夢のアルベロベッロで気ままなトゥルッリ暮らしも楽じゃない?
今回の旅ではパートナー(以下、モニちゃん)の父型の実家であるナポリに長期滞在しているのだが、番外編として数日だけプーリア州のアルベロベッロに国内旅行をした。
きっかけは僕らが旅程を練っていると、モニちゃんのパパ(以下、エンツォ)が、
「アルベロベッロめっちゃキレイ!ナポリからすぐ行ける。友達がいるからそこに泊めてもらったらいい。(おもむろにその友達に電話しはじめる)オッケーだって!」
といったノリで、僕らがアルベロベッロになにがあるのかもわからないままにエンツォはディールを取り付けてくれた。どのみちイタリア国内でどこかしら小旅行はするつもりだったので、せっかくだから行ってみようとなったのだ。
アルベロベッロはナポリから電車とバスで4〜5時間でいける。ググってみるとなぜかバスが一番安くて早かったので、イタリアのバス会社『Itabus(イタブス)』でアルベロベッロに向かった。
目的の駅に到着すると、エンツォの友達のサルバトーレとその妻ダニエラが車で迎えてくれた。蛇足だが、ナポリは道が細く交通量も多いのでほとんどの車がコンパクトカーなのだが、サルバトーレの車はステーションワゴンだったので、ああ田舎に来たんだなとここで実感できた。
アルベロベッロは『トゥルッリ』という石造りで円錐形の屋根が特徴の住居が世界遺産になっていて、僕らが泊まるサルバトーレの家もトゥルッリだった。近所のB&Bの口コミを見ると「トゥルッリに泊まる夢がかないました!」的なコメントが多数寄せられていたので、旅行好きにとってはたまらない体験を僕らはタダでできるようだ。
サルバトーレ邸は彼らの息子とダニエラの両親との3世帯住宅(+猫6匹)で、それでも手狭ではない間取りと、ゲストルームも2つある立派なお宅だった。敷地内を案内してもらうと、彼の収集する骨董品のための部屋や、趣味のクラフトをするためのガレージ、トマトや果物の自家栽培などなど、田舎暮らしのお手本のような構成になっていた。
一息ついたところで、アルベロベッロの中心地を案内してくれるという。またステーションワゴンが出動するのかと思いきや、中心地はナポリ同様ごちゃごちゃするためか、別のコンパクトカーに乗り込んで現地に向かった。
アルベロベッロの中心地は賑やかで垢抜けた観光地で、白川郷のようなど田舎だと思っていた僕のイメージを覆す盛況っぷりだった。
驚いたのは町の統一感で、京都とか芦屋なんて比じゃないくらいどこをとっても景観が絵葉書のようだった。聞くとトゥルッリは新しく建てることができず、丁寧に修理しながら使っているらしくこの景観が保たれているようだ。
京都や芦屋というよりも、僕が以前住んでいた尾道の方が近いと思った。尾道も山肌に建ち並ぶ古民家は重機が入り込めず新築ができないので、映画にもなるあの景観が保たれている(だったと思う)。
僕もモニちゃんも観光にはさっぱり興味がないのだが、ここまで統一感があるアルベロベッロの町並みには心底感心した。世界遺産とか好きな人にはおすすめ。
サルバトーレのアテンドでゆっくりアルベロベッロ観光をしていたおかげで、この日の晩御飯はなんと22時(イタリア滞在で最遅)になってしまった。
夫婦の行きつけのピッツェリアでピッツァをいただいたのだが、なんとこのピッツェリアは9月いっぱいで閉めてしまうらしい。詳しい内容は理解できなかったが、この店の大将は40年くらいピッツァイオーラ(ピッツァ職人)をしていて、多い日には300枚超のピッツァを焼いていたそうな。たぶん「さんざんやったし、もういいっしょ」という感じなのだろう(雑)。
かわいいお店だし、味も悪くない(モニちゃんとエンツォのピッツァの方が断然美味しいが)のにもったいない。イタリアでも後継不足は問題になっているのかもしれない。
アルベロベッロ滞在2日目。この日はダニエラのお父さんが93歳の誕生日とのことで、お家のテラスでのプランツォ(ランチ)に混ぜてもらった。聞けばこの家の人たちはサルバトーレ以外みんなベジタリアンらしく、この日の献立も肉はなかった。イタリアでは別々の食事をとるのは珍しくないが、家庭内で肉食がここまで少数派だとツラいものがありそうだ。
食事の前にお祈りをするという。真っ白な家と大量の観葉植物に囲まれた明るいテラスで行われたお祈りは日本で暮らす僕にはあまりにも異国情緒で、最近Netflixで観た映画の『ミッドサマー』を彷彿としてしまったが、食前にミッドサマーを思い出すのは良くないと思い心を無にしてお祈りを見守った。
食後にはアイスでできたホールケーキが出てきて誕生日の歌を合唱。それまでボーッとしていた93歳のおじいちゃんはケーキを目の前にするとシャキっとして
「(ロウソクを)フ〜〜〜〜!さて、人数は1、2、3、4…8人だから8等分にわけて…」
と段取りをし始めた。おじいちゃんの孫にあたるニキは「おじいちゃんは甘いものに目がないんだ。でも糖尿病でね。」とのこと。ふだん節制しているからたまのドルチェに張り切っているようだ。
僕のおじいちゃんも晩年はもっぱらボーッとしていたが、家族や客人が集まるとわずかにシャキっとしていたのを思い出した。
ところでこの3世帯住宅だが、祖父祖母の世帯にとっては晩年を過ごすにはうってつけの自然と設備が整っているし、リタイアしたばかりのサルバトーレとダニエラ夫妻は無限の時間を趣味に費やせる最高の環境だと思う。
ただ息子のニキにとってはどうなのだろうか。僕らが滞在した5日間、ニキは勉強とプレステ5(エルデンリングやってた)をひたすら繰り返しているだけで、単独で外出している姿は見たことがない。完全に余計なお世話ではあるのだがニキはこの生活に満足してるのかなぁ、と邪推してしまった。
長くなってしまったが、アルベロベッロに滞在した5日間は毎日新鮮な驚きがあった。とにかく、サルバトーレとダニエラが親戚でもない僕らにひたすら優しくしてくれたのがありがたかった。おじいちゃんとおばあちゃんはキュートだったし、ニキはこもりがちな生活からは想像できない愛想の良さで接してくれた。あと6匹の猫が可愛すぎた。
僕らにとってアルベロベッロはまた来なきゃいけない場所になったと思う。ナポリから5時間は遠いけど(雑なオチ