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 今日は結月が休みの日。結月はお姉さんと出かけるって言ってたな……。
「店長~うさぎちゃん居ないから寂しいんじゃないですか?」
「成瀬!働けよ……」
「はーい!おっとお客さんだ。俺行きますわ」
 まぁ、成瀬が言うことも間違いでもないわけだ。いつも、忙しなく動きまわる結月がいないだけで……とても静かに感じる。それもそうだ……普段の明るい声が聞こえないのだから。
「瑠花……悪い事務作業してくるわ……」
 いつもより、多い事務作業をこなしていると疲れが溜まってるのか立ちくらみがした。たまに起きることだが、いつもと何かが違うと思った瞬間に意識を手放してしまった。気が付くと病院のベットだった。瑠花から聞いた話しだと瑠花が発注をしようと事務所に来たら倒れていて慌てて救急車を呼んで今に至るとのことだ。
「朱音さん……無理しすぎですよ。全く……いいいですか?精密検査とかもあるので、しばらくは店に来ちゃダメですよ。」
「あの……瑠花……結月には……その……」
「はいはい。結月には、もちろん。ほかの従業員にも言いませんよ。それに成瀬にも口止めしておきます。」
「瑠花……ありがとう……」
「さっさと治して、元気な朱音さんに戻ってください。店は安心してくださいね。」
 そういうと瑠花は、帰って行った。瑠花のこういう所には、いつも助けられる。精密検査か……何も無いといいが……。そんな事を思いながら眠りについた。数日が経ち精密検査の結果も出た……過労だと先生に怒られてしまった。もう、無理が利かない年齢になったのかと思ってしまった。でも過労で本当に良かった。もし、妹と同じ病気だったら仕事どころか私生活も今まで通りとはいかない。妹は治療も虚しく若くして星になった……。同じ道を辿ると思うと少し恐怖すら感じてしまった。あの時、妹はこの恐怖と戦っていたのかとおもうと久しぶりに会いたくなった。
 無事に退院して1週間程ゆっくりした。久しぶりに妹の墓参りに行くと、まだ備えたばかりの花があった。住職に聞くと妹を支えてくれていたあの子が毎日墓参りに来ていると言っていた。つい、お墓に向かって話しかけた。姉ちゃんは、元気してるよ。あんたに似た女の子が店で働いてて飽きないんだよ。全く……アンタが生きてたら結月みたいな感じなのかね?って。体調も戻り久しぶりにお店につくと、結月が接客をしてるのが目に入った。その雰囲気が、何故か少し気になった。
「瑠花……結月が相手してるお客さん。初めての人?」
「最近、よく来るのですよ。とてもシャイなのか。何故か、うさぎにだけ心を開く感じなんですよね?」
「そっか、だいぶ仲良さそうだったからさ。」
「店長~気になるんすか?なんか可愛いですよね。相手の男の子、学生さんですかね?最近うさぎと良く見かけますよ」
「別に……!ほら、それより成瀬!発注したのか?」
 結月に顧客が出来た事は良いことなのに心がざわめき立つのを感じた。成長していることが嬉しくもあり寂しくもあった。しばらく、そんな結月を見守り過ごしていた頃。突然、結月とすずが声をかけてきた。
「店長!見て欲しいものがあるんです!」
「なんだ急に?二人して」
「あのですね……初心者キャンパーさんの為に、榛名湖でイベントしませんか?」
 きっと二人で一緒に考えた企画なんだろう。カラフルな企画書に目を通した、榛名湖のキャンプ場でデイキャンプのイベントか。内容としては基本的なキャンプギアの使い方……そして簡単なキャンプ飯のレクチャー。ワークショップで簡単な楽器作製……面白い事を考えるものだ。でも、このイベントで肝心な所が足りていなかった。
「すず……うさぎ……企画は確かに悪くはない。でも足りないな。この企画でうちの売り上げに繋がる意図が見えないんだが……」
「お店の新商品を持ち込んで体験してもらって。キャンプでも使える楽器作りのキットを販売して。キャンスタでもライブしたらどうでしょう?」
 まだまだ……甘いが若い二人が真剣に考えた企画だしな……チャレンジさせてあげたいと思ってしまう。成長に繋がるかもしれない……。二人の瞳がキラキラと期待に満ちているのを痛いほど感じた。
「前向きに瑠花と検討してみるよ。よく考えたね……」
「店長!ありがとうございます!すずちゃん行こう!」
「うさぎちゃん!上手く行くといいね。そういえば、あのお客さんと進展あった?」
「えー!特にないよ!でも、かっこいいし、可愛いのよ!」
「えー!でも、絶対にうさぎちゃんの事……好きだと思うんだけどな……だって、うさぎちゃんとしか話さないじゃん」
「そうかな?ちょっと頑張ろうかな」
 全く可愛い二人だな……と思ってると会話に耳を疑って睨んでしまっていた。
「店長……顔怖いですよ。うさぎだって恋くらいしますよ……」
「わかってる……なんか……つい妹みたいでさ。」
「確かに朱音さんの妹って、うさぎに雰囲気似てますもんね。心配になりますよね。」
 まぁな!と軽く返事した。内心とても落ち着かない……可愛い妹に好きな人ができるって……こんな感じなのか。相手の男の子がいい人ならいいか……とか、色々と考えてしまう。若いっていいなぁ……若い時の恋愛ってあんなに可愛いもんか?自分のときは素直になれなかったなぁ。素直になれたら、もっと早く凪と付き合えてたのだろうか?
 
 
 
 
 

 
 

 
 
 
 

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