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灰色の空とクリスマスの音

この前、今年初めてのクリスマスソングのアルバムを家でかけた。
実家に住んでいたときは、11月の終わりになって12月のクリスマスの飾り付けを始めると、大体夕食の前にクリスマスソングをCDコンポでかけてその流れからアペリティフを始めて、夕食へと繋がるのが流れだった。
クリスマスソングのアルバムをかけるルーティンはある程度決まっていて、マライア・キャリーは必ず聴く。これを聴くと、「ああ、クリスマスだあ」と季節の雰囲気と一年の時間の流れの速さを実感する。そこから、ディズニーのクリスマスアルバム、Kenny G…と多種多様なアルバムが我が家には揃っていた。

去年から始めた1人暮らし。1年前はほとんど、というか一切クリスマスソングを聞かなかった気がする。もちろんCDコンポがないからとか、CDがないからというのもあったと思うけれど、Apple MusicやSpotifyを通して聞いたりできるのにも関わらず、私は「Christmas song」と検索しなかった。
自分の誕生日がクリスマスなので、それなりにお祝いムードとクリスマスのあたたかい雰囲気を楽しんでいたと思うけれど、音楽は流す気になれなかった。
実家の懐かしい雰囲気を何気なく思い起こさせることもあり、クリスマスの飾り付けもほとんどない1人暮らしのアパートを音楽によって強調してしまうことがなんとなく怖かった。さらにはよく聞いていたクリスマスソングは、小さい頃の記憶も自然に思い起こさせる。
「ああ、この曲が流れたらテンション上がって踊ってたっけ」とか「母のラザニアが食べたい」とか。(ほぼ毎年クリスマス兼私の誕生日パーティーの時のディナーはラザニアをリクエストしていたから…笑)

家族が全員揃っている風景。実家の暖炉の火の香りとワイン、チーズ、父が奮発して買ってきたハモンセラーノ、生ハム、サラダ、クラッカーにクリームチーズが並ぶダイニングテーブル。出来上がるオーブン料理の数々。そして、たまにはご褒美だよねと食後のデザートにケーキを食べたり、この時期は誕生日を迎える人が多いから何かとお祝いにスイーツを食べて食後にはコーヒーや紅茶を楽しむ。
12月になれば、赤いちゃんちゃんこの代わりかのように昔から父はユニクロの赤いフリースをずっと家で着ていた。細身の割に暑がりな父がフリースを着始めると冬がきたなと思うし、小さい頃はそのフリースを着た父とクリスマスソングに合わせてリビングで楽しくはしゃいだ記憶。

時間が経つのは早い。
CDのアルバムを聴いて”懐かしい”と思う日がこんなに早く来るとは思っていなかった。
それゆえに去年の私はクリスマスソングを受け付けなかった。
他のクリスマスのムードは楽しくそれなりに享受した。クリスマスマーケットも楽しんだし、キャンドルホルダーや可愛い置物を飾ったりもした。でも、頑なにクリスマスソングだけは流さずにその季節は流れていった。
人間のメンタルってすごいなとも今振り返れば思う。自分で自分を傷つけると予想したものには全く手出しをしないで、自己防衛する機能がちゃんと備わってる。それは無意識下で行われることで、時間が経ってから初めて気がつく。その時にはわからなかった。

音楽家にとって今は繁忙期。秋に準備したプロジェクトやコンサート、クリスマスやジルベスター時期のコンサートの仕込みと毎日のコンサート。学生はクラスコンサートがあったり、1年の総まとめをする時期でもある。私も例に漏れず、連日のコンサートとリハーサル、それに伴う事務作業や自己研鑽、練習とスケジュール帳はぎっしり。分刻みまではいかないけれど、昼食や夕食の時間を確保するのがちょっと難しいくらい毎日走り回っている。
クリスマスの雰囲気をほとんど味わうことができないまま、12月中旬になってしまった。どうかすればもう20日になってしまったので、下旬も近い。
去年は外でクリスマスを感じていたけれど、今年はそういうわけにはいかないようだ…と思い、かといって自分のアパートを飾り付けしようにも日中は学校に缶詰になっているし、1人で盛り上がるのもなんだか寂しい。
そこでやっと思い出したのがクリスマスソングだった。

ちょっとかけてみるか。そう思って懐かしいマライア・キャリーを検索した。昔はルンルンで聴いていたかもしれない曲がこうして感慨深く、過去の思い出に浸る曲になるとは。スケジュールに忙殺されることで記憶の蓋を固く閉ざしていたのか、と自分の防御力の高さを思い知った。
でも、不思議と悲しくなることはなかった。
もう戻れない記憶が蘇ってきたとしても私の時間は進んでいくし、何もこの音楽は私の思い出が詰まっているもので、永遠にあの時の時間は保存される。
もしかしたら大人になるってこういうことなんだよね、ともうすぐ24歳の誕生日を迎える冬、音楽を聴きながら久しぶりのクリスマスソングに浸った。

日本の冬のように太陽の日差しがさすことがほとんどないドイツ。友人たちがビタミンD!ビタミンD!Sonne!と騒いでいるけれど、私にはクリスマスソングの方が心と体の栄養かもしれない。
ちょっとノスタルジックな気分になるけれど、日本の実家の風景と永遠となった思い出をそっと心に留め置きながら夜のキャンドルと共にクリスマスソングを楽しむ。
いつかはこのノスタルジックな気持ちも上書きされていくのだろうか。
華やぐホリデーシーズンの反対側を見つめながら、静かにクリスマスを迎えようと思う。

Frohe Weinachten!🎄

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