでしょう?
株式会社クラシコムが主催となり、企業のマーケティング・プロモーション担当の方々に向けて「愛されるブランドになるためのヒント」をお伝えするオンラインセミナーが開催されました。(2021年5月13日)
二部構成の第二部では、株式会社グループセブ ジャパンの新免珠美さんをゲストにお招きして、ロングセラーヒット商品「取っ手のとれるティファール」と「北欧、暮らしの道具店」との2年半にわたるお取り組み事例をもとに、愛されるブランドになるために実践してきた具体策についてお話いただきました。
モデレーターは、クラシコムの高山達哉が務めました。
認知率99%の製品が抱えていた課題
高山
「取っ手のとれるティファール」の認知率が99%と聞いて驚きました。高い認知率を誇りながらも、そこから「愛されるブランド」になるまでにはさまざまな課題を乗り越える必要がありそうですが、具体的にどのような悩みがあるのでしょうか。
新免
「取っ手のとれるティファール」は、取っ手がとれるからこそ重ねてコンパクトに収納できる点は皆さんよくご存じなのですが、取っ手がとれることによって色んな使い方ができるということを、ご自身のライフスタイルの中で自分ごと化していただくことが課題でした。
取っ手をはずせばオーブンや冷蔵庫にもそのまま入れられること。食卓でもお皿のような感覚で使っていただけることなど、多様な使いかたができることまでは、これまであまり伝わっていなかったんですね。
そういったベネフィットをお客さまに自分ごと化してもらうにはどうすればいいか、というのがまずひとつ目の課題でした。
一方で、ティファールはフランスのブランドですから、私たちも数年前までは塊肉を使ったオーブン料理のような、フランスシックな訴求をメインでしていたんですね。でもそういうお料理って、やっぱり普段の食卓には……。
高山
なかなか出てこないですよね。特別感はあっても、日常でつくる機会は少ない気がします。
新免
そうなんです。そういったお料理は塊肉が安価で手に入るフランスならではの食文化なんですね。それをそのまま日本で訴求しても、「憧れるけど毎日はできないよね」となって距離感が生まれてしまうと思うんです。
ですから、「北欧、暮らしの道具店」さんとのお取組みの中でも実際に日本のキッチンでよく作られるお料理、例えばサバの味噌煮やみそ汁を作る際に弊社の製品を使って頂くことで、日本のお客様に歩み寄れたかな、と感じています。
高山
なるほど。ちなみに、商品名の認知度は高くても、取っ手がとれる以外のベネフィットが伝わっていなかったという現状は、どのような手段で認識されていたのでしょう。
新免
数年前まではテレビCMをメインとした広告展開をしていたんですね。15秒の尺の中で、製品のベネフィットをきちんと紹介はしているものの、きちんとご理解いただけているか、疑問に感じていました。
ほとんどの方はフライパンを購入する際にそんなに真剣に検討しませんよね。スーパーやオンラインサイトでお値段を見てパッと買う、という方が多数派ではないでしょうか。そもそものカテゴリーへの期待度が高くないんです。
でも、「取っ手のとれるティファール」は実際に使っていただくと、「あ、こんなに便利なんだ!」と驚いてくださるお客さまが多く、リピート購入率も非常に高い製品のひとつです。
「北欧、暮らしの道具店」さんとのお取り組みで、CMでは伝えきれなかったさまざまなベネフィットを、お客さまに伝えられたらという思いがありました。
生活者に寄り添ったコミュニケーションを
高山
ありがとうございます。「北欧、暮らしの道具店」とのお取組みを決めていただいた理由は大きく4つあるそうですが、教えていただけますか。
新免
1つ目はInstagramフォロワー110万人、You Tubeチャンネル登録者数42万超というSNSフォロワー数の多さ。2つ目はタイアップ広告に対してお取り組み企業さんからの満足度が高いことです。
でもそれ以上に決め手として大きかったのは、記事に登場してくださるスタッフの方のインフルエンス力、そして読者のライフスタイルや気持ちに寄り添った記事テーマの選定や構成力です。
私自身、実際にお取り組みをするまで、タイアップ記事に登場されている方々が「北欧、暮らしの道具店」さんのスタッフの方だと知らなかったんですよ。しかも実際にお住まいのご自宅までそのまま公開されていて。読者さんからも、「スタッフの方のライフスタイルが参考になるから「北欧、暮らしの道具店」さんの記事が大好きです」という熱量の高い声がたくさん届いていると伺って、そのインフルエンス力をぜひともお借りしたいなと思いました。
