ブルーベリー(狩)
苺に林檎、葡萄、梨、さくらんぼにメロン。
人生で果物狩りをしたことはなかった。
行きたいねと盛りあがるときは、すでにシーズンを過ぎているか遠方だった。夏も冬も遠出することなくちょっとしたイベントに飢えていた。
お盆はどこにも出掛けないのかとブツブツ言ってみる。待ってましたとばかりに、車で1時間のところにブルーベリー摘みができる場所があると言うではないか。
お盆にも営業していて予約も不要。ありがたい。天候が不安定ではあったがとりあえず行ってみることにした。
念のためブルーベリー園で検索し注意事項を確認する。心配性はぬかりない。
・動きやすい服装、靴
・帽子などの紫外線、熱中症対策
・ハンカチやタオル、汗を拭くもの
・黒い格好には蜂がよってくる場合もある
・各自虫対策を
当日の朝、準備している夫は全身真っ黒だ。お主が注意事項を読まない人だと知っているぞ。とにかくTシャツは着替えたから良いだろう。
娘も乗せて無事に出発した。
お盆は昼食難民になりやすい。
蕎麦がいいと意見が一致しグーグルマップで検索すると、ピンとくる一軒がヒットした。嗅覚にはわりと自信がある。
すんごい細い道をくねくねとのぼる。いくつか手づくりの木の看板が地面に刺さっていた。『そば』と矢印だけがペンキで書かれている。これは間違いないと期待値はうなぎのぼり。
11:40 やっと到着。駐車場は他県ナンバーと高級車が並んでいる。
入店すると、すでに満席で10分から15分は待つと説明を受けたあと奥に通された。囲炉裏のある部屋の壁にはハンドメイドの布のバッグや木工が飾ってあり、この懐かしさはやたらと落ち着くねと娘と話す。
12時頃、名前を呼ばれ席に案内された。窓際で大きめの扇風機が静かにまわっていて心地よい。そば茶をすする。そのうち天ざるが運ばれてきた。
王道の海老天はないが、天ぷらの仕上がりが素晴らしくて家族一同大満足だった。なかでも棒状で白っぽいすり身と思しき天ぷらが初食感で印象に残る。次々に来店する客とたまに鳴る電話。予約は受けず、来店順に案内すること。蕎麦がなくなり次第閉店する旨を説明している。随分と食い下がる電話の相手に同じことを繰り返す。繁盛店とはそういうものだ。次から早く行って食べようと思えるひとは食いしん坊。食べてみたかったけど予約もできないし電話の対応も良くないからもういいと諦めるとたどり着けない店がある。今回はたどり着けてよかった。
会計時にすり身の天ぷらのことを訊いてみるとエソのすり身だった。
エソ!と思わず聞き返したくらいびっくりした。食べるにはイマイチだけど手間をかけてすり身にするとおいしい魚の代表。山芋入りのふわっとした感触だったけれど、つなぎも少しの粉だけ。すり身にするだけの量と手間を考えると気が遠くなる。
ついついうまいものの話は長くなるのが常だ。
腹ごしらえもすませ準備万端の3人はブルーベリー摘みへ!
標高423m 山茶花高原の近くにある横林ブルーベリー園。
入園料を支払いカゴを借りて園主のあとをついて行く。
種類が豊富で味も異なる。完熟の見分け方や特徴を聞いていた。あと虫や鳥がついばんだものや避ける形状も教えてくれた。
無農薬栽培です。その場で摘んで味見をしてみてください。
その一言に俄然やる気をだす摘みびとたち。
驚いたのは種類によって甘みや酸味がわかりやすく違うことだった。
摘みだしてしばらくすると、ぽつぽつとしてきた。
すぐにざぁーっと降り出し、あわてて車に戻る。
喉も乾いていたので水分補給をし雨がやむのを待つ。
フロントガラスに雨粒が落ちてこないのを見計らい急ぎ足で摘みに戻る。こういうときの行動は素早い。最近の大雨続きで完熟のブルーベリーは樹木の根元にたくさん落ちていた。天候と直結する仕事なのだと現実を視る。
蜘蛛の巣にのる雨粒
腕を伸ばし採るような高い場所は、お日様を浴びておおきく実っている。すこしほくそ笑み背伸びしながら摘んだ。一心不乱。向こうからそろそろ行こうかと声がする。集まってカゴの収穫量を見せ合うのもたのしい。
屋根のある場所までもどり、パックに詰め計量し料金を払う。
10円単位は全部切り捨てだ。(釣り銭を考えると合理的で客もよろこぶ)
ちなみに写真の2パックで1100円。
帰宅してボウルに水をいれブルーベリーを洗う。
水分を拭き取り選別し、生食用、ジャム用、冷凍に分ける。
せっかく生のおいしいブルーベリーがあるのにお菓子づくりを控えているのが何よりも悔しい。来年もまた摘みに行けばいい話か。
少量だけジャムを炊いた。
砂糖は30%、すぐに食べきる量なので糖分は低め。昔、産直で買った生のブルーベリーで作ったジャムよりはるかにうまい。ジャムのとろっとした部分は甘酸っぱくて、果実の部分が甘いのだ。腕を伸ばしつま先立ちした甲斐があった。
視力が回復すればうれしいし、しなくてもおいしいブルーベリー。
2022年の夏の1ページ。