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メーカー視点ではなく、顧客視点に振り切る。相手の心を動かすブランドコミュニケーションのあり方【イベントレポート】

株式会社クラシコムが主催となり、企業のマーケティング・プロモーション担当の方々に向けて開催している「クラシコムサロン」。第18回目は特別に2日連続で、ブランドの「世界観」そして「顧客視点」についてのセッションを開催しました。

Day2では「メーカー都合にならないために。“顧客視点”のブランドコミュニケーションとは?」と掲げ、博報堂ケトルの船木研さん、そしてライオンの内田佳奈さんをお迎えしました。

ともに第一線を走るお二人は、「顧客視点」をどう理解し、マーケティングやコミュニケーションに活かしているのでしょうか?

モデレーターは、クラシコムのブランドソリューショングループマネージャー 高山です。

絶滅寸前の「絶メシ」が巻き起こしたコミュニケーション


高山

今回は、「顧客視点」をテーマ設定しました。「北欧、暮らしの道具店」では、弊社がこれまで磨いてきたブランド価値やノウハウを活用し、主にマスブランドを対象にしたマーケティング支援を行っております。

これまでさまざまなブランドマネージャー様やマーケティング担当者様とお話してきましたが、業種を問わず共通の課題があると感じていました。そのひとつが、「お客様の視点に立つことの難しさ」です。

今回は、事業会社の立場からライオンの内田さん、そして事業会社のマーケティングコミュニケーションを支援する立場から博報堂ケトルの船木さんに参加いただき、事例のご紹介も含めてお話できればと思います。

まずは簡単に、自己紹介をお願いします。

船木
私は博報堂ケトルが立ち上がった2006年から所属している設立メンバーで、2019年に現在の代表取締役共同CEOになりました。もともとはアート系の出身でして、現在もクリエイティブディレクターとして、企業の事業開発支援からPRまで“手口ニュートラル”に手がけています。

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内田
デジタル系のベンダーを経て、2014年からライオンに勤めています。デジタルコミュニケーション担当を経て2016年からマスも横断したプランニングを、そして2020年からエクスペリエンスデザイン部で薬品部門のコミュニケーション全体の戦略設計に携わっています。

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高山
早速ですが、お二人から「顧客視点」を重視して成功した事例をご紹介いただきたいと思います。船木さん、いかがですか?

船木
ケトルではいわゆる物理的な商品、モノも数多く担当しているのですが、受け手の視点を加味することで思わぬ発展を遂げた、コンテンツを軸にした例を持ってきました。群馬の高崎市のローカルキャンペーンとして展開した「絶メシ」です。ケトルのクリエイティブディレクター・畑中翔太が、テーマ設定から担当しました。

高山
そもそも、高崎市のPRのために「何をするか」から考案されたんですね。それが、絶滅しそうな飲食店をフィーチャーすることだった、と。

船木
はい。老舗の洋食屋さんなど、近い将来にお店をたたんでしまうかもしれない飲食店の料理を「絶メシ」と名付け、人を呼んで、存続の後押しにしたいと考えたものです。これがテレビ番組に多く取り上げられ、大きな話題になりました。

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そこから書籍の企画につながり、また畑中がテレビ東京さんにドラマ企画を持ち込んで、ドラマ化も実現しました。さらにドラマを観た飲食関係者が直接連絡をくれて、昨年は新橋に食堂をオープンしたんです。

高崎市の担当者さんも、一連の流れをとても喜んでくれて、僕らとしても単年キャンペーンで終わらずにこんな展開になって学ぶところが多かった事例です。

高山
これだけ大きな展開になった理由を、どうお考えですか?

船木
最初にフィーチャーした料理や、店主の方々の魅力もありますが、「絶メシ」というたった3文字がカギだったと思います。この字面と「絶やしたくない絶品メシ」というコンセプトがわかりやすかったから、多くの方の支持を得られ、領域を超えた活動の“渦”を次々と生み出すことができました。

もちろん、ある程度の構想はありましたが、こうしたPRは自分たちが計画したからといって思い通りになるものではありません。受け手の視点を踏まえて構想していたから、そこに実態がついてきたのではないかと思います。

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洗っても残るイヤなニオイを「ゾンビ臭」と命名


内田

私からは、2019年の春に発売した洗剤「トップ クリアリキッド抗菌」のキャンペーンを紹介したいと思います。実はこれ、更なる新商品が販売開始されることが決まっていた商品なんです。通常品のリニューアルに伴って、消臭成分が除外され、一方で1年後に消臭に強い洗剤の発売が決まっていました。ただ、空白の1年間の需要を逃すわけにもいかないので、その間をつなぐために発売されたのが、この商品でした。

そうすると、宣伝費は潤沢にありません。普段のブランドの10分の1以下で、テレビCMも出稿できないなか、最速で認知と「消臭効果が高い」イメージを獲得することが課題でした

