ひとり暮らしについて
介護の現場から老前整理®を考え始めて、女性と男性の考え方の違い、問題解決をするにはどうすればよいか。これが初期のころに考えたことです。
次の問題が「ひとり暮らし」でした。これは独居が増えることを考えれば避けられず試行錯誤を繰り返しました。またいくつかの段階を経てたどり着いたのが現在のロボットなのですが、ここにたどり着くまでどのようなことを考えていたか、第1段階としてNHKラジオ第2放送こころをよむ第10回でお話しました。(2014年6月8日放送)テキスト
ここでお話したひとり暮らしについてを、数回に分けて少しずつ書くことにします。
ころをよむ 第一〇回 ひとり暮らしになったら
高齢の一人暮らし
最近は孤独死について取り上げられることも多くなりましたが、一人暮らしをしていればその可能性は否めません。というか、いつ具合が悪くなるか、寿命の灯が消えるか、完璧な予測ができないからです。しかし、今心配しなければならないのは、孤独死よりも、それまでの一人暮らしの暮らし方ではないでしょうか。
そこで三人のひとり暮らしの状況についてご紹介しましょう。
八〇代半ばの女性キミさん(仮名)の家の前にある朝、救急車が止まりました。ピーポーの音が大きいですから、家の中にいた隣人たち数人も驚いて出てきました。
みんな気にはなるけれど、事情がわからず外から遠巻きに玄関を見守っていました。結局キミさんが担架で運び出されることはありませんでした。というと、悪い予感がしますか。
ところがキミさんは亡くなっていたのではありません。数日食事をしていなくて栄養失調だったのです。なんだ、そんなことか、人騒がせな話だと思われるかもしれません。しかし高齢者の栄養失調は稀ではありません。食事のバランスが悪かったり、体調を崩した時に陥りやすく、命にかかわることもあります。最近なら熱中症もそうですね。
キミさんは長年元気で自分から「おはよう」と近所の人に声をかける明るい人でしたので、ヘルパーに来てもらうこともなく、一人で生活していました。
だから隣人たちはまさかそんなことになっているとは思いもよりませんでした。
身寄りがないうえ、今後一人暮らしは困難なので、民生委員主導でキミさんは施設に入居することになりました。
なんと冷たい隣人たちだと思われますか。そんなことになっているとは知らなかった、気づかなかったのです。それぞれに、ミカンをたくさんもらったからとか、節分にイワシをたくさん買ったからと持って行ったり、気にかけてはいたのです。しかしキミさんに家の中まで通されることはなかったので、それ以上踏み込むことはありませんでした。土足で人の家に踏み込むということばがあるように、ずかずかと招かれもしないのに入り込むようなことはしなかったのです。だから定期的に声をかけることまでは思いもしませんでした。そして、ある朝、救急車のピーポーでキミさんの異変を知ったのです。
『心と暮らしを軽くする「老前整理」入門」2014年 NHK出版より