愛とかいう猛毒について
愛について考えている。
考えない日はありません、ほとんど。
考えれば考えるほど分からなくなっていくから
「お前に理解できるようなやわな概念じゃないんだよ」と
言われているような気がします。
でもそれで私は安心するんです。
「人生をかけても分からないものが、愛であってくれよ」と
心から思うんです。
だから「愛とは〜である」とか
つらつらと言ってみせる人を見ると
なんとも言えない気持ちになります。
「それは本当に愛ですか?」と尋ねられて
「はい、間違いなく愛です」と答えられる人は
この世界に何人いるんでしょうか。
少なくとも私は答えられません。
「本当に?」と聞かれると
自信がなくなってしまうし、
そもそも愛とかいう巨大な概念の全貌を見渡せるほど
私は大きな存在になれない。
「結果的にそれが愛になっただけでした。
姓名をつけるのにその漢字が最も適したんです」
そう言ってくれる人の方がよっぽど信頼できる。
手渡した愛が原型を留めたまま相手に渡ることなんて
奇跡に近いことだと思うから。
湖の透明度。
舐め合った傷の味。
振り払った温度。
手放した自分の命。
愛と呼びたがる。
みんな、愛だと言いたがる。
呆れるほど充満している。
この星が愛という猛毒で充満している。
むせ返りそうなほどに綺麗な気体が
この星を包んでいる。
肺が蝕まれる季節に
「分からない、と言えるのは知っているからでしょう」
とそれに言われた。
不意を突く言葉に
私の心臓は鼓動を早め、皮膚は冷や汗をかき出した。
そうして徐々に薄れゆく意識の中で呟いた。
「本当はもう考えたくないんです。愛なんて」
私の頬を愛が伝った。