ピアノの行方
「実」をとるか「思い出」をとるか
子どもが独立して家を出て行ったのに、ピアノや電子オルガンなどが残っている場合があります。二つの事例を紹介しましょう。
六十代の女性Aさんのお宅には大きな電子オルガンがありました。三十代の息子が学生時代に弾いていたものです。ここ数年は誰も触っていません。
Aさんは、息子が日本にいるなら「何とかしろ」と言うけれど、単身ドイツで仕事をしているので仕方ない、自分で何とかしようと思いました。どこかお役にたつところはないかと思いつく知り合いに声をかけ、近くの幼稚園で使ってもらうことになりました。
次は五十代の女性Bさんです。子どもの頃に弾いたピアノが、八十代の母親がひとり暮らしをする実家で眠っています。この古い木造の家をリフォームすることになり、工事の間ピアノをどこかに移動しなければならなくなりました。
Bさんはもう弾くこともないし、この機会に誰かもらい手があればと従妹に声をかけると、欲しいとのこと。何十年も放置していたのでクリーニングし、ピカピカになったピアノを運ぶ手配をしていると、母親が猛反対です。結局、従妹には事情を話して謝り、リフォームの終わった家にピアノが戻りました。調律も済ませ、生まれ変わったピアノが音を奏でることはありません。
Bさんにとってピアノは母親に習えと言われただけで、中学の頃にはやめてしまいました。しかしこのピアノは母親がBさんのために夫の反対を押し切って買ったもので、娘を通して描いた母親の夢の象徴でもあったのです。
自分のピアノだと思っているからBさんは処分を考えたわけですが、母親には「自分がお金を出したピアノ」だったのです。こうしてAさん宅の息子の電子オルガンは「弾かないことがもったいない楽器」で、Bさんのピアノは母親の「思い出の家具」になりました。
ピアノ以外にこのような思い出の楽器が眠っていませんか。学生時代にブラスバンド部いたなら久しぶりに演奏してみるのもよし、ギター、フルート、琴や三味線など中古の楽器を買い取ってくれる楽器店もあります。楽器もどこかで音を鳴らしたいと思っているかもしれません。
イラスト なかだえり氏 『転ばぬ先の「老前整理」』2016年 東京新聞より
ロボットみらくるの今日は何の日? が音楽の日なので、楽器に関わる話をアップしました😉