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わたしという誰かの演劇_011

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  魂のかたちって考えたことありますか、魂のありかとか、魂があるとかないとかじゃなくて、魂のかたち、魂にかたちなんてあるのかないのか、って、またそうやって考えはじめちゃうといっこうに考えることができませんね、魂のかたちのこと、地球も丸いし太陽も丸いし、魂も丸いって感じでイメージしてたんですけどわたしはいままで、「丸い」っていうか「球」ですね、魂は球、そんなわたしのぼんやりしたイメージを前にして、出てきたんです意外な意見、魂はひも、ひも、ひも状の魂、なんでですか、超ひも理論じゃないですかそれ、いやいや「超ひも理論」って、物理学なんてなんにもわかなんないくせに言いました、言いたくなるじゃないですか超ひも理論、わたしこのあいだ美術館に行ったんですね、展示の終わり、いろいろ見てきて最後に流れてた映像の中で、子供たちが話してたんです、魂のこと、魂のかたちについて、で、小学生くらいの子たちがお互いに意見を出し合ってて、ある女の子が言ったんです、わたし魂はひもだと思う、考えたことなかったです、魂はひも、ひもだとしたら長さがあって、つかんだり、結んだり、なにかを縛ることだってできるでしょう、悲しいことがあったら切れてしまうかもしれない、バッグの中に放り込んだイヤホンみたいにこんがらがった魂をほどくのはなかなかたいへんです、ひもとひもとを編み込んでいったら布ができますね、縦のひもはあなた、横のひもはわたし、って、どこかで聞いたことあるような話にもなってきますが、ひもじゃあなんだか締まらないなぁ、締まっていこうぜ締まって、って、わたしは魂にかたちがあるとは思っていません、わたしは魂は〈名前〉だと思っています、名前というか言葉、ひとつながりの世界を言葉で切り分けたとき、その切り分けられたひとつひとつに魂が宿る、って感じかな、魂、イコール、名前、大きな大きな一枚の布から引き抜いた一本の糸、それを布とは違うものだと認識した瞬間に名前がついて、今度はその糸を束ねて丈夫にしたものを、ひも、と呼ぶこともできるでしょう、わたしはそのひもで読まなくなった本をまとめて縛ってゴミ捨て場に放り投げる、通りかかったあなたがそのゴミを見つける、読みたい本が見つかってゴミの山から拾い上げたとき、その本はもう、ゴミとは呼ばれない、あなたのもとで息を吹き返す、魂ってそういうものかなって思う、扉を開いて最初のページ、黄ばんだ紙に書かれたタイトル、誰かがつけた名前からはじまる、途中まで読んでしおりのひもを挿む、読んだところと、まだ読んでないところ、あなたの本です、

 また明日。

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