Z世代からX世代へのリバースメンタリングとメンタルヘルス【元外交官のグローバルキャリア】
仕事を通じて知り合った親子ほど歳が離れたZ世代とたまにご飯を食べる。自分が社会人人生を送ったくらいの年月を生きてきた相手に、昭和な自分が説教したり訓示を垂れる場ではない。若い相手に感心したり、その話から学んでいる。ある時、これがリバースメンタリングなのか、と気付いた。
逆の立場で言えば、Y世代のエイドリアンをメンタリングして8年目だ。当初は彼女の話を聞いて、上司との付き合い方や彼女自身ののマーケティングの仕方のアドバイスをしていたが、ここ数年はお互いがお互いをメンタリングしている感じになってきた。
Z世代とメンタルヘルス
20代のリバースメンターは言う「私達Z世代が持ち込んだ良いものにセラピーがあると思うの。(The one good thing that we Gen Z's introduced is therapy)」と。アメリカ人の彼女は以前は私の部下だったがお互いその職場を離れたから、もはや主従関係はない。正式にリバースメンタリングを頼んでるわけではなくて、ただ一緒にご飯を食べている。そんな最中に新しいネイルサロンを見つけたの、というように「セラピーを始めたの(I started therapy.)」と言う。「どう?(How is it?)」と聞くと、「やっぱり良いよ(It's good.)」と答える。アメリカにいるセラピストとオンラインでやり取りをしているらしい。
メンタルヘルス カウンセリング、いわゆるTherapy
アメリカのTherapistセラピストは、カウンセリング修士取得後実技と筆記試験を経て認定カウンセラーとなる。その中にはメンタルヘルスに特化する Mental Health Counsellor (L-MHC)、ソーシャルワーカーとして行政とつなぐ役目のClinical Healthcare Worker (MHSW)、心理学博士 Psychologist (PsyD)や精神科医 Psychiatrist (MD)がいる。Y世代のエイドリアンも同じく「セラピーを始めたの」と語っていた。
「セラピーって歯石クリーニングみたいなもの?Is therapy like getting your teeth cleaned?」という私の質問に、Z世代はちょっと考えて答える。「"It's more like cleaning out your closet. You have to put in effort to make it work… 違うかも。歯石クリーニングは受動的じゃない?セラピーはタンスの整理みたいなものだと思う。能動的に自分から問題を提起してそれを解決しようと取り組まないと片付かないの。放っておくとぐちゃぐちゃになるのを定期的に中身を取り出してきちんと仕舞うの。そうするとスッキリして必要なものが取り出しやすくなるでしょ。..you feel good after the closet is organized and things are put into its proper place.」
エイドリアンもリバースメンターも、精神的にも成熟していて、同僚や部下としても申し分ない、一緒に過ごしていて心地よい人たちだ。いわゆるメンタルヘルスカウンセリングとは縁遠そうな人たちだ。エイドリアンの医療保険は毎週のセラピーが保険適応内で自己負担無しだそうだ。日本で言うところの心療内科のカウンセリングで、それをこんなに気軽に受けている日本の人を知らない。
メンタルが強いZ世代部下
シカゴにいた時も、新卒の23歳のアメリカ人部下が自分の好きなドラマを語るかのように「セラピーは良いよ。(I am a big fan of therapy)」と言っていた。即戦力になった彼女のメンタルがどのくらい強いかは、採用して半年経ってから知った。
彼女の採用面接はあまりにも自然で緊張していなかったことが決め手になった。面接の日程調整の連絡が途絶えたから何が起こったかと思った数日間はあった。彼女が応募時に連絡が一時期途絶えた理由は、親友の入院先に付き添っていたから携帯の電源が入れられなかったためだと言う。闘病の末に親友が亡くなった。訃報の数日後の面接では、何よりも涙をこぼさない事に集中していたから「I was trying hard not to cry. That is all I focused on. それで緊張していなかったんだと思うわ。」と明かした。
Z世代とは、すべてが自分と自分の感情を中心に世の中が廻ってる世代だというバイアスがあった。面接のやり取りのメールでも、親友が闘病中である、とか、面接の最中でも「涙をこぼしたらごめんなさい」と言うものだと思っていた。それが、こちらから持ち出すまで半年もそのことに触れなかった。
ひょっとしたら、そういう話はセラピストとしていて、頭の中のタンスが常に整理されているのかもしれない。自分の感情と向き合って、認知を修正し、笑顔で前を向いて行動しているのかもしれない。
X世代もセラピーを受けたい
現在私もアメリカのセラピストにオンラインでセッションを受けている。人の話をじっくり聞いてくれて、思考を言語化して、枠組みを整理して、別の角度の視点を加えて、クライアントの認知を整えて行動を促す。タンスを空っぽにしてから、再度中のものを詰めていく作業を協働する。
Z世代やY世代から何度も持ち出されなかったら、やってみようと思わなかっただろう。彼女たちほど定期的には受けられていないけど、開始したことに意義があると思う。これもリバースメンターたちのおかげだ。
リバースメンタリングもセラピーもお勧めします。