アイアイ – 地方における鑑賞教育の取り組みを探るメディアサイトのこと
バタバタだった2022年が終わりつつあり、年末に向けて何がバタバタだったのか振り返りをしようのコーナー第3弾。
今回は、2022年に注力したと言ってもいいプロジェクト「アイアイ」のこと。地方における鑑賞教育の取り組みを探るメディアサイトとしてプロジェクトを進行しています。(この記事は対話型鑑賞 Advent Calendar 2022への寄稿記事でもあります。)
はじめに
ここでの「対話型鑑賞」は特定の流派を指す用語としては用いません。
筆者は、2021年より対話型鑑賞ナビゲーターの活動を、地元である鳥取県で実施しています。
2021年にまとめた記事のように「地方で実践する」ということをキーワードに掲げ、今回ご紹介する「アイアイ」というプロジェクトを実施しています。そういったことも踏まえて、長文を読んでいただけますと幸いです。
アイアイとは
「アイアイ」は美術鑑賞・鑑賞教育についてのメディアサイトです。2022年、全国の10の実践者の取り組みを聞きました。
アイアイのロゴデザインにも含まれていますが、このメディアサイトは「地方における鑑賞教育の取り組みを探る」といった点を核にしています。
プロジェクトリーダーである筆者の地元である鳥取県及びその周辺地域とする日本国内の地方で美術鑑賞・鑑賞教育に携わる実践者10組へのインタビューを実施し、メディアサイトへ公開していくというプロジェクトです。
また、この取り組みを通して、これからできる鳥取県立美術館(令和7年春開館予定)にも、教育普及の観点でのアプローチを試みることを1つの目標にしています。そして、現在公開しているメディアサイトが鑑賞と美術の関係を見直す機会となり、また、全国の実践者達や、この分野に関心のある方々の学びのきっかけとなりますように、という願いも込めて実施しています。
プロジェクトを始めた経緯
筆者が生まれ育った鳥取県では、先述したように鳥取県立美術館が令和7年春開館予定です。
全国でも後発の県立美術館となる、鳥取県立美術館には、子どもたちをはじめとするすべての人々の「美術を通じた学び」を支援する美術ラーニングセンター機能を設けられる計画が進んでおり、この記事を執筆している2022.12.21時点では、「アート・ラーニング・ラボ(A.L.L.)」と名付けられ、開館に向けた取り組みが進められています。
ただ、昨年2021年の時点では、現在公開されている概念図もより、小〜高校生を意識した概念図であったり、県内小学4年生(または3年生)を対象にした対話型鑑賞がメインであるような広報の仕方を成されていたように思います。
筆者は、昨年2021年より対話型鑑賞の実践をスタートさせ、鳥取県立博物館での研修講座やバス招待事業に参加し、美術館側の皆さんの考えに触れる機会がいろいろとありました。
そうこうやっていく内に、筆者の中で「鑑賞」に対する認識がバグり始めて「鑑賞なんやねん」という気持ちが強くなったことが今回のプロジェクトを始めるそもそものきっかけとなります。
という考えに発展し、自分自身のバックボーンや鳥取という地域性を踏まえて、何か新しいことにチェレンジできないかと試行錯誤したところ、公益財団法人小笠原敏晶記念財団(以下、小笠原財団)の文化・芸術の担い手への助成というものを発見しました。
小笠原財団の取り組みは令和から新しくスタートしたもので、新しい試みに支援してくださるチャンスがあるのではないかと思ったのです。
筆者は、独立する前は鳥取大学地域学部附属芸術文化センターという部署で約2年、アートマネジメント講座の事務局を担当しており、業務の中でアートマネジメントであったり、学生時代から興味のあったプロジェクトデザインを修得したと言っても過言ではありません。(と、仕事をご一緒した先生方から言われており、とても嬉しい限り、、、)
そういった経験があり、独立してからも地元のアートプロジェクトに参画し、マネジメントを担当する場面もあります。その中で、そのプロジェクトの申請を書く場面は何度もありました。ですが、自分のプロジェクトで申請したことはありませんでした。筆者は、自分が発端となり、何かをするということが極力苦手だったからです。(そのような経緯はこちらの記事の中盤で書かせていただきました)
でも、対話型鑑賞を始めてから「何かが変わるかもしれない」と自分の中で新たなことにチャレンジしたい気持ちが沸々と沸いてきました。いろんな思いや考えと、新しい試みに関して支援してくれるかもしれない団体へ申請してみたい、という気持ちが募り、提出日ギリギリまで作成し申請してみました。筆者にとっては、初めての自分自身のプロジェクトの申請だったので、記念受験のような気持ちでした。申請すること自体がチャレンジなことで、棒にも箸にもかからないものかもしれない、と思っていたのです。なので、昨年末に採択連絡が来た時は本当に驚きました。とんでもないクリスマスプレゼントが遅れて届いた、、、と呆然しました。
ただ、採択されたということは、これは認められた企画であり、協力者に採択連絡を共有した際、「やるからには良いものにしよう」と改めて反応をもらえたことがとても嬉しかったです。
今年の2月からプロジェクトを始めて、約11ヶ月。ABOUTにクレジット掲載しているメンバーを始め、インタビューにご協力いただいている皆さん、関係者、と本当に多くの協力を経て、プロジェクトを進行しています。心より感謝です。。。!
