なんでもボーノなナポリで、「ボーノ!」と連呼するのは要注意?
ナポリ滞在中は基本的に僕のパートナー(以下、モニちゃん)の叔父叔母の家を拠点にしてあちこち行動している。モニちゃんは叔父叔母の家に宿泊しているのだが、僕は仕事もするのでWiFiと仕事環境が確保できるように、すぐ近所のB&Bを借りて寝泊まり、という布陣だ。
大変ありがたいことに、食事は毎日のように料理上手な叔母のマリアが作ってくれるので、モニちゃんだけでなく僕もマリアの手料理をいただいている。
日本ではモニちゃんとパパ(以下、エンツォ)はナポリの家庭料理レストラン『パポッキオ』を営んでいることもあり、僕もモニちゃんやエンツォの作るナポリ料理を普段から食べていたので、エンツォの姉であるマリアの料理を食べるのは今回の旅でかなり期待していたトピックスでもあった。
で、実際このマリアの料理がシャレにならないほど美味しくて、出てくる料理を食べるたびに僕は目をひん剥いて「ボーノ!(美味しい)」「モルトボーノ!(とても美味しい)」「トゥロッポボーノ!(美味しすぎる)」「ボニッシモ(最高に美味しい)」と連呼している。
僕はイタリア語がさっぱりできないクセにボーノのレパートリーだけは豊富なのはマリアの料理のおかげだろう。
ある日、連日のご馳走ラッシュに胃が疲れたのか、僕もモニちゃんも夜になってもお腹が空かない日があった。マリアには今日は夜ご飯はいりませんと伝えて、僕はスーパーで買った軽いお惣菜を食べることに。
ちなみにこのスーパーのお惣菜はパッケージされたものではなく、お惣菜カウンターでグラム売りしているものだ。異国の地でグラム売りのカウンターに突撃するのは無謀だろ…と思われるだろうが、僕はイタリア語は料理名と数字だけはわかるので、実はお惣菜も買えちゃうのでは?と奮起したところあっけなくお惣菜をゲットできた。
そうして手に入れたインサラータディリーゾ(お米のサラダ)とポルペッテ(肉団子)を食べる準備をしていると、それを見たマリアが「スペツァティーノ(牛肉の煮込み)あるけど食べる?」とのこと。
僕にとってスペツァティーノはご馳走の中のご馳走で、いくら胃が本調子ではなくとも二つ返事で「Si!」と言ってしまった。翌日の朝食抜きが確定した瞬間だった。
結局、その日の食卓にはスーパーで買ったインサラータリーゾ、ポルペッテ、マリアが作ったスペツァティーノ、ズッキーニのマリネなどなど、普段の夕食と同レベルのボリュームとなってしまった。
ここからは僕の怒涛のボーノ連呼タイムの始まりで、スペツァティーノをはじめウンウンとうなるようにボーノボーノといいながらご飯を食べ終えた。
食後に出されたブドウをつまみながら、マリアは何やら僕を鋭く見つめていた。そしておもむろに話し始めたのだが、その内容はなかなかに僕のキモを冷やした。
イタリア語はほぼわからないが、ナポリ人はジェスチャーと声の抑揚が大きいので雰囲気で何を言っているかわかる。このときマリアが言ったことはざっくりこんな感じだろう。
「タイチは何を食べてもボーノボーノというが、今日は私の料理にはボーノと言ったが、スーパーの惣菜を食べたときはボーノと言わなかった。」
要するに「タイチはまあまあ味がわかってるじゃん?」ってことだと僕は理解した。これは危ない。実はスーパーの惣菜はかなり美味しく、ちゃんと覚えていないが日本語では「これは悪くないぞ」くらいのことは言ってしまったと思う。
ただ、スーパーの惣菜もマリアの手料理と比べてしまえば月とスッポンほどの違いがある。僕がもしイタリア語が話せたら早口で「お惣菜もそこそこ健闘したけどマリアのスペツァティーノに比べたら屁でもないね。」と言い訳したのに。
イタリア人(特に南イタリアの傾向だと思うが)は家族や友人に優しいと何かの本で読んだことがあるが、ありがたいことにマリアも僕のことを他人ではなく「姪っ子のパートナー」として見てくれているようだ。
まあ、そうでもなけりゃ言葉も通じない東洋人が毎日のように家にあがりこんで「ボーノボーノ」と大量にメシを食って帰っていくなんてホラーでしかないわけで…
食べてばかりじゃ申し訳ないので食事の準備と片付けはせっせと手伝うのだが、マリアにはマリアの段取りがあるらしく、僕が余計なことばかりするのでこの日も「ウェイ!!」と怒鳴られてしまった。「つぎ間違えたら叩くぞ」とのこと。