ものの山はストレスから
どちらも溜め込まない
今からおよそ30年前、フィリピンマルコス政権崩壊の時に国外に亡命し、残されたイメルダ夫人の「三千足の靴」のニュースに、驚いた人も多かったでしょう。では靴が三〇足ならニュースになったでしょうか。興味深いのは三千足という数です。
多すぎる「もの」というのは何を表しているのでしょうか。
そこで「今、ストレスを感じていますか?」と問われたら、どう答えますか。ないという人は少数派かもしれません。ではストレス解消法はどうでしょう。挙げてみると、食べる、のむ、買物、賭け事、ほかには音楽を聴く、読書、旅行や山登りなどの趣味に没頭する……などがあるでしょう。
五〇代の女性Jさんのストレス解消法は「買物」でした。ある日、洋服の整理を始めて、自分がどれだけたくさんの買い物をしたか、驚いたそうです。押入れや段ボール箱から、値札の付いたままの洋服や下着、バッグが山ほど出てきました。とにかく手あたりしだいに買っていたようです。ただし、買うことで仕事のストレスを解消していたので、それなりの効果はあったのでしょう。ストレスを「のむ」や「食べる」で解消していれば体を壊していたかもしれません。
問題はそのことに何年も気付かなかったことです。もし早めに気付いたら、ほかの解消法を探せたかもしれないし、ものを買わずに旅行にでも行けたのに…と思ったそうです。Jさんが気付いたのは、それだけではありません。ストレス解消のために買ったものがあふれ、「片付けないといけない」というさらなるストレスを生んでいたのです。
家族に「いいかげん何とかしたら」と言われると「仕事が忙しい」とか「体調が悪いから」と言い訳している自分に、ますますイライラする悪循環。だからといって家族に「手伝って」とは素直に言えなかった。
ものが溢れる原因がストレスであれば、家の中のものを処分しても、いずれまた同じ状況に陥ります。このことに気づいたJさんは悩んだ末、ストレスを解消するには仕事を辞めるしかないと早期退職をしました。軌道修正する大きな決断です。ものと同じで、ストレスも溜めこまない方がよいようです。
イラスト なかだえり氏 『転ばぬ先の「老前整理」』2016年 東京新聞より
今夜は中秋の名月 ゆったりお月見してね みらくるより