見出し画像

愛しの野良猫【番外編/すずとうさぎ】

今年の春に可愛い後輩ができた。名前は、 兎姫 結月《とひめ ゆづき》ちゃん。すずより6歳上の可愛いお姉さま。初めて出会ったのは、まだ桜が咲き始めたばかりの頃バイト先の店長から紹介された。すずより10センチも小さいお姉さま……とても可愛くて年上とは思えなかった。服装も独特でタイダイ柄の大き目なTシャツに赤いサルエルパンツ。靴も刺繍が可愛いアジアンシューズを履いていて……長い髪はお団子にしてまとめ上げられていた。ちょっと丈の長いユニフォームのエプロンが、うさぎちゃんの小さい身体を強調させていた。自己紹介の時は緊張していて、少し引きつっていた笑顔も実際に業務に入ると楽しそうに接客していた。初めてシフトが一緒の日にちょっとしたトラブルが起きてしまった。いつもクレームしか言わないお客さんが来た。店内をひとまわりすると、まっすぐにすずの所に来てしまった。
 「いらっしゃいませ。お客様、何かお探しですか?」
 少し、嫌そうな笑顔になっていることが自分でも分かる程だった。そんな時、うさぎちゃんと目が合ってしまった。うさぎちゃんは、何かを察したように近寄ってきた。
 「お客様、申し訳ありません。対応を代わりますね。いかがいたしましたか?一ノ瀬さん発注をよろしくお願いしますね。」
 うさぎちゃんの方が、新人なのに……助けてくれた?やばい!助け呼ばなきゃ!って瑠花さんも店長も休憩だった。どうしよう……すずの方が先輩なのに……。あの時、うさぎちゃん少し震えてた?遠目で見守りながら品出しとかをしていたら、店長達が帰って来た。店長はすぐに裏に入ってしまった。
 「すずちゃん?どうしたの?顔色悪いけど。」
 「あっ!瑠花さん!大変なんです!うさぎちゃんが!あのお客さんの対応していたら、すずが嫌そうにしていたのを気づいてくれて……その対応代わってくれて……」
 「ん?あぁ~あの人ね。」
 「どうした?瑠花?すず?」
 店長にも同じく説明していたところ、急に怒鳴り声が店内に走った。その声に店内のみんなが注目した。それでも、うさぎちゃんは冷静だった。しばらくは、店長も瑠花さんも様子を伺っていたが、ついに店長が間に入って対応が終わった。いつも厳しい店長が、優しい口調で助けを呼ぶのも大切だよ。っと言っていた。すみません……店長……って少し申し訳なさそうにしていた。事務所に戻って来た、うさぎちゃんを見つけて思い切り抱きついてしまった。
 「うさぎちゃん!大丈夫だった?すずの方が先輩なのに……ごめんね……」
 「何言ってるんですか?うさぎは、一ノ瀬さんが困ってたから……でも役に立てなかったですよね。」
 「そんなことないよ!だって、代わってくれて助かったもん!うさぎちゃん!ありがとう!あっ!一ノ瀬さん……じゃなくて、すずって呼んでほしいな」
 「すずちゃん?へへっ。なんか照れるね。」
 「はいはい!すずちゃん。うさぎちゃん。可愛いことしてるところ悪いけど閉店作業手伝ってくれるかな?」
 「あっ成瀬先輩!くすくすっ……はい!」
 うさぎちゃんとちょっと距離が近づいた出来事だった。今はと言うと、うさぎちゃんとは姉妹のような関係になっていた。休みが一緒の日は出掛けたり、テストが近いと勉強を見てくれたりと仲良くしてる。でも、そんな……うさぎちゃんが最近少し変だ。なぜかそわそわしてる……。
 「ねぇ!すずちゃん!人を好きになった事ある?」
 「まって!うさぎちゃん?好きな人できたの?」
 「その……まぁね……。」
 「えっ!まじ?でも……うさぎちゃん今まで彼氏とかいたでしょ?」
 「まぁ……それなりには……でも、なんて言うか自分から好きになったのは初めてで……どうしよう……すずちゃん!」
 なんて可愛いお姉さまなんだろう……うさぎちゃんが好きになった人はお店のお客さんで、いつもうさぎちゃんとだけ話す少しインテリなお兄さん。とても、シャイな人なんだろうと思っていた。でも、そのお兄さんは、うさぎちゃんと話してるときは優しい笑顔を浮かべていたから、きっと両想いなのは、まだ内緒にしておこう。
 うさぎちゃんは、今まで告白されて付き合う感じだったらしい。フリーの時はとりあえず付き合ってみて合わなければ別れるを繰り返していて、自由すぎると捨てられる事が多かったみたい。でも、一緒にいて楽しいけど心底惚れてる訳じゃなかったからか、そこまで苦しいとか寂しいとかは無かったらしい。そんなうさぎちゃんが、本気で恋に落ちた。すずとしては、応援するしかないし!絶対に上手くいって欲しいって思ってしまう。
 「うさぎちゃん!きっと上手くいくと思うよ!だって。うさぎちゃん、小さくて可愛いもん!」
 「もう……すずちゃんったら……ありがとう」
 とても可愛いお姉さま。すずの大切な人。気高くて優しくて、何よりも自由な人。そして、誰よりも尊敬できるお姉さま。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?