ゲームみたいに仕事をすれば遊ぶように働ける『玉樹 真一郎 「ついやってしまう」体験のつくりかた』
人は一体どんなときに自ら行動するのか。果たして、その行動は本当に自分で考えたものなのか。もし人為的な企画だとしたら、そこには「ついやってしまう」みたいな体験デザインが隠されているのかもしれません。
元は任天堂で企画担当をされていた著者による本書『「ついやってしまう」体験のつくりかた』では、コンピュータゲームという身近な題材を例にして「どうやって人の心を動かせば良いのか」を解説しています。
本書の題材こそはゲームですが、ビジネスシーンから家庭まで様々な場面で応用できる考え方が詰まっています。
人は、つい仮説を立てて考える生き物
本書の中で以下の式を見ると、どんな気持ちが湧くのかという話があります。
1+1=?
無意識に「2」を想像したのではないでしょうか。私は、すっかり「2」をイメージしてしまいました。これは「計算しろ」と言われたわけでもないのに、「つい」考えてしまったわけです。
人は勝手に補完して考えてしまう生き物である特性を活かしたデザインです。シンプルで簡単そうに見えると、つい考えてしまうものです。
ゲームとプログラミングは似ている
スーパーマリオやゼルダ、ドラクエなど、様々なゲームに隠された「つい」夢中になってしまう仕掛けが紹介されています。
ドラクエの「ぱふぱふ」が登場するのは、なぜ大事だったのか。スーパーマリオの「Bダッシュ」があることで、なぜ楽しいのか。どれもユーザを夢中にさせる仕組みだったのです。
それで思ったのは、プログラミングとゲームについて。コンピュータゲームはプログラミングして作るものですが、そもそもプログラミングがゲームのようなものではないか、と私は常々考えています。
プログラミングでは、どのように作れば良いコードになるか、なんども判断が求められます。それを考えることも楽しい。うまく動くようにするためには試行錯誤が求められて、失敗したとしても何度もやり直しがききます。思い切ってやってみたことがうまくいくこともあれば、失敗することもある。
新しい知識を得て、実際に試してみたり、自分が書いたコードがコンピュータの中で動くからフィードバックがある。何度もプログラミングしているとレベルアップしていく感覚が得られる。
プログラミングにハマり出すと、つい続けてしまう。楽しくて終わりたくない気持ちになる。これは、もはやゲームよりも楽しいゲームなんです。
ユーザに寄り添うとはどういうことか
ユーザのことを考えずに「一般的にこういうものが良いはずだ」「常識的にこれが正しいはずだ」などと「良さ・正しさ」を振りかざすデザイン・・・これこそが、デザイナーを待ち受ける最大の罠です。
(略)おもしろいと感じてもらうためには、遊び方が「わかる」までユーザを導くことが絶対条件です。要は、「わかる」は「良さ・正しさ」よりも大切なんですね。
おもしろいゲームは、おもしろさよりもわかりやすさを追求しているといいます。つまり、ユーザがおもしろい!と感じるのは自分で操作して、考えたことが合っていたときにおもしろいと思うのだから、面白さそのものを演出するよりも、おもしろいと感じられるようなわかりやすさをデザインするのです。
これは、ウェブサービスの設計にも応用できそうな考え方です。ソフトウェアの設計をしていると、つい複雑で、機能が盛り沢山のものを作ってしまいがちです。あれもこれも合ったほうが良いだろう、実際に使い出すと、こういう機能が欲しい、となって追加してしまう。しかし、初心者にしてみると難解になってしまって、使いこなす前に使うことを辞めてしまう。
ビジネス用のソフトウェアだって、ゲームのように最初は簡単でシンプルな状態にして、そこから熟練してくにつれて機能が増えていくような設計はできるかもしれません。
「ついやってしまう」デザインが求められる
「ついやってしまう」デザインというのは、個人の嗜好が多様化した現代でのサービス提供や、指示命令のないフラットな組織マネジメントといった場面にも応用できる考え方です。
特に私たちソニックガーデンでは、「遊ぶように働く」という考え方があり、そのためには社員たちは強制されて働いたり、義務感や責任感で駆動されて働くのではなく、自主的に楽しいから働くというスタイルを実現しようとマネジメントしています。
このマネジメントは、普通に指示命令・統括管理の手法に比べて難易度が高いものです。働いている本人たちが「働かされてる」という感覚を持たせないようにしながら、それでも事業や組織にとって価値のあることに取り組みたいと思えるようにしないといけないからです。
このマネジメント自体も、なかなか難易度の高いゲームと言えます。そんな私たちのマネジメントでも、この「ついやってしまう」デザインを実は結構とりくんできていました。
たとえば最近だと、社内限定のYouTube配信を始めたのですが、「見るように」と周知するのではなく「つい見てしまう」という状態を作るのはどうすれば良いか考えて、普段みんながログインして使っている仮想オフィスの右下あたりに動画を表示して目に入るようにしました。そうすると結構みてくれるようになったのです。
本書を通じて、こうしたことを改めて体系化して学ぶことができました。他にも色々と応用できることがありそうなので、もう何度か読み返すことになりそうです。
興味を持ったら、ぜひ上のリンクから買ってくださいね。