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【#一日一題 木曜更新】瀬戸内の温暖さは、素人仕込み味噌にはデメリットかもしれない

山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に1度木曜日に更新します。

ああ、やっとなくなった。

ホーロー容器から最後の味噌をすくい、味噌汁の鍋に落としながら私は安堵した。2023年2月仕込みの手前味噌をようやく使い切ったのだ。

基本的に大豆1キロに米麹1キロ。年によって米麹を倍の2キロにしてみたり、また1キロに戻してみたり。現在は岡山暮らしだが、それ以前に関東に住んでいた頃から、2年おきくらいに味噌仕込みを楽しんでいた。

生まれて初めて手前味噌に挑戦したとき、わたしは手数の少なさに拍子抜けした。茹でた大豆を潰して、塩と米麹に混ぜる。おしまい。1キロの大豆を茹でる工程がいちばんの手間で、わが家サイズの圧力鍋では3回転以上させないと終わらない。でもそこさえクリアしてしまえば、残る工程は決して難しいものではなかった。
そして、出来上がった味噌の味の素晴らしいこと。味は濃いのに塩分がまろやか。うまみが複雑とでもいうのだろうか、そのままつまんでも「しょっぱ!」とはならない奥行きのある味だった。

しかし瀬戸内暮らしになってから、どうも手前味噌が満足ゆく出来にならないのである。

岡山手前味噌1年目。岡山は冬でも温暖。それが発酵に影響しているのかこれまで作った味噌とは違う甘さで、ほんのり酸味も感じる味になってしまった。でもまあ、食べられないことはない。1キロもの大豆、ムダにするわけにはいないので市販の味噌と合わせつつ、いつも通りに使い切った。

岡山手前味噌2年目。昨年の失敗は避けるべく、わりと頻繁に容器をのぞいて世話をした。単なる麹と大豆のにおいから味噌のにおいに変わってゆくのを確認しながら、よしココだというタイミングで常温から冷蔵庫へ移した。が、しかし、昨年ほどではないものの、やっぱりほんのり酸味を感じる甘い味噌になった。うーん、これはうちの常在菌の仕業なんだろうか。

その後は1年おきくらいに、大豆や麹の配合を変えて試しているが、どうしても関東の家で作っていた味にはならない。
ん?  関東の家は積雪が珍しくないほど冷える地域、おそらく発酵の進み具合は岡山のそれに比べたらスローペースなのではないかと、そう考えると合点がいった。発酵の過程は早すぎるとよくないはず。

食品会社のように低め安定の温度を保てる部屋があれば最高だけど、あいにくわが家は狭いマンションである。味噌は北側の部屋へ置いているが、真冬でも味噌が好むような「ひんやりした気温」にはならないのだ。
瀬戸内はあたたかい。でも素人の味噌仕込みにとっては、その暖かさがどうやら味噌樽にいたずらをしてしまうようなのである。プロは知らんけど。

そんなことに気がつき、今年の2月は手前味噌をやめてみた。市販の味噌、おいしいものがたくさんあるなあと小さなパックを試す日々で、もう別にわざわざ手前味噌しなくても、じゅうぶん幸せな毎日だ。

産直市場で手に入れた香りのよい味噌とみりんを合わせて、わたしは鰆のための味噌床をこしらえた。まんぞくまんぞくと思いつつ、食器棚の上で埃をかぶったプラ味噌樽にちらと視線を送ってしまう。


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くにとみゆき(牡蠣ミユキ)
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