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高山
それで、ゾンビ!。

内田
はい(笑)。洗濯物についたイヤなニオイを「ゾンビ臭」と名付けて、長く提供していたテレビ番組『ごきげんよう』からライオンちゃん、そして小堺一機さんにも登場いただいて、ゾンビ臭と戦うWebムービーを制作しました。

もちろん、ただインパクトを狙ったわけではなく、顧客視点でとらえたペインから構築したコミュニケーションでした。それを図解したのが次の図ですが、起点にあるのは「洗ったのにニオイが取れない」という生活者の困りごとです。擬人化……と言えるのかわかりませんが、この状況を“ゾンビ”に見立てたことは、あくまで困りごとへの共感を呼ぶブースターです。そこに、当社が活用し得るアセットとして『ごきげんよう』を重ねました。

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内田
結果、「ゾンビ臭」はYahoo!トレンドランキングで1位を獲得したり、「ゾンビ臭」を認知した人の2人に1人はちゃんと商品も認知していたりと、大きな手応えを得られました。

テレビ番組やWebメディアにもたくさん取り上げられ、SNSの投稿は12万件に上ったのですが、SNSでは「めっちゃわかる!!」というゾンビ臭の疎ましさに共感する声が多かったですね。「バスタオルからゾンビ臭がすごい」とか(笑)。顧客の視点で考えていったことが、私たちのマーケティングゴールにちゃんと紐づけることができたと思います。

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船木
「ゾンビ臭」も、字面がいいですよね。洗ったのにイヤなニオイがする、という事象にぴったりくるイメージです。

高山
「絶メシ」もそうですが、生活者に知ってもらいたいこととブランドとして伝えたいことをつなぐ言葉が、顧客視点のコミュニケーションにおいて大事なポイントになりますね。

企業はなぜ「顧客視点」から離れてしまうのか?


高山
ここからは、トークセッションに入りたいと思います。事前に6つ、話題を挙げてみました。まず、左上の「企業が『顧客視点』を持ちにくい理由」をお聞きしたいのですが、冒頭で少し触れたように、事業会社の担当者さんも「メーカー都合だと何も伝わらない」ことは重々承知の上なんですよね。顧客の視点から考えるべきだとわかっている、それなのにその姿勢を貫けないのはなぜなんでしょうか?

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内田
これは当社も“あるある”ですね。顧客視点になり切れないのは、やはり「企業が伝えたい商品情報」にどうしてもフォーカスしてしまうことが大きな理由ではないかと思います。

もちろん企業活動なので、伝えたいことがあるのは当然なのですが、自分たちの思いを施策の構造や広告のフォーマットのどこにどのように落とし込むかが整理しきれない状態で進んでしまうと、良い結果にはならないですよね。方や、ストレートに商品の良さを語る広告でも、ちゃんと聞いてもらえるフォーマットもあります。なので、自分たちの思いも施策の目的も含めて顧客視点で設計することが必要なのだと思います。

高山
なるほど。船木さんはいかがですか?

船木
顧客ニーズからつくったマーケットインの商品なのか、それとも企業側が提案したいプロダクトアウトの商品なのか、という話と似ていますね。昔は「いいものをつくって広告すれば売れる」という後者の考え方が主流でしたが、今は逆になりつつある。でも、その流れに乗り切れない……という難しさに、多くの企業が直面していると思います。実際に、商品開発の相談も増えています。

企業が「これは必要だろう」と考えてプロダクトアウトの商品開発をしても、そこに顧客がいなかったらまったく意味がないですよね。商品を生み出す段階から、顧客視点をよく理解して、商品そのものを綿密に設計していかないといけない。

高山
となると、やはり「顧客理解」がこれからの事業において最も大切になる、一丁目一番地だと言えそうです。ただ、同時に今は「顧客の多様化」も著しい時代ですよね。先ほどの話は、続く「『顧客を知る』ために実践していること」「属性による『ターゲット設定』の限界」の話題にも通じると思うのですが、顧客が見えにくくなっているなかで、どのような実践が有効なんでしょうか?

船木
ターゲット設定の限界というのは、確かにそう感じます。そこで有効な……というと、回答のひとつとしてはデータ分析がありますが、僕の感覚ではピンとこない。どこにお客さんがいるのかなと、投網的に探すのは、デジタルマーケティングが発達した今は可能な手段だとは思います。でも、投げた結果、誰一人いなかったということも起こり得るな、と。

ちょっと抽象的ですが、最初はごく小さくても「ターゲットのコア」となる種のようなものを探して、せっせと水をやって育てていくような、ボトムアップの視点のほうが確実な感じがありますね。

内田
その感覚、よく分かります。たとえばWeb広告は今も“30代女性・子育て中”のような属性での括り方をしますが、もうあまり手応えがないですよね。そうではなく、SNSで実在の人が語っている生の言葉や、その人がフォローしているアカウントの傾向などを手掛かりに絞り込んだときのほうが、反応が良かったりします。属性ではまったく区切れない世の中になっているんだな、と実感しますね。

深掘りする方向性と、異業種にまで視野を広げる方向性

高山
では、そのようなリアルな価値観やライフスタイルから「まずはこの人たちに届けよう」とコアを見つけるために、内田さんはどうされているんですか?