新免
最後に挙げた「ライフスタイルや心情に寄り添った記事構成」は、継続してお取り組みさせていただいた理由とも重なります。他社さんとのタイアップ記事からも感じたのですが、生活者の方の「実はこういうところがずっと気になっていたんです」「こういう使いかたができるおかげですごく気持ちが楽になりました」というリアルな生の声が、記事からすごく伝わってきたんですね。
出演してくださった方たちが、実際にお料理をしている中で撮影を行い、同時進行でインタビューをした内容を記事化してくださいますよね。記事構成と連動した製品の良い点を口語体でタイアップ記事にしてくださる点も、読者さんが自分ごと化しやすい点なのではないか、と考えています。
アンケート回答結果から自社の“足りない部分”も見えてきた
高山
フライパンやお鍋を買い換えるだけでも、クオリティ・オブ・ライフって上がりますよね。僕らも生活者としてその実感はあるので、等身大の目線でそこを伝えていけたらという気持ちは常にありますね。
単発の試みでは終わらせず、トータル約2年半にわたってお取り組みを継続していただいていた理由についてもお聞きしていいでしょうか。
新免
私たちはメーカーですから、お客さまから頂いたご意見をとても大切にしています。「北欧、暮らしの道具店」さんとご一緒したタイアップ記事には毎回たくさんの読者さんから自社製品に対する熱量のあるアンケート回答をいただけて、とても参考になりました。
プレゼントを付けていないにも関わらず、弊社の場合にはありがたいことに毎回1000を超えるアンケート回答をいただくことができました。実際に製品を使っていただいている方はもちろん、使ったことはないけどこういうポイントをもっと知りたい・この部分が気になりますというご意見をもとに次回以降のタイアップ施策に活かしています。
自社ウェブサイトへのCTRの高さにも非常に満足しています。とても長文で、読み応えのある記事ですが、最後までしっかり読了していただいた上で、常に想定以上のCTRを叩き出していただけるので、その点は継続実施する上で高いエビデンスになりました。
リアリティが共感を生み、態度変容につながる
高山
さまざまな切り口からのお取り組みをご一緒してきた中で、新免さんにとって印象深かったのはどの記事でしたか。
新免
1本目、2019年7月公開の記事はとりわけ印象に残っています。初回でしたから色々ディスカッションさせていただきながら、「取っ手がとれることのメリットをどう伝えたらいいか」とお話していく中で、「北欧、暮らしの道具店」さんのスタッフの方の中に愛用者がいますとご紹介いただけて。
高山
「取っ手のとれるティファール」愛用歴6年のスタッフに出てもらった回ですね。このトップ画像だけを見ても、これまでのティファールさんの世界観とはちょっと違う、日本らしいおうちの感じがありますね。「北欧、暮らしの道具店」という媒体のカラーに寄り添っていただけたように思えます。
新免
そうですね。メーカー側としてはこのカラーやこの製品を使って欲しいという気持ちはもちろんあるのですが、スタッフさんからのご要望で珍しくステンレスタイプの製品を使って、普段よくご本人が作っていらっしゃる和食をメインとしたレシピを切り口にしたタイアップ記事にしていただきました。
もう2年前の記事ですが、自社ホームページで二次利用したページのトラフィックや、オンラインショップへのクリック率はいまだに高いんです。「ああ、こういうコンテンツを皆さんは求めていたんだな」と私たちもあらためて実感しました。
※2021年7月1日時点のスクリーンショット
高山
もうひとつは「伝説の家政婦」としても有名なタサン志麻さんにご登場いただいた動画だそうですが、こちらは「北欧、暮らしの道具店」のタイアップ動画の中でも過去最高の再生数となりました。
新免
ありがたいことに、タサン志麻さんももともと「取っ手のとれるティファール」を愛用されていたんですね。ちょうどこのタイアップの撮影時期は最初の緊急事態宣言下でおうち時間が増えて、たくさんの方が調理器具と向き合う時間が増えたタイミングでした。
ご家族のためにお料理を作る機会が増える中で、お料理を作ること自体に負担を感じている方が多くなっていたので、ティファールの調理器具を使うことで少しでもご家族との時間を楽しんでいただけたら、という気持ちで動画内容を工夫しました。
高山
