謎の壺~古代オリエントとの繋がり〜
ウームブロカント倉敷美観地区店は、オーナーのご兄弟が中国四国地方の旧家から出たアンティークを収集して、展示販売しています。
奥の部屋を覗いてみたとき、一瞬にして輝くような存在に惹きつけられました。棚に近づいて見ると、高さ12.3cmの小さな壺でした。女性的でなんとも美しい壺です。壺の足下がすっと伸びているので、ハイヒールを履いて屹立した美女に見えます。店長の岡さんに訊いてみると、オーナーが岡山県内の旧家から買い取ったもので、お茶を入れて保管する茶壺として使われた、江戸時代の薩摩焼らしいのですが、由来はよく判らないとのことでした。
お店の棚で出会った壺
壺には銘がありません。釉薬に浸けるときの指の跡が残っていますし、土を成形して乾燥させている間に少し傾いてしまっています。名も無き陶工によって、日用品として大量生産された陶器のようです。
黄金比や、白金比、白銀比といった抽象的は美しさが隠されていないかどうか計測しましたが、近い数値はありませんでした。
そもそも、こういった比率は、安定してほっとできる美しさを具現するものです。この壺は、重心が高く、不安定な感じで、見ていると胸に迫ってきて緊張が高まりますので、普遍的な比率とは別次元の美を秘めているのでしょう。
伝統的な茶壺について調べてみると、どれも胴体が全体的にふっくらしていて、この壺のような、切れ込んだ形をした類例は見当たりませんでした。
この日本的でない、エキゾチックな美しさの由来はどこなのだろうか?その時、ふと思い浮かんだのが、岡山市立オリエント美術館で見たアンフォラの壺です。アンフォラは、オリエント世界で紀元前より使われていた、ワインや穀物を貯蔵するための陶器の壺です。この壺は、とりわけ古代ギリシャで多く造られた壺と形が似ています。
兵庫県丹波市の西山酒造場が、アンフォラをモチーフにした容器でリキュールを販売しているので取り寄せてみました。酒瓶と壺を並べてみると、思った通り、この壺がアンフォラの影響を受けているのは間違いなさそうです。
アンティークの壺とアンフォラをモチーフにした西山酒造場の酒瓶
どのようにして、江戸時代の名も無き陶工がアンフォラのことを知ったのでしょうか?謎は深まります。ですが、ともかく、江戸時代に壺と最初に出会った旧家の当主と令和の時代にいる筆者とが、オーナーのご兄弟と店長の岡さんを仲介にして、数百年の時空を越え、審美眼で繋がり合えたのです。その不思議な縁(えにし)を想い、いにしえの空気が胸を通り抜ける爽快な心持ちを味わいました。
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