内田
そうですね、“オタクになる”ことを大事にしています。Twitterだったり、@cosmeの口コミだったりをとにかく読み込み、こちら側で「こんな価値観かな」というアタリをつけながら、そういう人がどれくらいいるのかをまた深掘りして検証していきます。

船木
それ、ケトルの若手メンバーもやっていますね。生の情報をシャワーのように浴びまくる。そうするとターゲットのコアがだんだん見えてくる……とはいえ、すごく時間がかかりますよね?

内田
そうですね……! なので、それを楽しめるかが大事だと思っています。船木さんは何か工夫されていることはありますか?

船木
僕はオタク的に深掘りするのとは逆のアプローチで、意識的に広告業界以外の人と話したりして、視野を広げるようにしています。異業種とアライアンスを組んだりするのも、お互いに全然違う顧客が見えてきたりするので、有効ですね。

高山
話題のひとつに挙げていますが、それはまさに「越境」ですね。ここまでのお話で、顧客視点のポテンシャルや向き合い方がかなりつかめてきたのですが、それを実際の施策につなげるには、コアアイデアへのブリッジが重要になりますよね。「『顧客視点』→『コアアイデア』へのつなげ方」は、どうすればいいのでしょうか?

船木
そうですね、ケトルはずっと“手口ニュートラル”を標榜してきましたが、最近その範囲がコミュニケーションに留まらずソリューションや事業や販売方法にまで拡大してきています。「絶メシ」も、単に高崎市をPRする伝達のアイデアではなく、絶メシ自体をブランドのように捉えて「どこまで広げられるか」を考えたから、お店からドラマまでたどり着けた。

高山
以前は「コミュニケーション上でどうブリッジするか」を考えていたのが、コミュニケーションもいち要素になって、店舗や映像コンテンツや新規事業なども俯瞰した上でブランドの確立を考えている……ということでしょうか。そうすると、顧客視点を踏まえつつ、社会的な視点も大事になってきますね。

内田
私たちも、自社プロダクトの特徴や存在意義と、社会的な関心事との接点がどこにあるかを考えるようにしています。その重なりに、コアアイデアのもとがあるのではないかと。その関心事が、アプローチしたい顧客にとってどのくらい重要かがポイントになると思います。

顧客の気持ちが動いた瞬間をKPI化する


高山
なるほど、それを推し量るにも顧客視点が必要ですね。次に「『数値化』と『顧客視点』」と挙げましたが、企業活動である以上、数値化は避けられないテーマだと思います。デジタルマーケティングを駆使することで、例えばCVRなどを引き上げるためにPDCAを高速にまわしていく一方で、果たして購入に至らなかった人の気持ちには気を配らなくていいのか、という議論もあります。

船木
わかります。先ほどお話しした、投網式でターゲットを絞り込んでいく方法でCVRなどが便利に使われると思いますが、場合によってはかなり広告コストの浪費が発生してしまいます。その上、想定する結果が得られないと分析にもコストを投じていたら目も当てられない。

なので、その点でも、ターゲットのコアを見つけて育てるほうがコスト効率は良いと思いますね。最初は小さな渦でも、アジャイル型で試しながら、次がもう少し大きな渦になるように。事業会社の立場だと、数値化については悩みが多いのではないですか?

内田
悩みますね。効率がどうかというより、お客様の気持ちが動いた瞬間の差異を数値化したいと考えています。それなら、とても意味のある数字かなと。なので「ゾンビ臭」のときはSNSの自発的な投稿数や、2人のうち1人が商品を認知していた、態度変容に関する指標をKPIとして把握していました。

もちろんKGIとしては目標シェアなどを見ていましたが、それにつながるものとして「発話」を大事にしていますね。どれくらい、口の端に上るか。

船木
それ、すごく大事だと思います。デジタル上で生活者の発話をつかめるようになった今、何らかの施策の結果が“無風”というのは避けたい。どれだけブランドを広く訴求しても、誰の気持ちも動かなかったら、それは顧客視点を全然捉えられていないということではないでしょうか。逆に狭い範囲でも強い反応があったら、最初の渦を大きくしていける可能性があるように思います。

高山
なるほど、同感です。広く浅くではなく、狭い層でもコアな顧客の視点をつかむことが、結果的に事業の成果を大きくする要因ではないかと思いました。今日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

構成・執筆:高島知子

11月16日(火)にクラシコムサロンを開催します

今回は花王株式会社にて「クイックル」シリーズのマーケティングを担当されている加納麻衣様をお招きして、ロングセラーブランドである「クイックル」が行った新しいチャレンジについてお話を聞かせていただきます。

イベント概要・お申し込みは以下よりご確認ください。


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