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高尾山ビアマウントに行こうと思ったら京王線が止まってた日、彼女に出会った🌿‬

〈ヘッダーの写真は、高尾山ビアマウント(ビアガーデン)の2階から撮ったもの。緑の尾根が関東平野に向かっておりていく。写真中央やや右寄りの谷あいには、ケーブルカー駅や高尾山口駅周辺の建物が見える〉

                                              (約2,800文字)

その日、私は京王線高尾山口駅に向かっていた。

調布駅で、高尾山口駅までの途中区間が人身事故で止まっていることを知る。

さて、どうしよう。今日は友人とも待ち合わせをしているし…とっさには迂回ルートが思い浮かばない。

改札口に行き、対応に慌ただしくしている駅員さんに早口で迂回ルートを確認する。

京王稲田堤駅まで行ってJR南武線稲田堤駅で乗り換えて、立川駅から中央線経由という迂回ルートで高尾山口駅へ向かうことにした。

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京王稲田堤駅で降りてホームを歩いていると、「すいませ~ん」という声が聞こえたような気がした。

後ろを振り返ると、少し離れた所から車椅子に乗った女性が私を呼んでいるようだった。

「エレベーターのボタンを押して欲しいんです。ここのエレベーターのボタンは自分で押せなくて」

ホームの先端まで行き、エレベーターのボタンを押して一緒に乗った。お話を聞くとやはり迂回して私と同じルートで立川駅まで行くとの事だった。

「それなら、立川駅まで一緒に行きましょう!」ということになった。

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京王稲田堤駅からJR南武線の稲田堤駅に乗り換えるには、5分ほど一般道を歩かなければならない。

並んで一緒に歩き始めたが、速度の合わせ方がわからない。

「もっと速く歩いたほうがいいですか?」と尋ねると

「いいえ、これが最高速度なんです。リミッターがかかっていて、少しゆっくりめに歩く位に設定されてるんです。」

「ホームであなたに声をかけようとした時もどんどん距離が離れて、もう追いつかないかも~って思ったんです。」

「急ごうと思っても急げないもどかしさがあるんです。」

そうだったんだ。電動車椅子は速度を自由にあげられるものと思い込んでいた。

JR南武線稲田堤駅に着くと、京王線の事故の影響で駅務室もバタバタしていた。

スロープ板の設置には時間を要するようだったので、私がお手伝いをすることにした。

駅員さんと実際にどのようなやりとりがあったのかは、聞こえていない。ただ、スロープ板の設置を依頼するだけでも、精神的、体力的な負担になっているだろう事は見ていても伝わってきた。

電車の乗り降りに、こんなに大変な思いをしているのか…。そう思った。

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「バリアフリーって言うけれど、困ることがたくさんあるんです」と彼女。

立川駅までの間、いろいろとお話しした。

そのなかで、「合理的配慮の提供」のことを言っているのだなと思う場面があった。

その時の私は、「合理的配慮」について何となくしか知らなかったので、会話を先につなげることができなくて、少し申し訳なく思った。

私「実は、今日はこれから高尾山に登る予定なんです。」

女性「私は、高尾山に一度も登ったことがないんです。健康なうちに登っておけばよかった…」
「あなたも、元気な時にやりたいことはやっておいたほうがいいですよ、本当に。」

私「高尾山ていろんなルートがあって、舗装された道もあって、車椅子でも行けますよ」

「そうだ、一緒に高尾山に登りませんか?」

彼女は少し戸惑った様子だった。

そりゃ、そうですよね。
さっき会ったばかりの人に一緒に高尾山に登りませんか、なんて誘われたんだから。

よくよく考えれば、彼女のことを何も知らないのに軽率な所があったかもしれない。

立川駅に近づいて来た頃、彼女のほうから「連絡先を」と言ってくれたので、私の名前と携帯番号のメモを渡した。
そして彼女の名前だけを教えてもらった。

「いつになってもいいので、気が向いたら連絡ください」と。

立川駅で別れ、私は高尾山口駅へと向かった。

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なぜ、とっさに「一緒に登りませんか」という言葉が出たのだろうか。乗り換えた電車の中で考えていた。

① 私は自分が大好きな山、いつも元気づけて励ましてくれてきた山だから、その山を他の人にも感じてもらいたいと率直に思ったということ。

② 高尾山のケーブルカーには車椅子で乗車できて、1号路の途中までなら車椅子でも行けると思う。不可能ではないのに行けないって思ってほしくなかった。

③ 駅員さんと話している姿や、お互い会話しているうちにチャレンジする人なんじゃないかと直感的に思ったから。

いずれにしても、言わずにはいられなかったということか。

こんなふうに分析してみたりしたけれど

ただ単に、「一緒に登ってみたい」という気持ちからだったのだと思う。

そして、その他にも言葉では説明できない何かを感じたのだろう。

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その後、友人とは無事に高尾山口駅で合流し山頂に登った。

今回は時間が遅れたこともあって、ケーブルカーで登って、吊り橋のある2号路で山頂へ。帰りは舗装がされている1号路を下った。

そして念願のビアマウントで食事をした。

お腹いっぱい食べてビールも飲んじゃったし、帰りもケーブルカーで下山した。こんな日があってもいいか。

歩きやすく車椅子も通れると思っていた1号路だが、改めて確認してみると山頂付近には階段や急な傾斜が何ヶ所かあり、車椅子では難しそうだった。

ケーブルカー駅の窓口で確認してみたら、階段のない緩やかな女坂の道を行けば、薬王院までは行けるという。

途中には、電動車椅子が充電できるスポットもあるようだ。

ただ、薬王院の大本堂前には階段があって、車椅子では登ることができない。せめて大本堂へのリフトかスロープがあればいいのに。

でも、山頂まで行かなくてもいい景色が望める場所があるし、杉並木の厳かな雰囲気を感じることもできる。そして、新緑や紅葉の季節はとても美しい。

そもそも山頂に登ることだけが山に行く目的ではない。山の楽しみ方はいろいろだ。

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あれから、三ヶ月が経った。

いろんな事を考えた。

これは今後の私の問題でもあると思った。足腰が弱ったり、視力が衰えたり、これまでと同じように外出できなくなる日は、そう遠くはなくやってくるだろう。けがをしたり病気にだってなる。

その時、どうやって大好きな山登りを続けていくのか。

あの日、京王線が止まっていたから彼女と出会えた。

彼女から連絡はこないかもしれないけれど

いつ連絡がきてもいいように、心のなかにずっとおいておくつもりだ。

そのことを、今年のうちにnoteに記しておきたかった。



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