営業電話の中の人
必死の就職活動の甲斐あってありついた在宅の仕事が、今月から始まった。仕事内容は店舗向けのとある商品の営業電話。様々な業種や店舗のオーナーへ架電し、ポータルサイトへの掲載と引き換えに商品のモニターを依頼する。受電の職歴は11年ほどあるが、架電の仕事は意外とこれが初である。
架電対象になる業種は多岐に渡り、毎朝割り振られる架電リストには飲食店やサロンは勿論、建設業や士業まである。あのうざい営業電話ってマジでのべつまくなしなんだな……と新たな世界を覗いた気分になった。
しかし、今や私もその「うざい電話の中の人」である。面の皮を踵の角質ぐらい厚くして電話をかけまくるのが仕事だ。
「お世話になっております~! 今回〇〇県の××業を弊社のWEBサイトに無料で」
「間に合ってます」
ブツッ!
ですよね~。次いこ次!
架電のあとは「NG」「留守電」など結果をツールへ入力し、また次の架電へ。この結果入力ツールがまたよく出来ていて、見習うべきところがあるな。と思わされるほど簡単な文言の入力だけで済むようになっている。
電話をかけてみると、圧倒的に留守電が多く仕事は結構ラクだ。たまに繋がってもガチャ切りか開口一番の「うちは間に合ってます」系が多くこれも楽。そういう顧客へ食い下がって引き止めても契約に繋がることは稀なので、さくっと電話を終わらせる。時間あたりの架電数も実績としてカウントされるからだ。
とはいえ、私は現在研修中で準稼働の身。一定の契約数ないしオーナーへのアポイントを取れなければ研修が終わらず準稼働から本稼働に入れないので稼ぎにならない。なのでこちらのペースに持ち込める顧客を嗅ぎ取る勘が求められる。
気弱そうな顧客に当たった時はラッキーだ。強引にトークスクリプトを捲し立てれば、こちらの圧に飲まれて契約まで漕ぎ着けられることが多い。相手に質問させる隙を与えないのがコツだ。(綺麗な言い方をすれば「お客様にお時間を取らせないようにする」といったところか)
次に狙い目なのは、偏見だが関西地区の顧客。こちらに負けじと先方の圧も強いが、「無料」を強調すると前のめりで話を聞いてくれる顧客が多いように感じた。ただしポータルサイトへの掲載内容のヒアリングに手間取ると面倒臭がられて途中で匙を投げられてしまうので、相手と呼吸を合わせてテンポよくスクリプトを進めるテクニックが求められる。
あとは、契約には繋がらないが店舗従業員の中でも若い人が電話に出た場合。決裁権がないのでオーナーに繋いで貰う必要があるが、年配の従業員よりも丁寧に接してくれてアポイント獲得に繋げやすい。最近の若い人は優しくて助かる。
正直なところこの仕事、社会の何かに貢献している気は全くしないがそれがかえって気楽でいい。面の皮の厚さにも自信はある。物書きの癖して私はわりと感情が鈍麻なのだ。受電業務で鍛えた滑舌も私の武器だ。営業電話の中の人、向いてるかもしれない。