いろいろと言葉足りてない部分もありますが、筆者がこのメディアサイトをプロジェクトとして進行している思いは、ABOUTにまとめていますので、よろしければそちらをご覧ください。
インタビューを終えて〜鑑賞に迫っていく〜
実は、昨日12/20が10組目のインタビュー。今回の目標の1つでもある"鳥取県内外で美術鑑賞・鑑賞教育に携わる実践者10組へのインタビュー"は達成することができました。年末年始をかけてプロジェクトメンバーが執筆を進行してくださっています。
現在、公開されているインタビューは、鳥取県内の実践者4組です。ぜひ、ご覧ください。
今回、この記事(note)を読んでいただいている方の中には、「このメディアサイトは対話型鑑賞のことを書いてあるものではないか」と疑問に思われた方もいるかもしれません。
筆者と鳥取大学地域学部の竹内先生と佐々木先生と進める研究チーム内でも「このプロジェクトでは対話型鑑賞のことをリサーチするのか?」ということが当初からの議題でした。プロジェクトリーダーである筆者としては、対話型鑑賞を始めてから、より「鑑賞」とはなんなのか、という考えが強くなったため、そこのみ、ということではありません。では、そこを明らかにするために何を軸にするのか。
研究チームで議論をし、以下のような考えに辿り着きました。
今回のプロジェクトの申請テーマは、"現代美術の見方は「地方」でも学べるか〜鳥取とその周辺地域における「鑑賞教育」の実態から考える"というものです。なので、「鑑賞」と「美術教育」がキーワードとなります。
そこを網羅するため、仮説を立て、当初予定していたオルタナティブ的な人選ばかりではなく、教育現場で実践している美術の先生方や、「鑑賞」と「美術教育」をテーマに研究されている研究者・実践者の方々から多くお話を聞きながら、”周辺から「鑑賞教育」の実態から考える”という形でプロジェクトを進行しています。
鳥取県外の実践者の方々のインタビュー公開は、コロナ禍に負けつつある私も含むメンバーの事情も考慮しながら、年明け以降の公開になりそうです。
(もしかしたら年内にもう1記事上げれるかも。。。?)
ぜひ、いろんな方々が考える「鑑賞」と「美術教育」の考えに触れていただき、読んでいただいた皆さまの見直す機会となり、また、全国の実践者達や、この分野に関心のある方々の学びのきっかけとなりますように。
ここからが本番
10組分のインタビューがようやく終わり、これでプロジェクト終了ではありません。むしろ、ここからが本番なんです。。。!
①は、インタビュー全てがメディアサイトに掲載できているわけではないので、そこを来年の2月目標でがんばっていきます。
②は、メディアサイトが開設した記念やこのプロジェクトの振り返りになるようなものを来年2-3月で実施できたら良いな。
③は、一番がんばりたいところ。やはり、今回のインタビューがどういうものかを明らかにするのが大切で、併走してくださっている鳥取大学地域学部の竹内先生と佐々木先生の力をお借りしながら、インタビューから見えてきたそれぞれの取り組みの共通項や独自視点を浮かび上がらせることと、次世代に伝え、活用してもらえるような「鑑賞教育」の在り方を提言していきたいというのが最終目標です。
また、助成金の採択自体は今年度のみ(次年度も申請してみてますが、現時点では結果が分からず)ですが、今後も何らかの形で「アイアイ」メディアサイトの拡充であったり、インタビューを読んでいただいた皆さんとのコミュニケーションを図れる場を模索していきます。
筆者及びプロジェクトチームとしては、何もなかった場所に1つの道のりを開示して、これを元にいろいろな意見や交流できる機会を産み、今後のネットワークづくりや次世代のための何かを作り続けていくことが大事なのではないかなと考えています。
このプロジェクトにご興味を抱いた皆さま、インタビューを読んで刺激になった皆さまなどなど。感想をお待ちしております。ぜひ、お寄せください!
おわりに
今回、「対話型鑑賞」のことについて何かを知りたい方からすると肩透かしのような記事だったかもしれません。
ただ、筆者としては、地方で活動する私たちのことや、「鑑賞」はもっと豊かなものだということを知っていただきたいと思っています。
先日、最後のインタビュー対象者であった鳥取県立博物館美術振興課の皆さんに「対話型鑑賞」の考えをお聞きしました。
筆者は、この応答をいただいたことがすごく嬉しかったです。自分自身が「対話型鑑賞」を始めて「変わった」と捉えているので、そういった人達を意識的に鳥取県が増やしていこう、と考えていただけているのは大切なことだと。
鳥取県は、全国でも人口最少県で、全国でも後発の県立美術館が数年後にできる場所です。ブリロの箱で様々な動きがある面が全国的にも知れ渡っているかもしれませんが、鑑賞教育に熱い実践者や鳥取県内での動きをこのプロジェクトを通じて知って欲しいです。また、鳥取県内には様々なアートプロジェクトや情報発信をする団体もあります。そちらも是非。
筆者は「生まれ育って何も無いので、大学は県外へ」と鳥取を飛び出し、4年前にUターンで戻ってきましたが、鳥取がもたらす「余白」に救われている部分もあります。また、鳥取のアートシーンを面白く感じており、コミュニティや人材が限られている面もありますが、こじんまりしているからこそ生み出せる大切さもあるように感じています。
Uターンで戻ってきて、筆者自身はこの県に生まれてよかったなと思っていますし、生まれ育ったこの地に対して、「何か恩返し」ではなく「自分自身が自分でいられるように遊びながら開拓していきたい」というような思いが強いです。
昨年の記事でも書いたのですが、筆者自身の願いとしては、『作品をみて語れる人を増やしたい。作品の受け取り手を育てていきたい。』といったところです。美術を通した学び、がこれからの世を生きる上で救いになるかもしれません。そういった魅力を感じており、その灯火を絶やさないように今後も何かしらで動いていけたらと思っています。
いただいたサポートで本を買ったり、新しい体験をするための積み重ねにしていこうと思います。