イタリア語能力ゼロの僕が発した最も長い文章とその理由
「Mi piace dolce in mattina, pero mi piace salato di più.」
これが僕がイタリアで発したイタリア語で最も長いフレーズだ(文法的に正しいかは不明)。ちょっとカンが良くて、イタリア語と南イタリアの文化がわかる人には、僕がどんな状況に追い込まれてこのフレーズを捻り出したかわかるかもしれない。
逆にイタリア語がわからない人にとってはチンプンカンプンだと思うので、何が起こったのかを順を追って解説してみよう。
前提として僕のイタリア語能力はほぼゼロだった。ゼロだったが、パートナー(以下、モニちゃん)の親戚たちがいるナポリに長期滞在するうちに、ほんっっの少しだけイタリア語を習得できた。
どのくらい習得できたのか僕自身もわからない。わからないけどあえて表現するなら、日本の英語の授業で、中1の2学期の期末テストで40点くらい取れる程度のレベルなんじゃないかと思う。
冒頭の「Mi piace」というのはまさに中1レベルのイタリア語で、「私は好きです」という意味がある。
ナポリに来る前までは「Si(はい)」と「Bene(いいですね)」だけで乗り切る気だった僕だが、いざナポリに飛び込んでみるとMi piaceを使う機会の方が全然多い。
Facebookの「いいね」ボタンもイタリア語では「Mi piace」ボタンらしいので、覚えて帰ってください。(誰に言っているのだ)
次に、ナポリの食習慣について話さなければならない。
ナポリでは朝食は「お菓子と砂糖たっぷりのエスプレッソ」が主流だ。僕も日本にいるときからこの文化をモニちゃんに聞かされていたが、半分冗談だと思っていた。
というのも、モニちゃんはかつて朝ご飯としてラスクにヌテラ(ヘーゼルナッツのチョコクリーム)をベットリ塗って食べていたのだが、その異常行動にしかめ面をする僕にモニちゃんは「イタリアではよくある朝食だよ」と説明していた。僕はモニちゃんが苦し紛れに嘘をついていて、異常な朝食を正当化しようとしているんだと思っていた。
ところが実際にナポリに来てみると、モニちゃんは決して嘘をついていなかったことがわかった。
宿泊しているB&Bには「朝ご飯コーナー」としてお菓子が並んでいるし、ナポリの人々が朝食をとるBar(バル)にディスプレイされているのはカンノーリやスフォリアテッラ、マリトッツォといった夕方のニュースで特集されるようなドルチェ(スイーツ)たちだ。
さてちょっと脱線したが、「ドルチェ」というワードが出たところで本題に戻ろう。日本ではドルチェといえば「イタリアンレストランで食後に食べるスイーツ」のことを指すと思う。
しかしイタリア語で「dolce」はもっと意味が広く、「甘いもの」とか「甘いやつ」という意味があるようだ。(あくまでナポリで生活してみた実感としてそう感じているので、正確な意味は不明だが)
となると「Mi Piace dolce」は「甘いものが好き」という意味になる。
では「in mattina」はなんなのか。これは「朝に / 午前中に」という意味だ。
イタリア語での会話を注意深く聞いていると、わりとしょっちゅう「ドライマティーニ」に似たワードが聞こえてくる。
家族同士の会話でしょっちゅうドライマティーニと言うはずはないので、これは頻出熟語か?と思いそれっぽくGoogle翻訳のマイクに吹き込んでみると「Domani Mattina(明日の朝)」と入力された。こうして僕は「Domani」と「Mattina」を学習したのだ。
ちなみに「明日」は「Domani」だが、「今日」は「Oggi」である。小学館のファッション雑誌は30代向けが「Oggi(今日)」で40代向けが「Domani(明日)」となっているようだ。
つまり前半部分の「Mi piace dolce in mattina」は「私は朝に甘いものを食べるのが好きです」という意味になる。
賢い人ならばここで「お前、モニちゃんが朝にヌテラ食べてるのを異常行動とか言っておいて何を言ってるんだ?」と思うでしょう。
だが、さらに賢い人はこう思うはず。後半部分の「pero mi piace salato di più.」の「pero」は逆接接続詞なのでは?と!
これはその通りで、「pero」は英語でいう「but」のような役割らしい。カタカナのような発音で「ペロ〜」と言うので聞き取りやすい。
ここまで解説すると全貌がつかめてくると思う。僕は黄金のテンプレートである「キリンさんが好きです。でもゾウさんのほうがもっと好きです!」をイタリア語で表現しているのだ。
後半部分のmi piaceでは「salato」を好きだと言っているが、これは「しょっぱいもの」という意味だ。バルで食べ物を頼もうとすると「ドルチェかサラートどっち?」と聞かれるので覚えた。
そして最後に残った「di più」は「もっと」の意味だ。つまり、僕が発した最も長いイタリア語は、
「Mi piace dolce in mattina, pero mi piace salato di più.」
「私は朝に甘いものを食べるのが好きです。でも、しょっぱいものがもっと好き。」
という意味になる。
これはある朝に僕がスーパーでハムとチーズを買い込んで、パンに挟んで食べていたところ、イタリアの親戚たちから「朝はドルチェだろ!」と総ツッコミを受けたとき、僕が捻り出したフレーズだ。
いつかイタリアの親戚が日本に来たら、ご飯・味噌汁・焼き魚・納豆の朝ご飯を用意して、ニヤニヤしながら「Ti piace?(好き?)」と聞いてやりたい。