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なんで「薬はじめてガイド」を作ったの?(3)

「発達障害の当事者とまわりの人のための薬はじめてガイド」中の人1号、仲田が薬はじめてガイドを作ろうと思った理由、3日目です。
「なんでこんなパンフレットを作ったの?」とよく聞かれるので、そのアンサーを書いてみました。マガジンはこちら

4)専門家、素人の困りポイントを忘れがち

これは半分自戒を込めて。

長年専門家のコミュニティの中で暮らしていると、だんだん「基本的なことはみんな知ってて当たり前」「最新の科学的な知見でなければ発信するべきではない」と思うようになりがちです。生き物は環境に適応するものなので、それは仕方ないのですが。

私が大学1年生で初めて神経科学に触れたときは、本当に専門的なことは何も知らない状態でした。「ニューロン」と「神経細胞」が同じものだということを確信するだけで1か月もかかり、そして一緒にテスト勉強をした同級生の大半も同じ状態だったことを覚えています。インターネットがない時代だったので、今ではもう少し情報は手に入りやすいですね。でも、今の知識量と比べれば隔世の感があります。今思えば普通に先生に質問すればよかったのですが、落ちこぼれ学生だったこともあり、勇気が出ませんでした。
なんとか大人になって研究者をやっているうちに、過去の自分が何が分からなかったか、できなかったか、何に困っていたかを忘れ始めていることに気づきました。当時の気持ちや、困っていたことを完全に忘れてしまううちに、書き留めておこうと思ったのもパンフレットを作った理由の一つです。

そして、このパンフレットは「発達障害の当事者に向けて」という建前で書いていますが、本当は、当事者と同じぐらい、医療関係者や支援の専門家にも読んでほしいと思っています。

専門家としては「何でも聞いてよ~」と思っていても、それは相談する側には伝わっていなかったり、何をどう質問をすればいいのかわからないことは多々あります(これは、大学の教員をやっていると本当に多く体験することです)。すでに忘れてしまった、あるいは経験したことのない困りポイントをぜひ追体験していただき、「これ聞いてもいいのかな?」と不安になったり、質問をあきらめがちな私たち当事者に、ぜひお医者さんや薬剤師さん、支援者の方々のほうから「そういえば~は大丈夫?」「~は困ってない?」と声をかけていただければと思います。

5)信じる者は救われる?

現代では、検索すると服薬に対する不安をあおるようなタイトルの本をたくさん目にすることになります。サプリメントや食事で発達障害が「治る」という内容の記事も目にします。そういうものの一部には、疑似科学と呼ばれているものも含まれているように思えます。サプリメントなどとの付き合い方に関するヒントは、パンフレットに書いた通りです

言わせておけばいい、という考え方もあるでしょう。しかし、これらの(多くは根拠のない)不安をあおる情報は、実際に有害なのです。「プラセボ」「ノセボ」という現象をご存じでしょうか。プラセボというのは「プラシーボ効果」という呼び方のほうが一般的かもしれません。本来は薬効がないもの(砂糖でできた錠剤など)を飲んだ時に、薬効があると信じていると、本当に効果が表れるというものです。一方、「ノセボ」は、思い込みにより、本来の薬の作用とは異なるネガティブな効果がでてしまうことです。

一人の生活者としては、ポジティブな効果がより大きく得られたほうがいいに決まってますよね?もちろん研究者の私は、プラセボではなく真の効果を発揮する薬が使われるべきだと考えていますが、それはそれとして、一人の当事者である私が薬を飲むとき、プラセボでもいいから効いてくれ!!と強く思います。だって、せっかく薬を飲むなら、すこしでも楽になりたいじゃないですか。
私は、本来薬で少しでも楽な生活ができるはずだった人が、不安な気持ちが高まりすぎて薬を使えなくなったり、薬によって受けられる利益が減ってしまったりするのを、できるだけ防ぎたいと考えています。

もちろん、手あたり次第薬を飲めばいい、というわけではありません。
特に子供の場合は、環境調整(※参考文献参照)でなんとなるなら、服薬がファーストチョイスにならない場合も多くあります。大人でも、薬の助けを借りたところで仕事や生活の環境があまりにも自分の特性と相性が悪ければ、状況を好転させるのは難しいかもしれません。

でも、服薬する本人が(もちろん主治医と相談のうえで)納得して飲むのであれば。そして、本来は薬が合う体質で、服薬によって少しでも生活が楽になるのであれば。医療や薬を信頼した状態で、安心して薬を飲んでもらうお手伝いができれば良いなと思います。

今日の参考文献

埼玉県の理解促進パンフレット。大人から子供まで、いろいろなシチュエーション別に、対応や環境調整について書かれており、分かりやすい。自分のニーズにあったサポートブックやガイドブックを選んでください。

富山県発達障害者支援センター「ほっぷ」によるパンフレット、「ひとりじゃないよ」。障害福祉サービスや働くことの支援に関してもきめ細かな解説があり(※成人期編)、とても参考になる内容。乳幼児期、学齢期、成人期編に分かれる。

心理療法についての解説書。とても配慮のある書き方をしており、当事者にもおすすめ!

働く大人向け。当事者視点で、仕事や生活の工夫がまとめられているサバイバルガイド。

<つづく>

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