醸造酒の原料
ビール、清酒、ワイン。いずれも、世界中で愛飲される醸造酒です。しかし、同じ醸造酒とはいえ、違いは色々。
今回は3つの醸造酒の「原料」の違いについてお話しします。
アルコール発酵
お酒の原料は、糖分が多い物です。お酒は酵母によってアルコール発酵をして造られます。
そもそも「発酵」とは、微生物がある成分を別の成分に変換させる代謝のことです。発酵の結果得られるものを前につけて「○○発酵」と言います。
「アルコール発酵」ならアルコールができますし、「乳酸発酵」なら乳酸ができるということです。
余談ですが、できたものが人間に有益な場合は「発酵」、有害なものであれば「腐敗」と区別されます。
アルコール発酵の場合、糖分がアルコールと二酸化炭素に変換されます。なので、醸造酒の原料は糖分が豊富であることが条件になります。
穀物が原料の酒
糖分が豊富な原料とは何か。、
3つの醸造酒の原料を見てみましょう。
清酒=米
ビール=麦芽
ワイン=生の果実(ぶどう)
ビールと清酒の原料はいずれも穀物。
穀物に含まれる「デンプン」は多糖類といい、複数の糖がくっついた塊です。一口に「糖」といっても、実は色々種類があります。
◆単糖類…グルコース(ブドウ糖)
フラクトース(果糖)
◆二糖類…スクロース(ショ糖)
マルトース(麦芽糖)
ラクトース(乳糖)
◆多糖類…デンプン
セルロース
ペクチン
もっとありますが、割愛します。「○○ース」というものは大体は糖と思って良いです。
最小の糖が「単糖類」。2つの単糖類がくっついたものが「二糖類」。いっぱいくっついたら「多糖類」。こんなイメージ。
さて、アルコール発酵は酵母の仕事と言いました。酵母は生き物です。なので、ご飯を食べます。ご飯は糖類です。でも、生き物なので、食べ物の好き嫌いがあります。糖ならなんでも良いわけではないのです。
例えば、酵母はデンプンを食べません。そのままでは大きすぎるのです。なので、分解する必要があります。
分解に必要な酵素は、ビールの場合は麦芽そのものに含まれています。清酒の場合は麹がつくる酵素を利用します。酵素の働きにより、デンプンが分解され、酵母が食べられる糖ができるのです。
イメージ的には、ケーキでしょうか。「デンプン」は、ホールケーキ。そのままでは食べられない(食べる人もいるでしょうが)ので、切り分けます。包丁が「酵素」。切り分けられたケーキがグルコースなどの「酵母が食べられる糖」と想像してみて下さい。
このように、単糖類などの「酵母が食べられる糖」を生成する工程を「糖化」と言います。
ビールの場合、糖化が終了してからアルコール発酵をします。糖化した後に発酵させることを「単行複発酵」と言います。
清酒の場合、糖化とアルコール発酵が並行して行われます。これを「並行複発酵」といいます。
果実が原料の酒
一方、果実酒の原料は果実。ワインなら、ぶどうですね。果物ですので、メインの糖はフラクトース(果糖)。フラクトースは単糖類ですので、酵母が食べられる糖。なので、糖化工程が不要です。
糖化工程がないので、製造方法はシンプルになります。アルコール発酵のみなので「単発酵」と言います。
仕舞い
・酒の原料=糖の供給源
・穀物が原料の場合=糖化→発酵
・果物が原料の場合=発酵のみ
清酒は糖化酵素供給源の麹を造る必要があるので、他の醸造酒よりも工程が多く、発酵も並行複醗酵なので複雑な製造工程を踏みます。
一方でワインは造りがとてもシンプルですが、その分畑での仕事がもろに酒質に反映されます。「栽培9割、造り1割」と言う人もいるくらい、原料栽培が重要です。
同じ醸造酒でも、その造り方はまちまち。
文化の違いが面白いです。