わたしという誰かの演劇_009
わたしのいるところで、演劇がはじまる。
わたし 腕の中の子犬の真っ白い毛をなでる、眠そうな目、まぶたが落ちそうで落ちなくて、落ちそうで落ちなくて、落ちて、テレビを見てたら彼はもう眠っていた、数式の並ぶ紙に目を落とす、設問の意味すらわからなくて、たぶんわたしは卒業できない、数学できない、留年したくない、でもいいんだ、わたしはこの学校2回目だから、一度は出てるから2回も出る必要ないってわかっているのに焦る気持ちだけ募ってわーっとなって、もちろんそんなの犬の見る夢じゃない、子犬はきっと数学できない、高卒資格も持ってないし、今朝見た夢ってどんなだったっけって思い出すわたしは、ほんとは犬も飼ってない、飼ったことないし、友達の犬をさわるのだってちょっと怖くて、小学生だったわたしのスニーカーをボロボロに噛みちぎった白い犬、友達の家の2階でゲームをしてたら帰るときにはそうなってました、見てるだけなら別にかわいいし、犬が見たいって思って井の頭公園散歩することだってあるくらいなんだけど、さわれなかった白い犬、歩くたびにかかとが光るちょっと珍しいスニーカーを友達のお母さんが買ってきてくれたのはあの犬のおかげに違いなくて、かかとが光る分お詫びの気持ちが光ってたってことかもねあれはきっと、高校生になってその友達とも会わなくなって、あの犬ももうとっくに死んでいないはず、犬のいなくなった犬小屋にはいらなくなった犬のものや、必要だと思って買ったのにあんまり使わないまま必要なくったガラクタが、雑然と放り込まれているだろう、物置きみたいになった犬小屋は片づけられずにおなじ場所にある、玄関の左手、友達の家、裏手は全部墓地だったけどそれは全然怖くなかった、うらが墓地だと陽あたり良好、そうだ、ボロボロになったスニーカーは、犬が噛まなくたってすでにずいぶんとボロボロだったっけ、あれはいちおう持って帰ったのかな、憶えてない、眠る子犬はどうしたらいい、わたしは知らない、犬なんて飼ったことないから、子犬が腕の中で眠ってしまったら、子犬をどうして冷蔵庫まで向かったらいい、冷えたコーラが飲みたくなったら、どうやって、わたしは犬をどうしたらいい、友達の犬はペロっていうんでした、雑種で短毛、室外犬、わたしの子犬は毛が長くて、数学ができなくて、高卒資格も持ってない、新しいスニーカーは古くなったら光らなくなった、わたしの腕の中に子犬はいない、自由な両腕を机に伸ばしてキーボードを打つ、モニターの中に白い犬がいる、
また明日。
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