僕も一視聴者として、志麻さんの動画が新鮮でした。製品の使用動画ではあるのですが、ちょっとドキュメンタリーに近い、暮らしの様子がリアルに伝わってくる感じでしたね。
新免
そうなんです。お料理を作っている間に、下のお子さんがぐずっちゃって、ガスコンロの火を止めたりしてしまったのも、すごく微笑ましかったですね。
この時はタサン志麻さんがよく作られているというグラタンを作っていただきました。「日々のお料理はなるべく簡単に作って、その分、家族との時間を大切にしたい」と普段からおっしゃっている方なので、取っ手がとれるからこそオーブン料理ができるところや、さっと洗える便利さ、パスタをゆでたりソースを煮込んだりという作業をひとつの道具で手際よく使い回せることを、自然に表現してくださったと思います。
単純にグラタンのレシピが知りたい、という動機でこの動画を見た方も多いと思いますが、見終えた後に製品への購買意向が促された事例だったのでは、と感じています。
長くリピートされるサイクル作りを
高山
ここまでのお話をお聞きして、「愛されるブランド」の愛は熱狂的な愛とはちょっと違うかもしれないな、と感じました。激しい愛ではなくて、暮らしに自然に馴染んでいて、「これでいいんだ」と自分を肯定できる。そんな状態が「愛される」ブランドの条件かもしれません。では最後に、今後ブランドとしてチャレンジしていきたいことについて教えてください。
新免
「取っ手のとれるティファール」の新規ユーザー数を増やしていくこと。ティファールならではの優位ポイントを知っていただくことの2点です。
取っ手がとれるフライパン・鍋は他社さんからも発売されていますが、この製品カテゴリーのパイオニアブランドとして、取っ手がとれることでどんなメリットがあるのか、ということをまずは知っていただきたい。その上で、他社製品にはないティファールだからこその製品の特長を伝えることで新規ユーザー数を増やしていけたらと思います。
「取っ手のとれるティファール」の最大の優位ポイントは、取っ手の機能性です。片手で簡単に開閉ができて、かつ安全性が高いという機能性の高さをちゃんと備えている製品は、実はすごく珍しいんですね。
そのメリットや使い勝手のよさがしっかりと伝われば、次に買い換えるときにも「またティファールにしよう」というサイクルができるはずだと思っています。そこまで落とし込んでいけたら理想的ですね。
高山
それはまさしく生活者視点のベネフィットですよね。新規ユーザー数を増やしていくためにはブランドを主語にするのではなく、第三者が主語になるコンテンツやコミュニケーションの形を増やしていきたいということでしょうか。
新免
そうですね。これまでのタイアップ広告やCMを振り返ると、消費者の方が登場するコミュニケーションはほとんどなかったんです。でも「北欧、暮らしの道具店」さんとの一連のお取り組みを通じて、自分に近しい「人」が登場することによる親近感を持っていただくことの重要性をあらためて実感できました。そこから製品への愛着も生まれていくのかもしれません。
高山
「取っ手のとれるティファール」の価値を理解した上で使っていただくことで、お客さまからファンになってもらう。さらに、そこからリピーターになっていただくためには、ユーザー視点のUXなども含めて循環させていくことが重要かもしれません。今日は貴重なお話をありがとうございました。
登壇者プロフィール
株式会社グループセブ ジャパン マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション部 デジタルマーケティングマネジャー
新免珠美氏
インターネット系広告代理店でメディアプランナーを経験後、渡仏。帰国後、米系ファッションブランドを経て、2017年2月より現職。デジタル広告のプランニングから、クリエイティブのサポート、ホームページの運用企画を担当。
株式会社クラシコム 取締役 事業開発部 部長 ブランドソリューショングループ マネージャー 高山達哉
2015年9月にクラシコム入社。「北欧、暮らしの道具店」のブランド広告事業の立ち上げを行い、様々な企業とのタイアップ施策を統括。現在もメディアがもつ世界観やブランド価値を広告主にソリューションとして活用いただく取り組みに従事。
書き手:阿部花恵
※「取っ手のとれるティファール」とのお取り組みは以下よりご覧いただけます
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