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パワハラ上司から学べるスキル

社会人を10年やってから役所に入って、世の中には理不尽に怒鳴ったり怒ったりする人がいることを初めて知った。

役人になる前から正社員としてそれなりに失敗する場も叱られる機会も充分にあって、自分なりには憤慨したり嫌だと思うことを仕事上で経験してのことだ。

役人はよく頭ごなしに国会議員に怒られることで知られる。
でも縦社会の役所の中でも、こちらに説明も反論の余地も与えられず威圧的に叱られたり、箸の上げ下ろしを責められたり、人格否定と共に怒鳴りつけられたりすることがある。


パワハラ有名人と百戦錬磨な打たれ弱い子

部下を数名潰してきたことで知られるパワハラ有名人もいる。そこまでではないけどパワハラで名が通っている人、知る人ぞ知る理不尽な要求をする上司もいた。あまりにもバラエティに富んだパワハラ上司に仕える機会があって、仲良しの同僚に「百戦錬磨」と称された。もちろん、パワハラに関する内部査察やヒアリングもたくさん経験した。ちなみに私は打たれ弱い。誉められて伸びる子だ。

それで外務省を辞めたのかというと、そういうことではまったくない。

捨てる神あれば拾う神あり、で挫けそうになるときに救いの手を差し伸べてくれた先輩や、ただただ立派な大使や局長、こちらを慮ってくれて行動に移してくれる上司にたくさん巡り合った。外務省には本当に良くしてもらった。

パワハラ上司になんて出会って良いことなんて微塵もない、と思っていた。出会わないに越したことはないとは思う。「あのパワハラ、モラハラをどうにかしてください」と話しやすいけど事勿れ主義の上司に愚痴めいて訴えてみると「そういう上司に一番鍛えられた」とか「アンガーマネージメントが出来ない人も受け入れるべきだ」とか返されて、なんだそれ、と思って凌いでいた。 

過度のパワハラをする人は、自己肯定感が低かったり承認欲求が歪んでいて「俺様を誰だと思っているんだ!」という、アンガーマネージメントが出来ていなくて本人も苦しんでいるある種の発達障害があると思っている。

だからこそ、パワハラ上司に出会わないことには越したことがない。しかし、なんとその苦境に耐えて得たものがあった。

お伺いを立てるタイミングに敏感になった。

上司でもクライアントでも取引先でも何かものを伝えるにはタイミングというものがある。何曜日の何時、休暇明け、繁忙期、こういうことを意識して仕事をしなくてはならない。それを身体で覚えた。
金曜日の午後3時頃に決裁書をインボックスに入れると雷が落ちる上司がいた。自分は早朝から来て決裁書を見ているのだ、なぜこのタイミングで決裁を求める!と。今ならその気持ちはわからないでもない。

説明に行く時の予習や資料を万全に。

何を聞かれてもその場で答えられるように準備をするようになった。目から鼻に抜けるキレるけどキレやすい人が上司だった。説明が的を射ていないとイライラしてくるのがわかる。
直前に同僚が突き返されていた後に部屋に入るとこちらの重箱の隅まで突かれる。だからまずは、部屋に入る順番やタイミングを意識する。
機嫌が悪くても、こちらが飛んでくるどの質問にも答えられ、さまざまな想定をして資料さえも取り出していくと、段々と機嫌も落ち着いてくる。そして「まあいいんじゃない」と許可をもらって退出ができる。事前準備の重要性もおかげで体得した。

過度な要求には自ら応えず、諦められるくらいの期待値の立ち位置で。

自分の仕事は、自分の判断で能動的に進める。どうせいずれは何かにつけて怒鳴られるのだから、地雷を踏まないようにと慮るよりも、仕事内容で勝負する。もちろん、要求の高い優秀な上司はこちらの仕事が完璧だとは思ってはいないだろう。でも「まあ、いいか」と思わせるくらいやることはやる。「これ以上言っても無駄だ」と思わせるという手もある。言われてもいないのに忖度するとその度合いが増すだけだ。だからパワハラ上司からの指示は指示通りにやるけど、指示以上のことはしない。無駄に頑張らずにやることはやる、自分を守るこの姿勢はその後も生きた。

エビデンスでパワハラ武装する。

パワハラ気質の人は弱い者いじめ気質であったりもする。だからターゲットにはならないように毅然と接する。服従しないどころか、こちらに反撃されるかも、という気配を匂わせる。それには、パワハラ記録を日時、事実関係、語録として手元に残しておく。感情的にならずに仕事上の関係と割り切った上で、周りには日頃から相談しておく。権力のない自分でも、身を守る術はあるという認識だけでも強くなれる。
ただし、パワハラと思った発言内容を記すと、上司が言っていることが正論だったり素直に聞くべき助言であることに気づいてしまったりもする。

自分を追い詰めないように自分の世界を持つ。

マインドフルネスを勉強したり、瞑想講習に通ったり、ヨガのインストラクター資格を取ったのもパワハラ上司のおかげだろう。仕事中にも呼吸法や気を鎮めるツールを持っていることは助かった。追い詰められないように、引越しても積極的に仕事以外の友人や趣味を持った。先輩から「一任地一芸」という言葉を教わって、サーフィン、乗馬、ヨガやボイストレーニング、と忠実に貪欲に実行した。付き合いが仕事以外で広がっていると、職場での辛いことに意識を集中しなくなる。

パワハラ上司にも良いところはある。

異動前の最後の挨拶では、良いところ、良い経験だけに意識を集中して上司に感謝の思いを伝えた。嘘でもおべんちゃらでもない。恨み言や嫌な思いをしたことは全て頭の中から取り払って、真摯にお礼を言った。だから記憶の中ではパワハラ有名人も色々と教えてもらった素晴らしい上司だ。

記憶の深層部分はさておき。


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